第44話――魔王さんと勇者様ご一行、最終決戦! 4

「ごほっ、げほっ……みんな、大丈夫か!」

 落ちてきた瓦礫からましろを庇いながら、晋太郎は全員の無事を確かめる。

「はいっ! 大丈夫ですっ! ま、松原先輩、ありがとうございましたっ!」

「ボクはピンピンしてるよ!」

「わたしも、まだ戦えます。それより、皆さん。わたし、一つ気づいた事があります」

 埃まみれになりながら、メインアリーナだった場所から中庭に移動する。

「あのビームには、欠点があります。その欠点を突けば……」

 晋太郎は自分が喰らい続けたあのビームに欠点があるなどとは想像もしていなかった。だが、水琴は自分の戦いぶりを見ていて何か気付いたのかも知れない。ならば聞いてみる価値はある。

「欠点だって? それは何なんですか、白石先輩!?」

「ええ。多分、会長さんも気づいていないでしょうね。松原くんが身体を張ってくれたから気づいたんです」

 水琴の言葉に思わず「どうだ」と言わんばかりの顔をしてみせる晋太郎。だが、その背後から道明寺由隆の笑い声が浴びせられる。

「はっはっはぁ! 何処に逃げようというのかね? ハイグレードコンタクトレンズビームっ!」

「どうわぁっ!」

 背中にまともにビームを食らった晋太郎が思いきり転ぶ。二回転、三回転、四回転して、ようやく止まった。

「どうかね。これでもう僕と君たちの力の差は理解できただろう? さあ、大人しく眼鏡を捨てるがいい!」

 瓦礫の山と化したメインアリーナから、悠然と姿を現した由隆。側らにはいつも通り百合香が控えている。

「それは出来ない相談ですね。貴方には松原くんが受けた何倍ものお仕置きが必要です」

 涼やかな声で、だが決然と水琴が言う。

 その時、無表情に由隆の側らに立っていた百合香が、口を開いた。

「会長……わがままをお許しいただけますか?」

「何だね、言ってみたまえ」

「あの女……白石水琴を私の手で倒したいのです」

 由隆はそれを聞くと、心底意外だという表情をしてみせた。

 百合香の言葉を聞いた晋太郎も驚いていた。まるで感情の無い人形のように見えたあの百合香が、自分から水琴との決着を付けたいと言うなどと思いもしなかったのだから。

 由隆はじっと百合香の横顔を眺めている。百合香はその視線を水琴にぴたりと合わせたまま動かさない。美しい彫像のようなその横顔に、固い決意が見える。

「いいだろう。あの女は君が仕留めろ。僕は他の三人を倒す」

「ありがとうございます、会長……」

 由隆の側らを離れ、ゆっくりと歩き出す百合香。水琴もそれに応えるかのようにすっと前に出ていた。

「昨夜は不覚を取りましたが、今度は負けません」

「何度やっても同じことですよ。あなたはわたしに勝てない。力が違いすぎる」

 穏やかに微笑む水琴と、口を真一文字に結んで表情を消した百合香。晋太郎には二人の間の空気が圧縮され、空間が歪んだように見えた。

「勝負!」

 ベルトから腰帯剣を引き抜き、百合香は水琴に斬りかかった。

 熱く、そして同時に冷たい戦いの始まりだった。

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