研究を始めよう
アタルカの世界で使われていた文字が、鳥地の住んでいた国・日本で使われていたのではないか。
遺跡で浮かんだ疑問を元に、とりあえず調査の一環として鳥地の話を聞くため、二人は一度アタルカの家に帰ってきていた。
「ではお前の国では歴史を学校で習うのだな」
「ええ、でも苦手でしたよ」
「何? なぜだ」
「年号とか人名が覚えらんないんですよ。専門用語も多いし。そりゃ戦国武将や三国志は通りましたけどそこ以外はハッキリ言ってダメダメで……」
「覚える必要は無いだろう。資料を見ればいいのだから」
「試験では見ちゃいけないんです。歴史は暗記教科ですよ」
「なんだと!? 貴様本当に歴史を学んでいるのか!?」
以下、説教。
一事が万事こんな調子であり、やっと調査が終わった頃にはすっかり日が暮れていた。
部屋の中には大きめのランプのような道具しかなく薄暗かったが、お互いの顔はハッキリと見て取ることができ、一応文字を書くことも出来た。
「ふむ、お前の国のことはなんとなく分かった」
「そうですか……」
「どうやらうちのダメッカス国家よりは全然マシだな」
疲れ切って寝ころぶ鳥地は、まだまだ元気に紙に何事かを書いているアタルカを見つめる。
アタルカはどこか嬉しそうで、最初は不愛想だった男が一日のうちに随分子供っぽくなっていることに、なんとなく笑みがこぼれた。
恐らくこちらの方が先生の素に近いのだろうと。
そんなことを思いながら、いつの間にか鳥地はまどろみに呑まれた。
「ああ、そういえば……」
ふと質問を思いつきアタルカが振り向くと、赤ん坊はいつの間にか床の上で眠っていた。
中身はともかく、眠ってしまえばただの小さな子供である。
アタルカは少し頬をほころばせながら、その小さな体を慎重に抱き上げ、自分のベッドに運んだ。
「今夜は俺の寝床を貸してやる。あまり頻繁に洗ってはいないが、そのうちトクロに何か頼んでやるからとりあえずはそれで我慢しろ」
返事が返って来るでもないが、アタルカは静かに声を掛けて椅子に戻って行った。
そもそもアタルカはベッドで寝ることがほとんど無く、専ら机に突っ伏して寝堕ちるか、床に倒れたまま気絶にも近い睡眠を取っている。
それでもアタルカが何とか生きているのはトクロが何かと世話を焼いてくれるからだが、なんだかんだで感謝を伝えそびれてしまっている。
ユラユラと不安定な光を頼りに、本に小さく並べられた文字列を読む。
ランプのような照明器具はアタルカの魔力を使って光らせているが、まともな休息を取らず魔力が回復していない状態では光が不安定になる。
しかしそんな頼りない光でも、無いよりはマシである。
もう眠ってもよかったが、今日は驚くことが多すぎた。
知らなかった新しい世界に触れた興奮で、眠気は吹き飛んでしまっている。
アタルカは静かに、半分も頭に入ってこない文字列を目で追いながら、パラパラとページをめくった。
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