雨が降った
幽宮影人
第1話
「俺さ、将来カウンセラーになりたいんだ」
10年前のあの日、高校の屋上でいつものように昼飯を食いながらお前はそう言った。
今日と同じ、青い空が嫌に綺麗に見えた日で、そのくせ空を駆ける風だけは爽やかで、どこか気持ち悪くて。
そう言えばお前の様子も変だった。どこが、と言われればハッキリとはわからないけど。きっと些細な事だったんだろう。
……あの時の俺は、お前になんて言って返事をしたのだろうか。答えになるような返答を、きちんとすることが出来たのだろうか。それとも“昼からの授業も怠いなぁ”なんて、くだらないことを口走ったのだろうか。
だから、だからなのだろうか。
お前はその次の日姿を消した。
バケツがひっくり返されているような、滝がどこかからやってきたような雨の中、お前は姿を消した。
「なぁ、イツキ。お前はあの時、俺になにを伝えようとしてたんだ」
気味が悪いくらい晴れ渡った空の下、俺とアイツの故郷を一望できる丘の上で俺は独ごちた。爽やかな風がストレートとも癖っ毛とも言い難い一つ括りにされた俺の髪を揺らす。
俺の目の前にそびえ立つ大きな灰色の石、そこで頭を傾げる色とりどりの花、静かに燻る色気のない紫煙。
それが俺に与えられた答えのようで、気づけばアイツと最後に昼飯を食べた次の日のように俺には雫が滴っていた。
「おかしいな、今日は一日晴れの予報だったのに」
傘を差している人はどこにもいない。
けれども俺だけの雨は俺がその場を後にするまで止むことはなかった。
ーーーの独り言
俺ね、自殺って悪い事じゃないと思うんだ
カウンセラー目指してる奴がなに言ってるんだって、思うよね
うん、俺もそう思うよ
だってカウンセラーは救う人だから
間違っても死への引導を渡す人じゃない
けど、けどね
俺、どうしても思ってしまうんだ
自殺は悪い事じゃないって
だってそうでしょ
ソレはその人にとっての希望なんだから
生きることに疲れて、諦めた人たちにとっては自殺こそが救いなんだから
ソレを止めようとするのはむしろ失礼だよ
だって止めるっていうことはその人の覚悟を蔑ろにして、希望を砕き、また苦しみ溢れる地獄に突き落とすってことなんだから
そんなの、あんまりじゃんか
だから俺は救いたい
けど救えない
ねぇイブキ、俺はどうしたらよかったんだろうね
可哀想に、自身の夢に苛まれた一人の少年は自身の歪んだ思想を誰にも悟られまいと隠し続けた。
隠して隠して隠し続けて、最後にはそれに押し潰された。少年の夢は叶わない。
救うことを喜びとする彼には、その夢を叶える術がない。
あぁ可哀想に。
雨が降った 幽宮影人 @nki
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