生物学者と歴史研究者
「いやー、まあ単眼族も最近は数が少ないからねー」
生物学者のナラバ・ドーカは、パンをかじりながらけらけらと笑った。
「昔は単眼もたくさんいたんだけどねー」
「曾祖母の代の話だろう、まるで見てきたように言う」
アタルカが出されたパンを齧りながら答える。
いかにも古い友人とらしい態度である。
鳥地は改めてナラバの顔をまじまじと見る。
肩までの黒髪の真ん中に収まった小さな顔。
その中心にはアタルカよりも三倍近く大きな目が、一つだけ開かれている。
「そこも含めてこの国が嫌いだー」
「お前はいつもその話だ」
異種族とはいよいよ異世界だなぁ、と思ったが、そういえばトクロもエルフの血を引いていた。
「鳥地君、ここがまだパラクスって国だったころにはね、もっと大勢の単眼族がそこら中にいて双眼の種族たちと共存していたんだよー。それをねー、ウルバとかいうクソ国家が侵略と同時に虐殺をしてねー」
「俺が教えてやったことそのままではないか」
「いいでしょー。自分のルーツなんだから」
なんとなく鳥地にもナラバのことが分かってきた。
「というかそもそも君たちが山賊に襲われたのも、ウルバが市民の安全を守るためとか言って魔物を殲滅したからでしょー。昔は町から離れたところに住むなんて危なくて出来なかったのに、賊の安全まで保障してどうするんだよー」
「まあそれは大いに賛成だ。森に住むなど、昔なら数時間で魔物のエサだったのだからな」
「ていうかそもそも魔物って何!? 彼らは彼らの生活をしているだけだし! テリトリーを勝手に荒らしたら攻撃してくるのは当たり前! 自分たちに都合が悪いからって名前からして悪い物みたいにするなー!」
生物学者が騒ぎ出した。
ナラバも、この国の現状に不満を持つ研究者の一人なのだ。
そして、国にとって都合の悪い研究をしている。
アタルカと協力する訳だ。
二人は似た者同士である。
しかし、こうなると心配になることが一つ。
(トクロさん、やっぱり手強いライバルですよ!)
鳥地は密かに天文学者の心配をする。
「ところで、アタルカー。やっぱりあれはまだダメ?」
「ダメに決まっているだろうが」
「あれって何ですか?」
話題が切り替わったので、鳥地も会話に参加する。
「以前から子作りをしろとしつこく言われていてな」
「ぶっ!?」
「デリカシーないなー。私も女の子だよー」
鳥地の驚きとは裏腹に、二人は平然とした顔をしている。
「ならばもう少し恥じらいを持ったらどうだ」
「そりゃだって興味の前には恥なんて、ねえ?」
「きょ、興味というのは……」
「あらー、おませさん」
ナラバにからかわれるが、鳥地はもはやそんなこと気にしていられない。
「人間と単眼族の間に生まれる子がどうなるのか知りたいらしい」
「あ、あー、うん」
「そんなあからさまにがっかりした顔されても―」
「いや、それはそれで……ナシではないけど……でもそれはもう……」
「その反応はその反応で困るなー」
鳥地も大概だった。
「で? アタルカはまだ諦めないんだねー」
「諦め?」
「こいつ、ずっとトクロに片思いしてるからさー」
「おい!!」
「ああ、それは知ってます。ていうかトクロさんと面識会ったんですね」
「!?」
「私も古い知り合いだからねー」
「でも片思いじゃなくて……」
「トクロちゃんには婚約者がいるのに、こいつ諦めがつかないんだってー」
一瞬、鳥地の思考が止まった。
「へえ、婚約者……」
アタルカが気まずそうに下を向いたが、ナラバはお構いなしに変わらずニコニコと笑みを浮かべている。
「婚約者ぁっ!?」
一分間長々とフリーズしてから、鳥地はあらん限りの声で叫んだ。
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