協力者とメカ
本部には高速をとばしたお陰で、思ったより早く着くことが出来た。調達係のオフィスは地下一階にある。なので、地下駐車場からは直接行くことが出来るのだ。
一足先に着いていたシルヴィアが、ベンチに座ってコーヒーを飲んでいた。
「来たわね、こっちよ」
俺とマリアの姿を見ると、コーヒーを一気飲みしオフィスまで誘った。調達係のオフィスは、受け取り口のカウンターの隣のドアから入る。
オフィスの中は、麻薬工場とは別のベクトルで散らかっていた。鉄やガンオイルの匂いに混じり、コーヒーや煙草の匂いが漂っている。
シルヴィアはよどみなくオフィスの奥へ進んで行くが、俺とマリアは段ボール箱や備品の山に行く手を阻まれ、上手く進めない。
山を幾つか崩し、罵声と怒声を浴びながらようやくシルヴィアの所に行けた。
「この先に、私達に協力してくれる人がいるわ」
そう言って、シルヴィアは副主任室と書かれた金属プレートが貼られた鉄のドアを開けた。
その中は六坪程の広さで薄暗く、何かが焼ける匂いがした。本棚と工具、電化製品らしい部品が散乱する部屋の奥には、電気スタンドが点いた作業机に座る白衣を着た誰かがいた。
「元気?」
シルヴィアは白衣の人間に声を掛ける。それに反応して、もっさりとした動作でこちらを向く。
無精髭を生やした、眼鏡の男だった。歳は俺より少し上ぐらいだろう。俺達三人、特に俺の方をまじまじと見ている。
「お~……シルヴィアか……そちらさんは?」
「今日づけでここに転属になりました、強襲係の赤沼浩史です」
しっかり、丁寧に頭を下げ挨拶をする。
「あ~これはご丁寧にどうも。調達係副主任のハリー・イートンです、よろしく」
そう言って、彼、ハリーは握手を求めて来た。俺も手を差し出し彼の手を握った。技術者みたいな外見からは分からなかったが、彼の手はシルヴィアの手より硬く数々の修羅場を見てきたことが伺える。
「それより、シルヴィア。今日は何しに来た?」
「ああ、それなんだけどね。私ら調査係と強襲係の合同で、麻薬の売人やら店の調査をすることになったんだけど……」
「うんうん」
「それで、新しい監視用、いや、偵察機みたいなのを作って欲しいんだけど」
「ふ~ん、なるほど……試作品でよければ、テストも兼ねて実戦投入してもいいかもしれない……」
そう呟くと、電子部品の山からとある物を取り出した。茶色のキャタピラにゴテゴテとしたカメラが付いた代物だった。
「なんだ?これ……」
「これは、ラジコン戦車を改造した偵察機さ」
「ほぅ」
ハリーは意気揚々と早口で自分のメカを語る。
「ラジコン戦車から砲台を取っ払って魚眼レンズのカメラを取り付けたんだがな、キャタピラなら多少の段差も転げ落ちる心配もないし、ラジコン戦車とカメラ自体の値段はそんなに高くないし、改造もそんなに難しい技術は必要としないから、偵察機としてはかなりコスパがいいんだ。ラジコンの駆動音が騒がしいのが課題だったが、それはギアを少し弄って音を小さくすることに成功したが、ちょっとばかり遅くなってしまったのが今後の課題となったんだがな……」
「わかった、わかった。概要は理解したから」
「そう?でもまだ重要なアイテムを説明してないんだけど……」
「あ、そう」
男が何かを語っている場合は大抵、本人が満足するまで喋らすのが一番いい。
ハリーはガラクタの山から、スマホ程の画面が取り付けられたラジコンのリモコンを出すと、電源を付け操作を始めた。
すると、ラジコンのカメラ部分の隙間からニョロっと電源コードのような物が出てきた。それは、レンズが先端にあるミミズと形容するのが一番近い。
「なんだこれ?」
俺が口を開け驚いていると、ハリーは自慢げに語りだした。
「これは、医療分野で使う胃カメラってやつを偵察用に僕が改造した物さ。戦車のカメラの視野は、いくら魚眼レンズと言っても正面方向しか捉える事しかできない。そこで、これをチョイと操作するだけで気になる隙間やダクトの網からそこからの景色を確実に見ることが出来る。ただ、欠点としては戦車のカメラも一緒なんだがマイクが付いてないから、音声は拾えない。けれど、それ以外は完璧。暗いところでも明るすぎるところ関係なく高画質かつ鮮明にクッキリとレンズに収める」
流石に疲れたようで、ハリーは息を切らし肩を上下させている。俺は背中をさすってやった。マリア、シルヴィアの二人はどこからか机を引っ張って来てリストとにらめっこしていた。
「はぁ、はぁ……とりあえず、これを投入したいんだ」
「いいですよ……失礼かもしれませんが、役に立つんですか?」
「それを確かめる為に、投入するんですよ」
少年のような無垢な笑顔を見せながら、ハリーは出撃の準備を始めた。
俺はマリア達の方に向かい、最初に調査する売人の住所を地図で確認する。ニューヨーク、ハーレムのど真ん中に住む末端の売人『トーマス・エンジェルス』そいつが俺達の標的だ。
確認を終えるのと同時に、ハリーの支度が終わった。Gジャンを羽織っていて、ショルダーホルスターにはベレッタ92FSが仕舞われている。
「さて、出発しますか」
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