第47話 もう1人の魔王は演技派
青の街。
その中央通りから外れて、少し入り組んだ道の先には、ギルド“究極英雄”の待機所がある。
石造りの外見であり、英雄に似つかわしくない、こじんまりとした建物である。
最上位ギルド連盟の核をなすギルドともなれば、立地や広さも思いのままに選べるのだが、ヤクトは意図して手狭で利便性の悪い場所を選んだ。
彼ら“究極英雄”は6人しかいないゆえ広い建物を選ぶ必要がないというのが理由である。
しかし、それ以上に防衛のしやすさの観点から選ばれた建物であった。
小規模の建物であれば、雲ちゃんの魔法で包むことも容易である。そのため、この建物は見た目からは想像できないほどに堅固な防御性を持つ。
そんな要塞じみた室内では不快げに顔を歪ませた男が2人。
現在進行形で街に攻め入っている魔王と、仲間から来たメッセージを見比べている。
魔王(中身はハチコ)が襲来したことと、彼らに仲間からメッセージが届いたことは因果関係を持たない。
しかし、それにしてはタイミングが一致しすぎている。
そのために味方の裏切りというシナリオの可能性について考えなければならない。
ヤクトは顔にかかった前髪を鬱陶しそうにかきあげると、返信用メッセージを書き始めるが、文面に迷ったのか手が止まっている。
その様子にピースフルが口を開く。
「それで、だ。2人には何て返すつもりだ?
そのメッセージに返事をするだけで2人が裏切り者かどうかを割り出すことなんてできるものなのか?」
「この文面だけで判断するのは難しいでしょうね……。ですが、やりようはあります。
まずは我々“究極英雄”の潔白を証明しますよ」
「ほぅ?」
ヤクトはダークネスシャークから届いたメッセージを表示する。
「彼女曰く、向こうにも魔王が出現したと。
でしたら状況自体が魔王の策中な訳ですが、
あえて私がメッセージに返信しないことで彼女に好きに動いてもらいます。
その行動が敵味方どちら利するものであるかを精査すれば、彼女が味方であるか、今一度ハッキリするというわけです」
「おいおい、ダークネスシャークが裏切るなんてのは流石に俺も考えすぎだと思うぞ?」
「わかっています。99%彼女はシロでしょうが、残りの1%を潰すための判断です。
それに、此方からの指示がなくても、彼女は正確な判断を下してくれるでしょう」
そう言い切ったヤクトを見て、不貞腐れたようにピースフルが告げる。
「……まぁヤクト氏がそういうなら受け入れるけどよ。仲間を疑うこと自体、気持ちのいいもんじゃないっすわ」
「わかってますよ。私も状況証拠だけで裏切り者がいるなんて思ってません。
ですが敵から此方に情報を流してきた者が居た以上、逆のパターンもあります。
今のうちに心の準備をしておきたいのが本音です」
「うーん、納得はいかねぇが理解はしておく」
「それで結構です。状況に対する対応を確実にこなしていく以外には、我々にできることはありません。……そういう意味では彼女の方が差し迫った状況と言えます」
今度は雲ちゃんのメッセージを表示する。
「ん? どういうことだ?」
「彼女が迷子なのはいつものことですが、ここに帰って来るとするなら、確実にこの魔王と鉢合わせるでしょう。
その際に戦闘が行われてしまうと、“エニシ”が約束を破ったことになりますからね」
「ああ…なるほど…」
雲ちゃんは仲間にとっても名前の通り掴みどころのない人物であり、一番行動が読めない。
裏切りの意識なく敵に情報を流す可能性すらある。
直接会って話す以外に彼女の潔白を証明する手立てはない。
「そういうわけですから、私は雲ちゃんを迎えに行きたいと思います。
彼女は確実に迷子になりますし、ここで待機するよりは確度の高い情報も得られるでしょう」
そこまでヤクトは言って少し考え込む。
そして。
「貴方には可能なら待機をお願いしたいです」
と、付け加える。
その言葉にピースフル首を傾げる。
「ん? ああ。かまわねぇけど、“可能なら”ってのはどういうこった?」
「この後の展開ですが、おそらく幾つかのギルドから助けを求められると思います。
ここまで映像にホライゾンのメンバーが映っていない所を見ると、依頼料を引き上げられた結果、交渉が難航しているのでしょう。
おそらく今対応しているギルド連盟の方々が我々に泣きついてくるでしょう。
まぁ……貴方は人助けが好きですからね。
救い求める目に耐えられるなら待機していただきたいですが、難しそうなら出撃してもらって構いません。
その場合は、彼らがエニシの傘下に入るという結果が落とし所として無難でしょう」
ヤクトは今後の展開をまるで見てきたかのように淡々と告げる。
その言葉にピースフル苦笑いで応える。
「まぁ…なんだ。魔王の実力を知るいい機会かもしれないし、戦いそうな気がするかな」
ははは…と乾いた笑いで頬を掻くピースフルに対し、ヤクトは少し目を険しくする。
「くれぐれも気をつけてくださいよ?
貴方の敗北はただの勝ち負けにとどまらない効果を生むのですから」
「おいおい、ヤクト氏よ、忘れてないかい?
俺は死なないことに関しては世界一だぜ?」
「そちらこそ、相手がレベル100以上も格上であることを忘れないでくださいね」
そう告げてヤクトは部屋を出ていく。
その姿を見送り、ピースフルは画面に映った魔王へと視線を戻すのだった。
ーーーーーーー
ヌル=アマルガムことハチコは、新しい体の使い心地に慣れ始めていた。
最初こそ乱暴に手足を振り回すだけだった。
しかし、スキルを使い始めると、スキルに合わせて勝手に体が動く。
今まで何度も見てきたヌルの動きを頭の中でトレースしながら戦う。
精度はヌルに全く届かないが、敵を蹴散らすには十分と言える動きを続けていた。
主に使い勝手の良いニードルウィップがメイン武器である。
「魔王ぉぉぉっ! ぐえっ!」
「喰らえやっ……うわぁぁ」
武器を掲げて迫る者たちを倒していく。
ハチコは敵の撹乱が目的なので適当に倒すだけでいいのだ。
ハチコが戦闘を続ける中、少し離れた場所から話し声が聞こえる。
「魔王…何も喋らないのは何か理由があるのかな?」
「…傀儡の術を受けた人形の可能性とか?」
「あんな強ぇ人形居てたまるかよ」
「そうだね」
そんな内容であった。
彼らの会話がハチコの耳に入る。
彼女はその内容に少し気まずさ覚える。
(マズイわね…。戦うだけじゃヌルさんのフリをやり通すのは難しそう…)
確かに無言を貫けば、喋れない理由があると明かすようなものである。
素の声で話せばハチコの声になるため、冒険家の特技でボイスチェンジャー能力を使用しているのだが、どのような態度が正解であるかわからない。
素直にヌルのフリをしても正解というわけでもないだろうと考える。
ヌルは平素は丁寧で温厚な好青年である。
魔王として相手の戦意を掻き立てるか、というと全くそんなことはないのだ。
(どうしよう…どうやったらいい感じに悪い魔王を演じられるかしら……)
知り合いに悪人のモデルがいないために、誰を見本にしたら良いのかわからないのだ。
色々な人物が頭の中を巡る。
現状、悪人のモデルに一番近いディオス・レンドは小悪党というイメージが強い。
そうして思考にリソースを割いた結果、暴れるのをやめて唐突に立ち止まってしまう。
「なんだ!?」
「急に止まったぞ、チャンスか?」
そんな相手の反応にハチコの思考は乱れる。
(あああっ! どうしよう…。こんなことなら“魔王を演じるためのハウツー本“にでも手を出しておくべきだったわ!)
一度考え始めると止まらないのは彼女の癖で、結論が出ない状態で迷いを抱えたままに動けるほどにはこの体に慣れていない。
しかしその時、ハチコの脳内に閃きがある。
(ハウツー本……そうだわ! 何を勘違いしていたのかしら!)
決断してから行動の速さは見事なものでハチコはボイスを切り替える。
そしてノイズ混じりの、如何にも悪役然とした声に変更する。
そして、堂々と背筋を伸ばすと両手を広げ、天を仰ぐ。
「弱い…弱すぎる…。有象無象をただ片付けるだけの虚しさよ……」
小さくない声でそう周囲に話しかける。
そしてゆっくり歩き始める。
突然魔王が話し始めたことに驚くひとりを殴り飛ばす。
「敵として多少は骨のある者が居ないかと期待したものだが…。予想が外れたようだ」
ハチコはいかにも魔王という演技をする。
彼女は言わずと知れた読書家である。
そして、本ならば何でも読むのだ。
本を求めてユニバースに登録するほどで、当然ファンタジーも嗜んでいる。
そう、答えは彼女の読破してきた物語の中にあったのだ。
そういうわけで、彼女は大量に読んできた物語から文章をなぞるようにそれっぽい言葉を紡いでいく。
「やはり、強者と呼べる者は余さず我が配下に来てしまったようだな」
とりあえず尊大な態度で相手を煽ってみる。
ヌルであれば絶対に言わないセリフであり、ハチコも選ばないようなものだ。
しかしこれは”演技“であるため率先して使っていく。
本当の魔王と演技とに差があるほど相手の混乱を招くだろう。
本物のヌルが偽物と思われる状況がベストである。
「何だと貴様ァ!」
挑発を受けて武器を抜いた人物をニードルウィップで殴り飛ばす。
「他愛無いな…」
(こっちのセリフ無視して攻撃すればいいのに、変に律儀な人たちだわ)
ハチコは自身が当事者であるため気づかないが、魔王は謎の存在である。
一挙手一投足が注目を集める存在であり、観察が可能ならなるべく情報を引き出したいと認識されている。
尤も、ハチコを観察しても判明するのは想像上の魔王であり、せいぜい情報的メリットは高レベル合成獣のスキルがわかる程度だろう。
ハチコが冒険者として元々持っていたスキルも使用するため欺瞞は十分と言える。
さらに1人殴り飛ばす。
(戦い続けて思うけど、ヌルさんは天才ね…。触手を自在に動かすスキルなんてなかったわ。つまりは全部の触手を意識してるのかしら?)
そんなことを考えながら戦闘を続ける。
ハチコがさらに一つギルドを壊滅させ、それっぽい感想を述べる。
「期待はずれだったか…。一体、強者はどこにいるのだろうか」
セリフを披露する機会が数度与えられたことでハチコの頭の中でも魔王のイメージが固まりつつあった。
尊大な態度で強いプレイヤー求めて徘徊する。
強者を見つけたら配下として勧誘するキャラという位置付けにした。
そんな折、彼女に声をかけるものがある。
「ほぅ? なら俺が相手してやるぜ、魔王さんよ」
ハチコが見るとピースフルが姿を現したところだった。
「えっ……」
ハチコは素で唖然としてしまう。
想定していないではなかった展開のはずだが、いざトッププレイヤーを前にすると動揺を隠せない。
幸いハチコの声はピースフルは聞こえておらず、顔がないために動揺も悟られていないようだった。
(や、ヤバいかも〜〜!! こんな大物が釣れるだなんて…!)
ここは紛れもなく敵陣のど真ん中である。
敵を倒し続ければ、いずれはより強い大物が出てくるというのは当然の話。
だが、魔王の演技にノリノリになっていたために、ついそれらの事情を失念していた。
若干の思考停止で動きが止まってしまっていたが、あまり長時間動かずにいると怪しまれる。
そのため演技で上書きする。
「ふむ、ピースフル・ワイルドアイランド…。
確かに相手にとって不足はなさそうだ」
(嘘です!私じゃ絶対勝てません!)
思考停止での動揺を、ピースフルを値踏みしていたことにする。
必死に虚勢を張るハチコの頑張り通じたのか、ピースフルは不快げに睨みつける。
「魔王に名前を知られてるなんて、俺も随分有名人になったものだな」
とりあえず会話に応じてくれそうであれば、ハチコは会話を続けることにする。
彼女の目的は敵の撹乱であるため、偽情報に基づく行動と時間稼ぎができれば問題ないのだ。
そういうわけで、ピースフルへの演技を続行する。
「ピースフル・ワイルドアイランド」
「なんだ?」
「我が配下として魔王軍に下る意思はないか?
貴様であれば望む席を用意してやろう」
(思わず言っちゃったけど、逆上して襲いかかってきたりしませんように……!)
強者を求めるキャラ作りのために、なんとなく告げた言葉だった。
「……ナメてんのか?」
効果は覿面だったようで、ピースフルの放つ圧力…怒気が大きく増したように感じられる。
それをハチコは悠然と受け流す。
「ククク……」
(あひぃ〜〜! ヌルさんのボディじゃなかったら失神してるかも〜。こわぁ…)
中身はビビり散らかしていたが。
ピースフルがいつ武器を構えてもおかしくないのだが、怒気を一度鎮めてから、今度はピースフルが声をかける。
「おい魔王。一つ聞かせろ」
ハチコは答えずに、身動きで続きの言葉を催促する。その方が魔王っぽいのだ。
意図は通じたようでピースフルが続ける。
「その石像……本物のプレイヤーを石化させたものか? それとも飾りか?」
ヌル=アマルガムの体には石化したハチコが張り付いている。
これは紛れもなくハチコ自身であり、彼女がこの体を操作している所以でもある。
(あら? 意外にも食いついたわね。私のことを知っている…というより。おそらくパスタさんの安否を確認したいってところかしら。
だとしたら、答えないのが一番それっぽい?)
ハチコは演技がかった態度を続行することにした。
右手で石化した自分の顔を撫でる。
「ククク…いい姿だろう?」
そのままゆっくり首、胸と表面を滑らせるように手を動かす。
「我が覇道の邪魔をしてくれたのでな、特等席に招待してやったというわけだ」
この石像には意識がありますよー、と動きで示してみるのだった。
ちなみにこれはゲームのガイドライン違反行為スレスレの行動である。
この行為が許されているのはハチコが自身の体に触れているからである。
ヌルがハチコに同じことをした場合には、ハラスメントで利用規約に引っかかり、アカウント停止処分とペナルティに間違いないだろう。
「テメェみたいなゲス野郎は不快なだけだ…」
石化しているからといって相手の体に無遠慮に触れる行為は、流石にピースフルも苛立ちを隠しきれないようであった。
友人の安否を聞きたいところだったが、これ以上の問答は無用と判断して武器を構える。
光り輝く剣が出現する。
宝剣パレード。
感情をチカラに加える武器であるため、激昂しているピースフルの攻撃力は非常に高いことが予想される。
剣は赤く煌々と輝いているのに対し、盾はバックラーのような形を保っている。
「これは楽しめそうだ…」
(嘘です煽りすぎましたごめんなさい〜!)
演技でしか会話が成立しないため、ハチコは偉そうな魔王の動きを継続する。
とはいえ、いまさら後には引けないハチコ。
どうしようもなく触手を構える。
敵に情報を渡さないようにスキルの多用は避けようと考えるのだった。
こうして魔王のフリをしたハチコとピースフルとの戦闘が開始されたのだった。
ーーーーー
───とある白い空間。
陽夏はイベント中に攻撃を受け、あえなく死亡した。
イベント中に消滅すれば、イベント専用エリアから追い出されるのは正しい挙動である。
しかし、この白い空間に転送された。
「あら? どこかしら?」
本来、帰ってくるのは転送される前の地点。
つまり魔王城に帰還するはずだが、どう見ても魔王城ではない。
動き回るには狭い空間。
周囲にいた陽夏配下である製作生産系のプレイヤーも見当たらず、完全に1人だった。
「メニュー…もだめ。何かしらね?」
狭い部屋の壁をノックしながら歩く。
「それにしても……、最悪なタイミングで死んじゃったわね。…明日からヌル君にどんな顔をして会えばいいのかしら?」
部屋の壁をノックしながら一周する。
「出口はなし。もしかしなくてもトラブルね」
その陽夏の声に反応したのか、突然、1人の人物が壁からニュッと生えてくる。
「いーえー、トラブルではありませんよ?」
「きゃあ! え? だ、どちら様?」
誰何した陽夏だったが、名前を見てすぐに理解する。
『GMオブシディアン』
警備員のような帽子を被った銀色のメタルスーツ。紛れもなくGMそのものである。
「お疲れ様でございます。こちらGMでございます」
「え? ああ、お疲れ様です?」
「あはは…挨拶を返されたのは初めてですね」
笑ってはいるもののメタリックなフルフェイスマスクつけているため、表情はわからない。
「ともなればアナタは初めてのお客さん。
初めまして。ここは待機室、通称『監獄』です。
アナタがゲーム規約に抵触したと目される行動をしたため、転移されました。OK?」
多少ラフな態度だが、陽夏は気にしない。
むしろその言葉の内容の方が気になる。
「今『監獄』って言った? それって悪いことした人が来るところでしょ? アタシ何もしてないわよ!?」
「まー皆さん最初はそうおっしゃいますがね、AI判定でアナタは規約違反が確定しちまってるんですわ」
「ええっ!? そんな…アタシ…」
不安げに言葉を途切れさせる陽夏。
本当に思い当たる節がないのだ。
彼女は突然に罪を指摘されても強い態度に出れないタイプである。
「ま、ま。とりあえず、このログ見てくださいや。アンタのもので間違いありませんね?」
彼が陽夏に見せたのはイベントで消滅するまでの5分間の行動履歴であり、間違いなく彼女のものである。
「あ、はい…確かにアタシです…。でも、何もゲーム違反になるようなことなんて…。
きっと何かの勘違いです、信じてくださいっ!」
「はい、はい。本人確認取れましたんで、ちょいとコレ見てください」
彼女の訴えには耳を貸さず、事務的に映像を表示する。それは陽夏がイベントで死亡する寸前の映像だった。
パーティ通話に意を決して話しかける陽夏が映っている。
『アタシ、畑 優華は、あなたの事が好──。
えっ? 敵? なんで? きゃーーー!!』
その短い時間だけを写して映像が終わる。
そしてオブシディアンは陽夏を見る。
「アナタ自分の本名を言いましたね?」
「あ」
ポカン口を開けた陽夏。
そして思い出したのだろう。
ゲームアカウントは個人情報と密接に関わっているため、トラブル防止の観点から専用の手順を踏まずに個人情報を明かしてはならない。
という絶対のルールがある。
「……言い…ました。はい」
先程までの哀れな被害者のような態度ではなく、観念した子どものような態度だった。
彼女が認めたのを確認して、オブシディアンが移動する。
「そういうわけですからね。アナタにはペナルティが課されるわけなんですが、状況を明確にしたいんでね。いくつか聴取させてもらいますよ。っと」
そう言って、いかにも取り調べという風体の机とイスを出現させる。
そのイスにオブシディアンが座ろうとした時。
「「ちょーーーっと待ったぁーー!!!」」
その声と共に新たに壁から2人出現する。
『GMマリー』
『GMラディッシュ』
声からして女性の2人組。
彼女達は若干高めのテンションでオブシディアンへと詰め寄る。
「オブシディアンさん、彼女への聴取は私たちが担当します。ここは譲ってください」
「……あん? いやぁそりゃあ流石によぅ」
「お黙りなさい。コレ、チーフに書かせた指示書。つべこべ言わずに席を譲りなさいな」
「ったく横暴だぜぇ…。はいはいわーったよ」
何やら裏取引のようなものが行われ、オブシディアンはその場から姿を消す。
そして陽夏の正面に2人のGMが腰掛ける。
「担当を替わらせて頂きました」
「改めてよろしくお願いします」
「え? ええと、よろしくお願いします」
状況を飲み込めず、困惑する陽夏に2人が息を合わせて告げる。
「「じゃあ、恋バナ聞かせてください!」」
とんでもない職権濫用が始まろうとしていた…。
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