江戸川の告白
東京に戻ってからは、ISS内は大騒ぎだった。
強襲係はもちろんの事、全ての係も銃器を準備する事になった。
矢上曰く、警視庁も防衛省もあまり乗り気ではないそうだ。
警視庁で唯一話を聞いたのは公安四課だけだったし、防衛省というか自衛隊は戒厳令も無いこの国じゃマトモに動けない。
……実際に事が始まらないと。
警察は斎藤達の捜査はするようだが、期待は出来ない。
実質、今動けるのはISSだけだ。
慌ただしく動く局員を、くたびれた俺達は缶コーヒーを啜りながら眺めていた。
俺はありがたいことに『日本ISS本部強襲係特別顧問』とかいう、肩書を拝命し矢上とほぼ同等の権限を貰う。
矢上は強襲係主任として、右往左往。
いつの間にか、もうすぐ日付が変わろうとしている。
「赤沼さん。そろそろ寝たほうがいいんじゃないですか?」
「いや、まだ寝れん」
ポケットから携帯を出し、俺は唯一無二の相棒マリア・アストールに電話を掛けた。
四コール。
『浩史? どうしたの?』
銃の発砲音が微かに聞こえる。射撃場に居るのだろう。やっぱり、アメリカ時間の今頃はマリアは格闘練習を終えていたはずだ。
「お前。これからの予定空いてるか?」
『え? ちょ、ちょっと待って』
微かにマリアの呟く声がして、今度はハッキリとした声で応対する。
『特に、指令は無いはず』
「よし、ならライフル持って日本に来てくれ」
『へ? 何で? ……休暇じゃないの?』
「……悪い。お前の力を借りたいんだ」
『ってことは、荒事?』
「ああ。下手すりゃ、民間人の死人が山ほど出る」
『相手は?』
「
『それって……』
「みなまで言うな。……詳しい事は、来てから話す」
マリアには申し訳ないが言うだけ言って、俺は電話を切った。それから大欠伸をして、ソファーに寝転がる。
「矢上さん。俺は寝る。何かあったら起こしてくれ」
「分かりました。……それじゃあ」
「おう」
一日のうちに、汚れや血痕でボロボロになったMA-1を掛け布団代わりにして今日は床に就いたはずだった。
三十分も経たないうちに矢上に叩き起こされ、即刻聞かされたのは江戸川が弓立に撃たれたという事実だった。
「命に別状は無いみたいですけど、東京警察病院に運ばれたみたいです」
「あの野郎……」
俺はソファーから飛び起きて、中野区にある警察病院に向かう。
入口では公安の山寺が待機しており、病室に案内される。
「四十五口径のホローポイント弾で、右腿を一発。応急処置はしたんですが……足の調子は悪くなるそうで」
「……そうか」
「でも、弓立ちゃんが裏切ったなんて……まだ信じられませんよ」
「“人は見かけによらない”ってやつですよ。というか、普段はどんな感じだったんですか?」
「弓立ちゃんの普段……。真面目で優秀でしたね。警察学校じゃあ、首席だか次席だかで卒業したって聞いてます。……それに、外見も良いから聞き込みの時は重宝してましたよ」
「ふぅん……」
「あっ、ここですよ。病室」
病室は個室。窓際に置かれたベッドには、江戸川が寝ていた。
思ったよりも元気そうだ。脇に草薙が待機しており、俺を見て頭を下げた。
「赤沼さん……」
「脚の調子は?」
「かなり痛いですよ……。医者曰く、ホローポイント弾の破片が神経を傷付けたようでね。今後は杖暮らしらしいです」
「………………」
「けど、出血多量で死ぬよりマシですよ。まったく、持つべきものは優秀な部下ですね」
「その優秀な部下に足元をすくわれたんですけど」
サラッと草薙に毒を吐かれたが、江戸川は同じ様に流す。
「……そうだ。赤沼さん、弓立からの贈り物を受け取ってますよ」
「爆弾じゃないだろうな」
江戸川はテレビ台の引き出しから拳銃を出してきた。
しかもそれは、俺が弓立に奪われたシグだった。
「それ……」
「やっぱり赤沼さんのですか。弓立が私に渡してきましてね、返すと言ってましたよ」
拳銃を受け取り、弾倉やバレルを確認する。
詰め物や弾に細工された形跡はない。
だが、それをすぐに使う気にはなれなかった。
本部に戻ったら、一度清掃も兼ねて整備しようと決めた。
「ありがとうございます。……そっちは元気そうだし、俺は本部に戻ります。お大事にしてください」
早々に切り上げ、俺は病室を出ようとする。
しかし。
「待ってください。赤沼さん」
「ん?」
「この際だから、話そうと思っていた事を話したいんです」
「……何をです?」
「貴方のお父さん、武さんの事ですよ」
「………………」
「大した事じゃないんです。ただ、少し引っ掛かっている事というか……何と言うか……」
江戸川は歯切れ悪く、どことなく迷っているように見える。
「少し、付き合ってください」
ようやく言葉を絞り出したようで、真っ直ぐ俺を見ていた。
流石に俺もそう言われては、止まるしかない。
「分かったよ……聞かせてくれ」
「じゃあ、遠慮なく。……悪いな草薙、山寺、外に出てくれないか」
「……いいですよ」
江戸川の願いを了承して、二人は病室の外に出て行った。
「いいのか?」
「赤沼さんが私を撃ち殺さない限り、私に危害は与えられませんよ」
「豪胆だな」
俺は近くにあったパイプ椅子を寄せ、江戸川を向き合う。江戸川は頷き、口を開く。
「時は1995年まで遡ります」
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