『小さなお話し』 その121

やましん(テンパー)

『ぶつかったせみさん』

 『これは、事実に基づいた、フィクションです。』


            🐝


 つい、先日の、夜中のことです。


 玄関を開けてお庭に出たところ、なにか、だいぶん、大きな物体がぶつかってきたのです。


 『おわあ!』

 

 やましんは、びっくりしました。


 その物体は、やましんにぶつかったあと、ふらふらと空中でよろけましたが、さらにもう一回、激突してきたのです。


 それは、よろよろになった、せみさんでした。


 『あと、しつれいい・・・ほうこうが、さだまらなくて・・・やましんさん、ありがとう。』


 『いやあ、なんか、いいことしたかい?』


 『はい。お庭の木をお貸しいただき、ありがとうございます。ぼくは、天寿をまっとうしました。じゃあ、さようなら。』


 『あああ、ふらふらですよ。どこにゆくの。』


 『天国に旅立つのです。』


 手入れしていないお庭の藪の中に、せみさんは消えてゆきました。


 そうか、せみさんは、成虫になったあとの命は、短いのでした。


 むかし言われていたよりは、もしかしたら、倍くらい長生きするともいわれますが、それでも、よく持って1か月程度とか。


 寿命までに、食べられてしまうことも多いとか。


 せみさんといっても、いくつも種類がありますが、最近、つくつくぼうしさんは、聞かない気がいたします。


 もっとも、地下生活は長いせみさんのこと。


 地下で、どんなことを勉強しているのかなあ。



 翌日の昼間、せみさんの姿は、もう、そのあたりにはありませんでした。


 のらも来なくなり、やましんは、なんとなく、また、ひとりぼっちかな。


 さみしい、秋が来るのかな。


 『こらあ、あなた、シャツ、どこに脱いだの!』


 あ、奥様が、パートタイムで来てくれるのでした。



  ************   ************



                          🐝

 

 



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