太古の魔法

「ふう、とりあえず危機は去ったか」

 アタルカは地上を見下ろしながら呟く。


「先生、意外と体力あるんですね……。それに、よくこんなとこ登ってこられましたね」

「この辺りには小さいころから居たからな。この森でもよく木登りをしていた。地上を走るよりも木に登る方が楽だ」

 鳥地を担いだアタルカは、周囲で一番背が高い巨木の上の太い枝に腰掛けていた。


 地上では二人を見失った兵士たちが、あちこちを探し回っている。

 まさか上に居るとは思ってもいないらしい。


「とはいえ、このまま待っているだけという訳にもいくまい。ずっとここで粘っていてもあいつら森の中でキャンプし出しかねん」

「じゃあどうするんです?」

「そうだな、では少し実験してみよう」

 怪訝な顔をする鳥地の小さく丸い腕を持ち、すぐ下に集まって互いに報告をしているらしい兵士の一団に向ける。


「いいか、腕に魔力を集中させろ」

「え? 僕攻撃魔法とかできませんよ? 自分の筋力強化するくらいで……」

「その歳でそれだけ魔法が使えるなら十分だ」

 鳥地は渋々ながらも指示に従う。


「いいか、あそこに火を起こしてあいつらを燃やすイメージだ」

「燃やすんですか!?」

「大丈夫、死にはしないはずだ」

 鳥地は言われた通りイメージしながら、告げられた呪文らしき文言を唱え、腕に魔力を込めた。


 そして、一気に放出する。

 次の瞬間、森の中に空まで届く巨大な火柱が発生した。


「ひいっ!?」

「うわあっ!!」

 木の下から悲鳴が聞こえてくる。


 しかし、二人にはそんなものを気にしている余裕は無い。

 自分たちまで生命の危険を感じるほどの高熱が眼前に迫ってきているのだ。


 鳥地は魔力の放出もあって気を失い、アタルカは火とともに起こった爆風に耐えるため、片手で手近な枝を握り、もう片方の手で赤ん坊の体を必死に抱えていた。


 火柱は数秒で消えたが、森の一角には直径五十メートルほどの、燃えカスと焦げにまみれた広場が出来た。

 酸素が大量に持って行かれたせいで、息も苦しい。


 膨大な魔力をコントロールしきれなかったのか、火柱は兵士たちの居場所からかなり離れた位置から発生した。

 そのおかげで、あちこち焦げてはいるものの、重傷者は出ていないようだった。


 想定外の被害に呆然としていたアタルカの腕の中で、全ての原因が目を覚ます。


「んん……うわっ!? なんか凄いことになってる!」

「ふふ……ははははは!!」

 アタルカは、枝の上でゆっくりと立ち上がりながら大きな笑い声を発した。


 それを聞いてやっとアタルカな存在に気がついたらしい兵士たちは、素早く上へと視線を向けた。


「エス家の諸君!! 思い知っていただけただろうか!! 諸君らのお嬢は家出をお望みだ!! また我々を追いかけてくるようなことがあれば今度こそ……分かっているな!?」

 またしてもアタルカは不敵に笑った。


 兵士たちとの距離はかなりあるので、彼らにアタルカの表情は見えなかったであろう。

 しかし、実際に目にした魔法の威力とアタルカの言葉の恐ろしさに脅え、兵士達はそれぞれに逃げていった。


 ただ一人、隊長のアルバダだけが顎鬚を撫でながらアタルカ達を見上げていたが、やがておもむろに振り返ると、あちこちに穴が開き端が焦げたマントを翻しながら歩いて行った。

















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