妹がなかなか兄離れをしてくれない。
かにくい
第1話 妹と兄。
「あ、ちょ、おにーいー」
「残念だったな。妹よ」
無念に画面外へ飛んでいく、美亜が操作していたキャラ。ふっ。二連勝。
「うぅぅぅぅ…。むぅ…」
頭をぐりぐり押し付け、ほっぺを膨らませて、こっちを見てくるが、そんなの僕には関係ないね。
「あぁ、もう怒った。と言うか、私拗ねるからね。ふんっだ」
拗ねると言われて拗ねる妹がどこにいるんだ。いや、ここにいるか。はぁ…しょうがないなぁ。
「じゃあ、次、美亜が勝ったら、なんでも言う事聞くから」
「え!ほんと?やった!」
僕の妹ながらチョロい。少しだけ、将来が心配だ。
数分後…。
「残念だったね。おにい。最後に煽らなければ勝ててたのにね」
「誰か、数秒前の僕を殺してください…」
ほんとに何してんだよ、僕。
「よしっ。じゃあ、おにいが負けたから、言う事聞いてもらおうかな」
「何でも、申してみよ」
「んー。…膝枕したいかな」
そう言って、正座をする。美亜。
「失礼します」
「はーい、失礼されまーす」
膝の上に僕の頭を乗せて、ご満悦の美亜さん。
「膝枕して、そんなに楽しい?」
「んー、お兄ちゃんの顔を見れるから、悪くないかな。あーもう、ちゃんと髪乾かさないとダメだよ。痛んじゃう」
そう言って、嬉しそうに僕の髪の毛を優しく撫でる。あー、また出てる。昔の癖で今は少し恥ずかしくなってやめると言っていた、お兄ちゃん呼び。こうやって膝枕した時とかに戻ってしまう可愛い癖。少しだけ妹でときめいた僕は重症。
「よしよし。いい子ですね」
僕の髪の毛は赤ちゃんか何かのか。
「そう言えば、美亜。お仕事大丈夫なのか?」
「うーん。大丈夫…かな?」
うちの美亜は、イラストレーターだ。そこそこ人気の。いや、かなり人気の。いや、大人気の。両親がいない僕らの家計を支えているのは美亜と言っても過言ではない。
「なんで、疑問形?頑張れよ。僕、楽しみにしてるから」
「分かったよ。おにいにそこまで言われたのなら、美亜ちゃん、頑張っちゃおうかなぁ」
「なんで若干おじさんっぽいの」
「ここがええのか、ここが」
そう言って、ぷにぷに僕の頬を触ってくる美亜。
「やったな。じゃあ…こっちもこうだ!」
「困ります、お客様。あー、お客様ー」
お返しに、ほっぺをぷにぷにし返す。数分じゃれあっていたが、ふと、美亜が我に返ってこんなことを言う。
「あ、そう言えばお兄ちゃんさ。ありがとね。バイト帰りで疲れているのにお菓子買って来てくれて」
「いいよ、全然」
「そう言うところ、妹的にポイント高いよ」
「ちゃんと、お礼言えるところ、兄的にもポイント高いよ」
「えっへん」
そう言って胸を張る美亜。…胸ないけど。
「む、今、お兄から馬鹿にするような視線を感じた」
「気のせい。気のせい」
「ほんとは?」
「気のせいだよ?」
「嘘ついてたら、西城月見ちゃんのイラスト書いてあげないよ?」
「すいませんでした。少しだけお胸が見られないなと思いまして」
プライドなんてなかったし、やっぱり嘘はついちゃいけないと思うんだよね。
「……素直に言ったのはいいけれど、その内容を許すとは言ってないよ?」
「まことに申し訳ございません。ここは兄の顔に免じて許してはもらえないでしょうか」
「んー、どうしよっかなー。じゃあ、これからはいつもより少しだけ早く帰ってきてくれる?」
「分かったよ。と言うか、そのくらいならの頼みなら普通に聞いてあげるのに」
「なんか、申し訳なくて」
「なんでそう言うところだけは遠慮するんだよっ」
そう言って、美亜のお腹をそっと触る。
「あー、お兄ちゃん、禁忌を犯したね。女の子のお腹を触るとは。とりゃぁー!」
いつの間にか、仲直りしていつものように美亜とじゃれあう僕。
妹の美亜はかなりかわいい。正真正銘の美少女だ。それに、家事全般できるし、高校生がバイトで稼ぐお金の比ではないくらいに稼いでいるパーフェクト妹だ。まぁ、仕事の関係上とか、いろいろあってあんまり学校に行ってないけれど。でも、単位は取っているし、今のところは卒業できるくらいの学力はある。学校に行けていないこと以外はもうどこを見ても完璧な妹。だからこそ、心配なのである。
僕と言う兄にはこの子はもったいなすぎるのではないかと。もうこの世にはいない父さんと母さんはどちらも美人、美男だったのでその生まれの僕も見た目は悪くない、むしろかっこいい部類に入るだろう。家事だって、頑張ってできるようになった。経済面は、美亜のように絵が上手い訳でもなかったので、仕事をしなくていいという、美亜の申し出を断って、ほぼ毎日バイトをして、水道代やら、維持費などは僕がどうにか払うようにしている。
その分、将来、美亜のための貯金が増えるだろうから。
まぁ、その話はおいて置いて、とにかく妹にはそろそろ兄離れをしてもらったほうが美亜のためになるんじゃないだろうかと考えている今日この頃。まぁ…僕も妹離れをしなくちゃなと思っていたのもあるけれども。
「ん、どうしたの?お兄。はっ。まさか、私のお腹を触って興奮したの?」
「はいはい、お帰りはあちらです、お客様。そのまま産婦人科に行くことをお勧めします」
「それは、妊婦さんのようにおなかが出ていると言っている訳だね?よっし分かった。お兄の事はなにがあってもゆるさ…」
「あ、そう言えば、冷蔵庫に新しく買ってきたアイス入れといたよ」
「お兄、ちゅき。大ちゅき」
ほんとチョロいな、この妹。スキップをしながら僕の部屋をウキウキで出ていく妹に苦笑してしまう。
どうしたものかなぁ…。
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