この世界の話

「この遺跡が……先生が歴史を研究するきっかけ?」

「ああ、子供の頃には正体不明の施設だったからな」

「まあ確かにそういうのありますよねぇ」

 鳥地はなんとなくアタルカに親近感を覚え、うんうんと頷いた。


「冒険したくなっちゃうと言うか」

「そうだなぁ」

「よくわかんない暗号みたいなの見つけて……」

 そこまで言ったところではっと何かに気が付いた鳥地が叫んだ。


「そうだ! そうだそうだ!」

「なんだ、どうした」

 突然騒ぎ始めた助手にアタルカは少し苛立ちながら問い返すが、ハッキリとした答えは返ってこない。


「先生! 分かった! 分かったんですよ!」

「何がだ!」

「僕、この世界の文字が読めてるんですよ!」

「……は?」

 一瞬何を言われたのか分からなかったアタルカだが、頭の回転が速い彼はすぐに目の前の赤ん坊が言わんとしていることに気が付く。


「それは、こちらに来てから学習したから、という訳ではなくか?」

「全然! ていうか、元の世界で使っていた言語そのままなんです!」

「……それは妙な話だな」

 二人して沈黙する。


 彼らの困惑は当然である。

 全く違う文明で発達した文字が同じなど、あり得る訳が無い。


「言葉に関しては異世界モノでよくある脳内同時通訳というか、都合いいアレかと思ってスルーしてたけど、そもそも僕そういう能力授けられてないし! あ、てことは言葉も完全に通じてるんだ!」

「何を言っているのかはよく分からんが、言葉も文字も全く同じとなると……この世界の文字や言葉はお前の国から持ち込まれた可能性があるな」

 パニックのまま喋り続けていた鳥地の言葉が、ぴたりと止まった。


「そんなことがあり得るんですか……?」

「全く分からん」

 鳥地が分かりやすく肩を落とす。


「しかし伝説で言えば転生者が最後に確認されるのは約四百年前。この土地がこの国に侵略される前、パラクスという国だったころに転生者が文字を伝えた可能性は高いだろう。もしかすると、文明初期に言葉を伝えたのも……」

 アタルカは、鳥地に聞かせると言うよりもむしろ自分が考えをまとめる為に早口で喋り出す。


「あれ、この国に直接じゃないんですか?」

「ああ、この国……ウルバはほんの五十年前まで文字も持たない野蛮人の国家だったからな。パラクスを侵略して、国を支配するシステムや文字を吸収したんだ」


 アタルカが、彼らの住む島国・ウルバの歴史についてつらつらと語る。

 当然だが、鳥地はこの国の歴史についてまるで知らず、興味深く拝聴した。


「まあ何の大義名分も無く他国を侵略してできた野蛮国家だからな。文明も中途半端なダメッカスな国だ」

 アタルカはこの国が嫌いなのか、と鳥地は思う。


「歴史の研究が禁止されているのもその辺が理由だ。今の王がこの国を治める正当な理由がなくなるからな」


 鳥地は色々なことに合点がいき、なんとも言えない苦笑を浮かべて頷いた。










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