幽霊と羊羹
「例えばさマクドナルドに健康志向のメニューを置いても売れなかった話あるじゃない。声のでかい客でもないやつが邪魔をする話」
安いホテルの一室の固いベッドの上で女は語る。体型は山のようで乳房は腹の脂肪と一体化している。
「声がでかいと得だよね。バカは言ってる内容なんて聞かないから。自信ありげにでかい声で話すヤツのほうを信じちゃうし」
僕が手土産に持ってきた羊羹をくちゃくちゃ食べながら目の前の女はそう話す。顔に目を向けると口の形だけは美しい。
「気持ち悪い視線だな」
僕は目の前のこの女と何故話をしたいのか。僕の知っている人の中では生きる力が最もみなぎっているように見えたからだ。僕はそういうものが弱いのでこの女からそれをもらおうと思ったのかもしれない。
「あんたってなんか幽霊みたいだよね。おっさんみたいに欲望の残りかすもない」
間違ってはいない。僕の意思で手に入れたものは何もなく、多分生まれつきあったものは年とともに失われてしまった。僕の中には何もない。
「言っとくけどあんたの何かを埋めるのはアタシはごめんだからね。金は払ってくれてるから寝るくらいならいいけどサ」
そのあと少ししてホテルを共に出た。また来るよ、というとうんざりした顔をしながらも来るなとは言わなかった。本当にいい人だなと思った。
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