やっと1話の伏線回収
「大犯罪者……ですか」
アタルカの言葉に、鳥地は怯えたように呟いた。
その幼い顔からは血の気が引き、背筋がピンと伸びている。
「まあ本来全く悪いことではないんだがな」
しかし一方のアタルカは、さっきまでの恐ろし気な空気はどこへやら、あっけらかんと言い放った。
「はあ?」
それと同時に鳥地も緊張の糸が切れ、呆然とした顔になる。
「そうだ、どうせ手伝ってもらうんだから見せてやろう。フィールドワークに連れて行ってやる」
そう言うとアタルカは鳥地の小さな体をひょいと持ち上げた。
前世の記憶のために流暢に言葉を話し、魔法を使って歩いてはいるものの、所詮は赤ん坊なので、細身のアタルカでも片手で軽々担ぎ上げることができる。
「うわ雑! 先生もうちょっと丁寧に扱ってくださいよ! これでも非力な赤子の上に女の子なんですよ!?」
この先生という呼び方は、学生としてアタルカの助手をすることが決まった鳥地が、今後アタルカをそう呼ぶと宣言したものである。
理由は不明だが、アタルカも敢えてツッコむことはしなかった。
「やかましい、どうせ中身はおっさんだろうが」
「ひどい! 僕はまだ十七歳ですから!」
「年下ではないか。ならば口答えは許さん」
「異世界でも年功序列はあるのか……」
鳥地は諦めたようにぐったりとした。
「で、どこ行くんですか」
「裏の森だ。ここに面白いものがある」
「ああ、ここに来る時通りましたよ……何か出そうで怖かった……」
「安心しろ。今は魔物も住んでいない」
平然と話しながら、アタルカはずんずん森へと入っていく。
ふと、家を訪ねてきたあの騎士たちはあの後どうしたのだろうかと思った瞬間。
「やっぱりここでしたか、お嬢様」
木陰から声を掛けてくる者がいた。
「アルバダ……」
お嬢様こと鳥地が呟く。
相手はどうやら、さっき訪ねてきた騎士たちの隊長らしきマントの男である。
隊長の登場と同時に、森のあちこちから鎧を纏った兵士が姿を現す。
「狙いは身代金ですか? それともちびっこ大好きさんですかね?」
アルバダは顎鬚を撫でながら低い声でゆっくりと語りかけてくる。
ここで号令をかけてアタルカを取り押さえてしまうのはたやすいだろうが、人質の安全確保の為なのか敢えてそれをせず、余裕を見せつけている。
「ここで連れ戻されたら、僕元の世界に帰れなくなっちゃいかねないんですけども」
「うむ、お前の目的はともかく、ここで研究材料を失うのは少し惜しいな」
「ひどいなぁもう!」
「ならば仕方ない」
アタルカは少し腰を落とし、兵士たちと向き合った。
刹那、緊張の糸が張り詰め……
「逃げるぞ!」
次の瞬間、突き出されたアタルカの右手が眩く輝いた。
「うおっ!?」
兵士たちの視力が奪われる。
しばらくしてから彼らの目に映ったのは、すでに遠く離れたアタルカの細い背中だった。
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