生徒会のグルメ

岸泉明

第1話



「生徒会のグルメ(鶏ガラ豆腐鍋)」


冬の生徒会室はとにかく寒い。ストーブは少ない予算の中から変えたけど、いかんせん床が寒い。こんな日はあったかい鍋でも食べたいなぁと思いながら、只今私こと生徒会会計の大島奈子は会計担当の先生との話を終えて生徒会室に戻るところだ。

びゅうと風が吹いた。寒い、早く帰りたい。まだ会長への報告が残ってるよ、あーあ。めんどくさい。そういえば今日同じ部活の夏実彼氏できたって言ってたな。いいなぁ、私は独り身で身も心も寒い。ほんと、虚しくなってくるよ。

しょんぼりした気持ちで生徒会室の扉を開けて入ると、部屋には会長がいた。で、会長の手元には包丁……えっ、なに。

「よお、奈子。お仕事ご苦労さん」

会長がニコニコしながら包丁を持ってこっちに来た。まさかそれで私を……

「えっ、会長」

「あ、ごめんごめん。包丁はいらないな。お疲れさん」

「なんで包丁なんか持ってるんですか……」

「腹減ったろ。今軽食作ってるからお前も食うか」

「い、いいんですか」

「もちろん。すぐできるからイス座ってな」

私は言われるがままに椅子に座った。そして会長のすることをじっと見つめた。会長の手元には、豆腐?手際よく会長は一口サイズに豆腐を切り分けた。そして次に出て来たのは水菜だった。いつそんなもの学校に持って来たんだろう。会長はさっさと水菜も切り分けると、となりにあった小さい鍋に放り込み、水を少し加えると、そのまんま生徒会室のテーブルサイズのボロいガスコンロにかけてコトコト煮込んだ。五分ほど待つと、美味しそうないい香りがこちらに漂って来た。そういえばお腹がすいた。

「ほい、お待ちどうさま」

会長が鍋敷きを敷いたあと、机の上に鍋を置いた。鍋の蓋をあけると、ふわっと優しいいい香りがした。

「鶏ガラ豆腐鍋だ」

鍋には、湯気の立った美味しそうな豆腐と、綺麗な緑色の水菜があった。シンプルだけど、思わず手を伸ばしたくなるような鍋だ。

「ほら、食べるだろ」

会長は器に盛り分けてくれた。

「ありがとうございます」

一口豆腐を食べる。熱っ。でも美味しい。優しい美味しさだ。口の中で柔らかい豆腐が崩れていく。豆腐ってお父さんとかがお酒のつまみによく食べてるけど私はあんまり好きじゃなかった。でも、この豆腐は別。こんなに美味しいなんて。続いて水菜、火加減がちょうどよくて、程よくシャキシャキ感が残る。火を入れすぎても入れないし、かといって生もいけない。噛むたびにちょうど良いはごたえを感じる。そしてまた出汁がよく出ている。何だろう、これ。

「塩……?」

「あ、これな、これを使ったんだ」

会長が取り出したのは市販の鶏ガラスープの素だった。

「これ一つでなんでもうまくなるぞ」

「へー、すごいですね」

「身も心もあったまるだろ」

「へ?」

「お前、今日友達に彼氏できたって嘆いてたからなぁ」

会長はケラケラ笑った。もう、人をおちょくるの好きなんだから。でも、美味しい。会長、ありがとう。美味しかった。そして、ちょっとだけ会長をかっこよく思えた。

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生徒会のグルメ 岸泉明 @Kisisenmei

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