第39話 ティオ防衛戦
ヌルが物理的に勇者勢プレイヤーを振り回していた頃、ティオは頑張っていた。
「チーム3班から7班は遠距離攻撃の準備をするデス! ボクは最大範囲でライブをするので、1、2班で敵を受け止めてくださいデス! 戦闘専門のチームが救援に到着するまで耐えてください!」
魔王軍制圧下の橙2番の街では、ティオが自身の能力である“拡声”を使用して街全体に指示を飛ばす。
その指示の内容が適切であることや、堂々と指揮をする様子に驚きを隠せない者も多い。
ギルドメンバーたちの考えでは、比較的ティオと触れる機会の多い“円卓”と呼ばれるギルド幹部が、ティオの要望を受けて陣頭指揮を行うものと思っており、それは当の円卓のメンバーですら同じように考えていた。
彼らがティオに抱いている印象では、敵襲に際しどうしたらいいか分からずに狼狽えてしまうタイプだった。
「魔法が使える人は土塁を強化して欲しいデス! あとあとMPが切れたら10班に合流してね。みんなで拠点を守るデス!」
もし、ティオが以前のような…ただただヌルを慕う少女であったなら、彼らの予想通りだっただろう。
きっと仲間からの色々な情報に踊らされて「なんとかして欲しい」としか言えない状態に陥っていたはずだった。
しかし、今の彼女は多くの経験を積んだ。
四天王としてダンジョンに行ったこと。
ディオス・レンドの暗躍によって味方を窮地に晒し、自身の素性を明かしたこと。
最狂のプレイヤーと共に修行を積んだこと。
ライバル「陽夏」の登場。
その全てがティオを一回り大きく成長させた。
プレイヤーとしても、人間としても。
ゆえにティオ・フォルデシークは堂々と戦う。
誰もが彼女を四天王に相応しいと思えるように。
…と、頼もしく振る舞うティオだが、実のところヌルが近くにいる時ほど張り切ってしまって空回りする。ヌルに見てて欲しいという思いだけが先走ってしまう残念な性質の持ち主なのであった。今の凛々しさはその反動と言える。
敵の襲撃が判明した際、ティオは早い段階で冬雪にメッセージを送っていた。
“作戦通りで問題ないのか?”と。
開始前に決めていた作戦では「籠城からの徹底抗戦」「迎え打つ形で決戦を仕掛ける」もしくは「撤退して拠点を渡した上で包囲」など、
さまざまなパターンが存在しており、それぞれイベントの経過時間に応じてパターンを変える想定だった。
やや複雑な戦術も含まれているが、ティオの配下は魔王軍最多であり、ティオへの忠義も高いため可能と判断されている。
その事前の作戦によれば、打って出る形で味方を出撃させるプランだったのだが、ティオはどうにも嫌な予感がした。
ゆえに冬雪に念押しのためにメッセージを送ったのだった。
ティオの勘が当たったのか、冬雪からの返答は事前の作戦とは異なり“敵の狙いが読めない、防衛を基軸としたプランに変更”というものだった。
冬雪曰く、敵の動きが正確過ぎるのだ。
橙と紫の大地の間には、見張りの魔物によって“結界”ともいうべき防衛線を構築している。
おそらく敵は昨日の時点でこちらの索敵網ギリギリ外で待機して、今日になってから急襲したのだ。
しかも索敵網の外からでは判別がつかないはずのティオの陣地を目指してである。
防衛線の魔物の配置はあまねくの拠点に行く道へと誘導しているにも関わらず。だ。
冬雪はこれはもう内通者の仕業であると結論づけるしかなかった。
そうした事からティオは防御をメインとした対応になったのだった。
『ティオちゃん、戦闘が始まった。足止めの魔物がどんどんやられてる』
そんな報告にもティオは毅然と返す。
「構わないデス。足止めされてる敵のトドメを刺す事をイチバンにしてください。
ボクも外に出ます。ここは逃げ場がないデス」
街の中心にある建物、宝珠のある部屋でそう宣言すると、すかさず周囲の“円卓”メンバーから声が上がる。
「そんな! 危ないよ! ここが一番安全らしいからここに居るべきだよ」
「ティオちゃんを狙撃しようという輩が何処にいるかも分からないでござるよ!?」
それぞれが焦った顔でティオを押し留めようとするが、ティオはそれぞれの顔を真剣に見る。
「ここでライブをやっても、外にいる人たちに効果が届かないデス。後援会の特性はボクのライブがみんなにめっちゃ効くように設定されてるんですから、ライブをしない手は無いデス」
「でもだね…」
理由を述べてもなお了承しないメンバーに対し、ティオが挑発的な顔を向ける。
「ここに居るみんなはボクのファンの幹部。
…つまりは“親衛隊”のハズですよね?
ボクが外に出るのに守ってくれないのデス?」
「……!」
「なっ!」
まるで「じゃあなんでお前らここに居るの?」と問うかのようだった。
その表情は今まで彼女が見せてきた“癒しの妖精”とはまるで違う、蠱惑的な魅力を匂わせる。
そんな彼女の新しい一面を見たメンバーは考えを改める。”ティオ・フォルデシークの新たな領域を開くためにこの局面があるのだ“と。
それと同時に思い出した。
膨大なギルドメンバーの中から自分が選出されたのは、彼女の理想を実現するためにこそであった。
「わかった。ティオちゃんがそう願うなら、我々は盾にでも壁にでもなろう、キミの思うようにしてくれ…!」
こうしてティオは12人の親衛隊を伴い、拠点の建物、その屋上へと上がる。
「ライブを開始する前にいくつか作戦を指示しておくデス。敵もきっとおバカさんじゃ無いから、ボクを狙ってきます。その時の対策デス…」
親衛隊にだけ聞こえるようにコソコソと話す。
その指示にしたがって数名が頷くとティオの元を離れていく。
今一度、周囲を見渡してティオは自分の状況に抜けている点がないかを確認する。
「よしっ!」
“拡声”のスキルを使用して街全体に声が届くように設定する。
「さぁーって! ボクのために頑張ってくれてるギルドのみーんなー!
こんな時でもボクの歌聴きたいデスかー?
聴きたいですよねー? それじゃあライブッ!
スタートッ!」
ティオがライブを開始する。
周囲のライトがティオを照らし、音楽と共に歌いながらステップを始める。
その光の中に入らないようにギルド幹部たちが防御を固め、更にその周辺にはティオの配置した狙撃手のプレイヤーたちが敵を探した。
純粋なギルドメンバーに限らず、ティオファンの一般プレイヤーも配下にいるため、イベント用に“ティオちゃんファンバッジ”を見えるところにつけて区別している。
ティオはオリジナルの曲を実際に歌う。
だが、本来スキル「ライブ」の発動においては歌う必要は全くない。
ライブのスキル説明である「歌い続け、曲を重ねるほどに効果が上昇する」というのは時間経過の例えであり、実際はライブを続けているという意識を保っていれば効果は持続する。
この事はスキルを様々な状況で試せば分かるものなのだが、ティオを始め、ユニバース内の多くのアイドルは実際に歌わねばスキル効果は発動しないと思い込んでいる。
彼女にスキルの使い方を教授した仲間、あまねくでさえ同じように勘違いしている。
これはアイドルの戦い方を解説した動画を作ったある人物の謀略であった。
その人物の裡に渦巻くのは、
自分以外のアイドルは弱いままでいいし、戦闘とライブを同時にこなせる優れたアイドルは自分だけでいい。強さだけがルールの世界で、自分だけが皆の羨望のマトになれるよう、全ての他者を踏み台にする…。
──そんな薄暗い欲望だった。
その思いからアイドルの先駆者として、真実のうちに一つだけ嘘を混ぜた解説動画を作り、
ルールそのものを立て上げたのだった。
そして今、その人物はティオのいる拠点を目指して軍団を指揮していた。
「…ふふ、アイドル対決だなんてレトロね」
周囲にその姿を見せつけるが如く歩む。
それは究極の英雄がひとり。
“プロミネンス・スカーレット”。
黒いスーツが見る者に無言の威圧を加える。
その立ち居振る舞いはモデルに近い。
砂地であるにもかかわらず高いヒールがカツカツと足音を鳴らす。
勇者勢の集団の中から進み出た彼女が襲撃中の拠点を見ると、その中心から自分も良く知るエフェクトが展開されたところだった。
「ふーん? ティオちゃんも戦場に出るのね。少しは楽しめるのかしら?」
怪しく微笑うと、近くにいた勇者勢プレイヤーに手招きをする。
「何かご用ですかな?」
招かれた男は『
ギルド連盟ブームの勝ち馬に乗るべく後から参加したギルドである。
そして注目すべきは、胸にティオ後援会のバッジの模造品をつけている事だろうか。
「進捗はどんな感じかしら?」
「優勢です。やつら集団で戦うことに慣れてないのか、防衛の魔物と役割分担が上手くできてない様子でしてね…じきに崩れるでしょう。
そうすれば我々が…」
「ストップ。あたしは作戦の状況を聞いてるのよ。どうしてあなたの感想を聞かなくちゃいけないのかしら?」
プロミネンスという名前が持つイメージとは真逆の凍てつく視線が男を突き刺す。
男はたじろいだ様子ながらも少し嬉しそうに口元だけを緩ませる。
「これは失礼しました。
作戦は当初の予定通り進んでいます。工作班ももうしばらくしたら突入しますが、陽動班と暗殺班も既に準備完了しています」
「よろしい。その言葉を聞きたかったわ。
もう聞きたいことは無いから下がって結構よ」
男は頷いて自分の持ち場である“工作班”の集団へと戻っていく。
工作班は皆同じようにバッジをつけており、いかにもティオの配下にありそうな様相の者たちだった。
男の戻った方角から声が聞こえる。
「へへ…プロミネンス様に叱られちまったよ」
「ずりぃぞ、お前ばっか!」
「いいなぁ…。俺もあのクールな目に射抜かれてぇ〜」
彼らがプロミネンスに聞こえるように話しているかは定かではないが、その声にプロミネンスは苦笑すると、拠点を見つめて呟いた。
「あたしのファンは変なのばっか…。その点だけはあなたが羨ましいわね。
でも、あなたの花園に紛れた“悪い猟師さん”を追い出さないと、あなたに未来はないわよ…ティオちゃん?」
橙2番の街はティオのスキル効果で満ちている。
内容は回復力と自動回復、俊敏さなどを上昇させており、誰であれ普段以上の力が出せる。
とはいえ彼女の配下プレイヤーは強さも経験もまちまちなために、勇者勢と比較して多くの部分において戦力的に劣る。
ゆえに街を守るプレイヤーは徐々にその数を減らしてきていた。
実は、この状況は魔王軍にとっては想定内である。外へ戦いにいく者より、街の内側で防衛にあたる人員の方が圧倒的に多数となるように調整していた。
ティオが街の中心にいる以上、敵はそこへ向かう。街のいたるところに伏兵を配置して不意を突き、建物の屋上や2階など高所からの魔法で殲滅する計画である。
ライブを続けるティオに報告が入る。
「前線が崩壊した! これ以降は街に侵入した敵を対処する段階に移行する」
そう言ったのはティオの周囲を守る親衛隊の一人で、名前を「エドン」という。
この人物は観測部隊から情報を受け取って共有する役で、円卓メンバーの中でも事務仕事を得意としていた。
「ここまでは想定内といったところか」
「ああ、あとは援軍が来るまで守り切るぞ」
「敵が来ようが来まいがアタシはティオを守るだけさね」
「ん? 待った、メッセージがもう一通来たみたいだ……。なに?」
メッセージを読むうちに表情が厳しくなるエドン。そんな彼に尋ねる声がある。
「どうした?」
「それが…敵をうまく識別できていないらしい…」
「は?」
「なんだって?」
想定外の報告に俄かに騒がしくなる。
当然ティオの耳にも入っているが、歌を止めたりはしなかった。
彼女の動揺はダイレクトに味方に伝わるため、相手にまで策略の成功を悟らせてしまう。
ティオはそのことを考えて続行を決断したのではなかったが、現段階では正しい判断だったと言えるだろう。
やがて詳細な続報を待っていたエドンが追加のメッセージを読み上げる。
「前線部隊が敵を確認…。ニセモノのバッジをつけていた…? 魔法攻撃部隊が敵を見分けられていないだって!?」
「ニセモノのバッジ!?」
「どういうことだ!」
彼らの驚きも尤もで、ティオの配下プレイヤーのつけている“ティオちゃんファンバッジ”は今回のイベントのために急造されたものだ。
遠くから魔法による狙撃を行うプレイヤーたちは距離的に相手の名前が表示されないため、
目立つデザインのバッジをつけていないプレイヤーを狙って攻撃する手筈だったのだ。
混乱がさざなみのように広がる中、満を持して”内通者“ルーク・ハーベストが口を開く。
「バッジ作成を依頼した四天王。あの“陽夏”氏の配下にスパイがいたのでは…?」
小さな波が大きな波に呑まれるように、ルークの声に賛同する者が出始める。
「ふむ、その可能性はあるでござるな…」
「確かにあの四天王とティオは仲が悪いと聞くねぇ?」
「するとアレか? ティオちゃんの失策を演出するために、かの四天王が仕組んだと?」
ざわざわと周囲が話す様子にティオは焦り始める。
彼女は陽夏がそのような真似をするなど絶対にないと思っているが、彼らの疑いの目が陽夏に向いてしまった状況をどうしたら解決できるかが浮かばなかった。
歌うのをやめて説得に回るかと意識し始めたところで、ティオの耳に通話音声が届く。
最も策略に長けた四天王の声だった。
ーーー
街ではティオの配下メンバーが混乱の渦中にいた。
「パチモンのバッジつけてるらしいぞ!」
「遠目じゃ分からん。近寄って確認するしか…!」
「そんな悠長なことをしていたら確認してる間に攻撃されるっ!」
「俺らが判断つかねぇなら魔法部隊はどうしようも…。魔法攻撃が頼みの綱なのに…!」
「前方に部隊を発見!」
「味方か?」
「相手も戸惑ってるっぽい、バッジつけてるし味方なんじゃないか?」
疑心暗鬼の一行。
こうして判断に手間取るだけでも大きな隙となる上、もし付近に敵がいれば挟み撃ちか2部隊まとめて襲撃にあってしまうのだ。
彼らは1対1で勇者勢にあたれば確実に負けてしまう。それ程に力の差があるため、魔法攻撃部隊による集中攻撃だけが勝利への希望なのだ。
「く…どっちだ…?」
そんな時だった。
彼らにとっての総大将、ティオが歌い続ける中でアドリブを入れる。
ライブ的に言うならば“掛け合い”だろうか。
『みんな〜! いっくよ〜〜!
ティオちゃんハピネスーーーゲット!!』
よく訓練されたティオファンの彼らは、無意識のうちにその場でジャンプした。
一方、正面に見える部隊は何もしなかった。
彼らは確信を持って叫んだ。
「敵だぁ〜〜!!」
直後に炎の魔法が降り注ぐ。
魔法部隊もその様子を見ていたのだろう、四方八方から魔法攻撃を浴びせ、瞬く間にHPを削りとった。
また別の場所でも。
『ティオちゃんビューティースター!!』
よく訓練されたティオファンたちは一斉に手を掲げる。
そして挙動不審に見回したり、ワンテンポ遅れて手を掲げたりした一団に攻撃が集中したのだった。
ティオの咄嗟の判断により侵入者への反撃が開始されたことで、一応の拮抗状態となった。
ティオに親衛隊から惜しみない賞賛が送られる。
「ティオちゃんナイスだよ〜!」
「素晴らしいアイデアでござる!」
もちろん、この対応策の裏にはハチコがおり、
“何か仲間内でしか通じないジェスチャーがあるならそれを使うべき“と提案してくれたのだ。
ティオはハチコの存在を明かすわけにもいかないため、自分の手柄として甘んじて受ける。
賞賛に応えてウィンクを飛ばすティオ。
ライブのボルテージが上がっていく。
そんな中、ルークだけは内心焦りを覚えていた。
彼こそが勇者勢に魔王軍の情報を流した本人であり、魔王軍の─ひいてはティオの失脚を目論んでいる。
しかしそんな彼の計画が破綻しそうなのだ。
彼の想定ではティオにこれほどの指揮能力はなく、ここまでティオの配下が粘る事もなかった。
そもそもの計画では、ティオが魔王軍のために行う作戦の悉くが失敗し、陽夏と不和が起こり、ティオがきっかけで開いた傷口を塞げずに魔王軍が敗北するハズだった。
話に聞いた魔王ヌルは、味方には優しい反面敵には容赦がなく、ティオが役に立たないと知ればすぐに切り捨てる人物と考えている。
そのような失敗をすればティオを簡単に放り出すはずで、あれだけ慕っていた魔王から捨てられたティオはかつての
しかし、ティオがルークの想像以上に粘りを見せる。困難を跳ね除け、工夫と発想力で対応していく。
ルークは計画の中断か変更を考え始めていたが、ここで彼の歓迎するべき事態が起こる。
ティオが舞台として屋上を使っている建物、その正面の時空が歪み、十数人の一団が出現したのだった。
「お久しぶりかしら、ねぇ。ティオちゃん?」
敵の首魁、プロミネンスが部下らしきプレイヤーを引き連れて転移してきたのだ。
こればっかりはティオも歌を止める。
「プロミネンス…サン。そうですか…アナタが」
目の前の美女はティオが敵と認める数少ないプレイヤーの一人である。
アイドルとして競合相手であり、最も大きな障害となるギルドなのだから。
そしてティオのファンにその事を知らない者はいない。ティオが動き出すより先にその周囲を守る親衛隊の一人が奇襲をかける。
「ダイナマイト侍! 参るでござる〜〜!!」
装備をティオ応援オリジナルTシャツから和装の甲冑一式に切り替えると、屋上からプロミネンス目掛けてボディプレスを仕掛ける。
「ゴザえもんサンっ!」
ティオの静止も間に合わず空中に躍り出る。
プロミネンスは一瞥すると落下地点を予測してヒョイと躱わして、呆れたように吐き捨てる。
「無様ね」
その言葉を聞こえていたのかいないのか、ゴザえもんはプロミネンスを見ていなかった。
「ふふふ…」
笑顔を浮かべた彼が地面に衝突する。
その瞬間、轟音と共に大爆発をおこす。
周囲を巻き込んで炎が巻き起こり、プロミネンスに同行していたプレイヤー数人が道連れに消滅する。
その爆発が開戦の合図となり、他の親衛隊メンバーも戦闘を開始する。彼らはティオの盾となって散る事だけで十分だと思っていたが、そもそもの攻撃発生源である相手を退けねば、いずれはティオも死亡する。
爆発した侍の姿から思い至ったのだ。
こうしてプロミネンスを含めその周囲を固めるプレイヤーとの戦闘に入る。
ある意味では親衛隊同士の戦いとなる。
ティオの側も幹部というだけあって戦闘の実力も兼ね備えた者も少なくない。
ルークもまたレイピアを抜き放ち、敵の親衛隊の一人を圧倒する。
そうして隙を突いてプロミネンスに背後から攻撃を加えるが、プロミネンスはまるで後ろに目があるが如くスウェーで躱わすとルークの足を払って転ばせる。
「スターレイ!」
ルークが起き上がる前に正確に心臓を撃ち抜いたのだった。
究極英雄の一人とは、単純なバトルセンスでも飛び抜けているのだ。
その歴然とした差を見せつけられてもティオの目の光は翳っていなかった。
「みんな〜〜! 負けないで〜!」
再びライブを始めるティオ。
そこへプロミネンスが攻撃を構える。
「諦めなさいな。スカーレットランス!」
プロミネンスの手から赤く光る槍が射出されるも、ティオの横に控えていたエドンが盾を構えて飛び出す。
「うぐぅ…」
「エドンさんっ!」
彼は戦闘では役に立てないため、文字通り矢避けとして動いたのだ。そんなエドンも盾ごと身体を貫かれて消滅する。
ティオに再度狙いを定めるプロミネンス。
その攻撃を阻止しようと親衛隊が立ちはだかるが、ものともせずに蹴散らされてしまう。
「これが格の差なのよっ! スカーレットランスッ!」
再びティオに槍が射出される。
その槍がティオに当たる刹那、ティオが両足の踵を合わせると「サルトビの術」によってその場から姿を消す。
「チィッ!」
プロミネンスはティオのいた建物の屋上に登ると周囲を見渡す。
そして4人の親衛隊が予め用意していたであろう神輿にティオが乗って遠ざかる姿を発見する。
ライブをしながら街中を逃げ回ることで魔法攻撃部隊に足止めさせるプランなのだろう。
その背中を睨みつける。
「ムダな足掻きを…! だったら教えてあげるわ、ステージセット、ライブスタートッ!!」
プロミネンスの衣装が白を基調としたものに変わり、青いマントをはためかせる。
そして彼女を中心に光の波のようなものが拡散していく。
「うおっ!?」
「足が…」
「重いぃぃ」
ティオを運ぶ役目の者たちが急に動きを鈍くする。ドスン、ドスンと一歩一歩がまるで鋼鉄の靴を履いたように重くなり、ティオ自身もステップがうまく踏めなくなる。
その現象は広範囲に起きているようで、原因として思い当たるのは当然一人しかいない。
「ミラージュアイドル!」
青い残像に自分の代役を任せると、プロミネンスが
そして軽やかな足取り着地すると、スタスタと歩き始め、あっという間に動きの鈍いティオたちを捉える。
「寄らせるなっ!」
神輿を担ぐ配下メンバーたちがプロミネンスを足止めしようと魔法を放つ。
「ハイアロー!」
「スパークショット!」
しかしプロミネンスに当たる前に消滅してしまい、意に介さない。
「く…妖精の威風!」
ティオもまた攻撃技を放つも、プロミネンスは右手で払い除けるようにかき消してしまう。
そんなティオをキッと睨む。
「弱いアイドルが前線に出てくるんじゃないわよ!」
左手を掲げ、その名を冠する奥義を発動する。
「プロミネンスフレア……!」
頭上に直径1mはあろう火球が出現し、ゆっくりと回転しながら大きさを増していく。
大きさに準じた高火力である。
4人の親衛隊が庇ったとしてもティオは消滅するだろう。
「魔王軍なんてものに加担したのが間違いだったわね。戦場では仲良しごっこは通用しない。勝者だけがこの世界の絶対のルールなの」
そう言い切って小さな太陽とも呼べる火球を振り下ろそうとした刹那。
プロミネンスの頭上から銀色の光が一条。
それに合わせて返答がある。
「全くもってその通りだな」
生み出した火球もろともプロミネンスが真っ二つに切り裂かれる。
「えっ?」
「ならば今のルールは俺だがな」
あまねく・わかつが姿を現したのだった。
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