また会いましたね実家の皆様

「お久しぶりですね」

「あんな目に合わされておいて、よくもまた顔を出せたものだな」

扉を開けると、そこには顎ひげを蓄えた、大柄な壮年の男が立っていた。


頑強そうな鎧に身を包み、マントを羽織ったその男は。


「アルバダ!?」

鳥地のこの世界での実家、エス家に仕える騎士だった。


とある日の昼下がり。

アタルカの家にトクロが来ていたこの日。

エス家の兵士たちを引き連れたアルバダが、アタルカの家の木の扉を叩いた。


そして現在。

部屋の入り口を挟んで、アタルカとアルバダは向かい合っていた。

二人共身長は高いが、武人であるアルバダと並ぶと、引きこもりのアタルカは白く、ひょろりとしている。


鳥地は緊張していたが、「もやし野郎って最初に言い出した人の気持ちが分かるなぁ」と迂闊にも頭の端に思い浮かべてしまった。


「どうも、お嬢。そして、改めまして、アタルカさん」

以前会った時に自己紹介をした覚えは無いが、大方何かしらの手段で調べたのだろうとアタルカは思考を巡らせる。


「この前はゆっくり挨拶も出来ませんでしたからな。私、エス家に仕えております、ギエス・アルバダと申します」

「ほう、下の名前しか知らなかったが……名字にエスがつくとは………」

「ええ、まあ。少しは言うことを聞いてくれる気になりました?」

穏やかな口調ではあったが、アルバダの眼には明確な敵意が宿っている。


「俺が貴様らの言うことを聞く義理があるのか?」

「人の家の娘を連れてきておいて、それはないでしょう」

「連れて来た訳ではない。それに、ここにいるのはあいつの意思だ」

アルバダに見えていたかは分からないが、鳥地はアタルカの後ろで首を縦に振る。


「そうですか。ところで……研究の方は順調ですかな?」

アタルカが扉を閉めようとすると、アルバダが呟くように言った。

アタルカは動きを止め、再び騎士の方へと向き直る。


「どうやら、面白い研究をしているようですね。それも、名家であるトクロ家の支援を受けて」

「どこで聞いたのだ? そんな話を」

「田舎の村だからって油断しましたね。今までバレていなかったのは誰も注目していなかったからだ。その気で調べれば、簡単にわかる。……とはいえ、最初に知った時は私も驚きましたがね」


壮年の騎士は、あくまでにこやかに微笑む。

しかしその中身は、明確な脅しである。


「とんでもない出まかせだな。大方田舎の下らん噂話だろう。普段引き籠っていると勝手なことを言われることもある」

「しかし、トクロ家のお嬢さんがいることが何よりの証拠ではありませんか?」

「ただの昔馴染みだ、おかしな詮索はやめてもらおう」

アタルカが再び戸を閉めようとした、その時。


「いい加減にしろよクソ野郎!!」

小屋中に怒声が響き渡り、アタルカが木戸ごと吹っ飛んだ。


「先生!!」

アタルカの細い体が、木でできた床に転がり、鳥地とトクロが駆け寄る。


「さあ、帰りますよ、お嬢!!」

再び響いた低い声に、二人は振り向く。


そこには、さっきまでの紳士的な態度の壮年の騎士の姿はなかった。


ただ鬼のような形相の武人が、恐ろしい眼付きでこちらを睨みながら、足を下ろす。

どうやら、扉は彼に蹴り飛ばされたらしい。


鳥地が呆然とそれを眺め、トクロがアタルカの体の上から戸板をどかしている間に、数人の兵士が小屋の中にどかどかと入って来た。

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