第32話 番外編:究極英雄

シルバにピースフルが笑いかける。

「救援が間に合ったようで何よりだ。少し代わってくれるか?」

声をかけられて尚シルバは驚愕したまま顔を動かせないでいた。

それは救援に来た6人がギルド”究極英雄“のオールスターだったからだろう。

超有名人が勢揃いしたわけで、銀風からしたら異常事態だった。


すなわち、

『Lv.120 ピースフル・ワイルドアイランド 超人/ガーディアン』

『Lv.116 選ばれし英雄・ヤクト 吸血鬼/罠師』

『Lv.118 ノ・ヴァ 龍人/ウェポンマスター』

『Lv.119 ダークネスシャーク・メタルスコーピオン アンドロイド/射手』

『Lv.115 プロミネンス・スカーレット ハイエルフ/アイドル』

『Lv.117 みんなの・雲ちゃん エンジェル/四重魔導士』

という6名であり、いずれも最上位の実力者である。


ボスの動きを停止させた魔法使い、ゆったりとしたローブを着た女性である、“雲ちゃん”が見た目通りの口調で話す。

「あと4秒くらいぃ。やっくんよろしくぅ。」

そう声をかけられたのは天才と名高い男、ヤクトであった。

「既に対応済みです。はい。ワームホール。」

突如、銀風のメンバー全員の足元に銀色の四角い落とし穴が出現すると、空中に留まることを許さず落下させた。

「のわっ!」

そしてヤクトの近くに大きな穴が出現すると、落下したメンバー全員を吐き出す。

「ぐえっ!」

ボスが動き出すが、またもターゲットを見失ったため魔法詠唱が解除される。

その様子を見届けてから、真紅の長髪が特徴のエルフ女性、プロミネンスが前に出る。

彼女はユニバースに10人もいない“アイドル”のプレイヤーの1人であるのだが、上下とも黒のパンツスーツという職業に似つかわしくない格好をしていた。

そのまま隊列の先頭、ピースフルの横に並び立つと片手をゆっくりと上げ、パチンッと指を鳴らす。

その瞬間、彼女の装備一式が切り替わる。

紫のテラテラしたボディコンに網タイツという、ファッションをタイムスリップした格好になる。

さらにもう一度指を鳴らすと、どこからともなくミラーボールが降りてくる。

そして、高らかに宣言した。

「ラァイブスタァァァット!!」

スキル『ライブ』を開始する。

どこからともなく取り出した、毛羽のついた扇を上機嫌で振り回している。

「フゥ〜〜!!」

呆気に取られる銀風のメンバー。

耐え切れずアリオンがシルバに尋ねる。

「…ライブって…こういうものなの?」

「よく知らないけど…違う気がする。」

そのやり取りに、ノ・ヴァが少し困った顔で近づく。

「ホントは違うんよ? あの人、その時々でブームがどんどん変わっていくもんで、ウチらも迷惑してないからって自由にさせてたらあんなんになってもうたんよ。」

あんなんと揶揄されるプロミネンスだが、アイドルとしては全プレイヤー最強であり、ライブの設定もきっちり計算している。

そのため味方への効果は魔法耐性とHP回復というオーソドックスなものでも、魔法耐性は65%カットという驚異的な効果を発揮していた。

ライブの狙われやすさ上昇により、ヘルガーゴイルがプロミネンスに狙いを定める。

4本の腕全てを前方に突き出すと、指先から魔法を放とうと魔力が集中する。

そこにピースフルが割って入って盾を構える。

「敵の威力試したいから一旦様子見で。」

とはピースフルが敵を測るのに用いる言葉で、一発殴らせて強さを確かめるという不良のケンカのような方法だった。

その言葉に応じたのは二名。

「はいな。」「わかった…。」

ノ・ヴァとダークネスシャークがピースフルの背後から進み出て、ボスを挟み撃ちするようにその両側へと移動する。

彼女達ならば敵の詠唱完了前に攻撃してキャンセルさせることも可能だが、ピースフルの希望に沿って、敵の強さを確かめてから攻撃に移ることにする。

ピースフルが盾を構え、魔法攻撃に耐えるため壁のような形状の盾へと形態変化させる。

そんな時、背後から彼を呼びかける者がある。

「継続魔法です! 気をつけて!」

シルバがそう警告した。

「お? おぉん。じゃあむしろ楽だわ。」

肩越しにそう言うと、盾を形態変化させる。

盾が上半身を隠すには足りない程度の大きさのうずまき模様に切り替わる。

ズズ…と常に渦が動いており、衛星写真で見た台風の雲のようなデザインであった。

ヘルガーゴイルの4本の腕全てからピースフルに向かって魔法が放射される。

すなわち炎、雷、吹雪、そして竜巻。

対して、ピースフルは防御を強化するスキルを一切使わずに盾のみを所持している。

シルバは同じ防御系職業としてありえない行動をするピースフルに目をみはる。

ガーディアンが防御スキルを覚えないのだとしても、装備やアーティファクトでスキルを使用しての対策は必須である。

なのに何もスキルを使用していなかった。

さらに驚くべきは魔法が命中した後のことだった。

ピースフルに表示された効果は断続的に表示されるダメージのはずだが、数値はゼロである。

「えっ…。」

銀風のメンバーは驚きの連続で、最早何に対しての驚いたのか分からないほどだった。

一方で究極英雄のメンバーは当然の顔でいた。

「ん。攻撃力は想定以下っすわ。二人ともやっちゃってOK!」


返事は2人分。

「ん。」

「はいなー。」

軽快な返事をした女性、ノ・ヴァが歩き出す。

彼女はウェポンマスターである。

この職業はユニバースに数多ある武器種から、12種類の武器の熟練度を最高に…つまり達人級にまで成長させる事で取得できる。

そうして到達したウェポンマスターはしかし、どちらの手にも武器を持っていなかった。

もちろん所持はしているし、装備もしているが、腰に下げた剣は正真正銘”飾り“である。

山ほどの武器スキルを習得し、それらを使い抜く中で彼女が出した結論は”ぶっちゃけ両手にバリアつけて素手で戦った方が強いんと違う?“という、まるでだった。

結果としてバリアを装備している事が見た目で判断されないように、飾りで剣を装備するに至ったのだ。

トコトコと魔法が放たれている腕の真下までくると、拳を構える。

そしてその拳に光が集中するようにして輝きが増していく。

「シャーちゃん、いくで。」

「ん。待って。」

静止の声がしたのは、ノ・ヴァからボスを挟んで向かい側。

ダークネスシャーク・メタルスコーピオン。

通称はシャークもしくはダークなど。

名前の与えるナンセンスで無骨な印象とは裏腹に、普通の少女である。

パーカーについたネコミミ付きフードを深く被り、意味もなくヘッドホンを首にかけている。

種族はアンドロイドだが、見た目は人間そのもので、戦場に迷い込んだ一般人に見えてしまう。

しかしその強さは所属ギルドの時点で明らかである。

彼女はヘルガーゴイルに背を向けると、階段を登るように何もない空中を駆け上っていく。

やがて、地上数メートルの壁側に背をもたれると、手のひらサイズの黒い正方形を取り出す。

「ブラックコア起動。」

その言葉に反応して正方形の表面に亀裂が入ると、ザラララ…と砂のように崩れる。

その直後、黒い砂となったソレがシャークの右腕を巻き込むように再び形を成す。

やがて彼女の腕そのものがレーザーライフルとして変形したのだった。

「いいよ。」

ノ・ヴァに短く返事をする。

その言葉にノ・ヴァは不満な表情を見せる。

「初めからその格好しといたらいいんと違う?」

その言葉に今度はシャークがムッとする。

「……。」

「なんよ?」

ノ・ヴァが耳に手を当てて、聞こえませんよ?というポーズを取る。

そこにシャークはぽつりと呟く。

「……(だってその方がカッコいいん)だもん。」

「何だって?」

「…何でもない…。」

少し赤い顔でプイッとそっぽをむくシャーク。

「へへ、かわいいやつめ。」

ノ・ヴァは満足そうに頷く。

当然このやり取りが繰り広げられている間も、ピースフルには敵の魔法が放射され続けている。

「シャーちゃんお先にどうぞ。」

「ん。…セット。発射、貫通。」

バシュンッー…とシャークの腕に融合したライフルから、彼女の腕よりも太いレーザーが放たれる。

狙いは雷の魔法を放つ腕。

レーザーは黄色の腕輪の腕に直撃するも、その腕を易々と貫通し、緑の腕輪の腕にもキズをつける。

その瞬間を狙ってノ・ヴァが跳躍した。

緑の腕、レーザーの当たっている位置の反対側に触れる。

「守備を許さず。崩震撃。」

時空にヒビが入るようなエフェクトが表示された後、その周囲にある全てが一点に無理矢理圧縮されるように面積を狭めていく。

やがて圧縮が臨界点を迎えると、崩壊するエネルギーそのもの溢れたかのようにボスの腕がグシャ…と歪んで崩れる。

レーザーが貫通した腕も、穴の空いた箇所が自重に耐え切れず砕け落ちた。

ボスが黄色と緑の2本の腕を失う大ダメージを負ったことで魔法の放出が止まる。

ヘルガーゴイルはそのダメージの発生源であるノ・ヴァとシャークに狙いをつけて、残った2本の腕を振り回して殴りつける。

「おっと。」

「ん。」

ノ・ヴァは散歩中に枝葉を避けるような動作でボスの拳を受け流す。

一方、シャークは背後に出現した銀色の四角い落とし穴に滑り込む。そうしてヤクトの隣に出現した。

ヤクトはシャークに戦った感想を尋ねる。

「どうでしたか?」

彼は作戦を考える役割があるが、敵が歩かない場合は敵を罠に嵌めて情報を集めることが難しい。

そのため、味方の情報に頼る。

問われた少女は少し考え。

「…柔らかかった。でも───。」

シャークが無造作にレーザーライフルを放つ。

敵を見ていないが、細いレーザーが真っ直ぐボスの胸の中心、コアがある場所に当たる。

だがダメージが低く、キズもつかない。

「あそこは堅い。」

「そうですか。……ノ・ヴァさーん、敵の腕と羽根を全部破壊してもらえますかー?」

ちょっとした用事を頼むような声色でヤクトが声をかけると、ノ・ヴァも同じ気軽さで返事をする。

「はいなー。」

「助けは要りますかー?」

「いらんー。」

そう言ってノ・ヴァがボスに駆け出していく。


それらのやり取りを見届けてから、雲ちゃんがにっこり笑う。

「お茶にしましょうかぁ。」

背中の翼がバサっと音を立てると、洋式の茶器が載ったワゴンが出現する。

それに続いてヤクトが慣れた手つきでテーブルを召喚する。

雲ちゃんが銀風のメンバーに振り返ると、柔らかい笑みを見せる。

「あなた達もどうかしらぁ?」

この状況でどうして寛げるのか全く理解できないが、問われた以上は答えなければならない。

「は、はい。ありがとうございます。」

シルバは、こんな機会は滅多にないのだからと誘いを受ける事にする。

テーブルについたのは銀風のメンバーと、ヤクト、武装を解除したダークネスシャークであった。

ノ・ヴァは戦っているし、ピースフルは急な攻撃に即応できるように盾を構えたままだ。

それを無視した雲ちゃんが、平然とみんなの前に温かい紅茶の入ったカップを並べていく。

落ち着く香りと湯気がリラックスさせる。

そんな仲間の様子を、踊りながらプロミネンスが眺める。

「やめやめ。ミラージュアイドル! これでよし、あたしの分もよろしく。」

スキルによって青い残像を出現させると、残像が彼女の代わりに踊り始める。

それを確認してからライブ開始前のパンツスーツの格好に戻ってテーブルにつく。

「わかってまぁす。」

雲ちゃんがにこにこしながらカップを一つ追加する。

アリオンが様子を窺いつつもとりあえずカップに口をつける。

「…美味しい…! コレ、雲ちゃん…さんが淹れたものなんですか?」

「わたしのことは、雲ちゃんでいいわよぅ。

あと、その紅茶はわたしじゃあ、ないの。

とってもいい雰囲気の、ご姉弟でやってるお店があってねぇ、そこで淹れてもらったものを、こうして保存したの。わたしも、大好きなの」

彼女はティーポットを示す。

特殊なアイテムで、見た目の数倍の容量を誇るほか、中に入れた液体(料理に限る)が劣化しないという特性を誇る。

すごいでしょ? とポットをアピールする雲ちゃん。

それを眺める銀風に対してプロミネンスが口を挟む。

「あのポット25万ユニ。」

「でぇええっ!?!?!?」

シルバがひっくり返りそうになる。

銀風のほかのメンバーも驚きを隠せない。

確かに特別なアイテムだが、最新の武器に匹敵する値段だ。

No.1ギルドは金の使い方も豪快だと感心するのだった。

「でも、そのお店潰れちゃったんでしょ?」

「ううん…移転…。なのかしらぁ。せっかくポットを、買ったのに…。店員さんとも、もっと仲良くなりたかったから、残念だわぁ。」

その会話にヤクトが渋い顔をするが、気にせず雲ちゃんが尋ねる。

「ねぇぇ? やっくんは、知らないかしら?」

「さぁ、特に有力な情報は…。まぁ、日が来るでしょう。」

含みのある言い方だが、彼の言葉の真意を理解した者はその場には居なかった。


そういえば、とカケルが顔を上げる。

「っと、ダークネスシャークさん、ちょっと失礼かもしれないけど、質問していいすか?」

カケルに振り向くでもなく促す。

「ん。」

「連盟で割と噂になってるんですけど、

ダークネスシャークさんって“ピースフルさんの彼女”なんですか?」

「ぶっ! ナニ!? その……何!?」

突然の質問に紅茶を吹き出したシャークが、顔を真っ赤にしてうろたえ始める。

「その…噂、何処っ…の、どいつ!?」

シャークが歯切れ悪くしどろもどろになりながらも言葉を搾り出す。

そんな様子を傍目にプロミネンスが口を挟む。

「それは不正確。正確には片想いよ。」

「て、テメー!? ナニを…。」

頬杖ついたプロミネンスが意地悪な顔をする。

「この子ね…、武器が変形するところがアノ人とお揃いだからって黒い箱をずっと使い続けたり、ちょっとでも一緒にいられるようレベル上げを頑張ったりしてるの…健気でしょ?」

「う…ぁ…。黙れ、黙れぇ…!!」

ゆでだこになったシャークはハンドガンを取り出して数発撃つが、プロミネンスは避けない。

ピースフルが盾を構えている間は、パーティメンバーのダメージはピースフルに行くのだ。

200!とか300!というダメージが少し離れたところにいるピースフルに表示される。

そのダメージが気になったのか、ピースフルが近づいてきた。

「なんかダメージ食らったんだけど…何かあった?」

「うあぁぁ!」

シャークが真っ赤になったところに当事者が来てしまう。

「何でもない! 呼んでない! ちゃんと仕事しろ、あっちいけバカァ!」

半狂乱のシャークがピースフルにハンドガンを撃つが、彼の防御力の前にはダメージは発生しない。

「はは。いつもこんな感じなんだ。俺らは気にせずゆっくりしててくれ。」

ピースフルは銀風にそう語りかけると再び盾を構えてボスの前に向かっていく。

「フーッ! フーッ! うぐぐ…。」

シャークは恥ずかしさと悔しさと整理しきれない感情がごちゃ混ぜになった顔をしている。

「この子、かわいいでしょ?」

プロミネンスはとてもいい顔をする。

クール系で知られる人物達の意外な姿に、誰も何とも口を開けなかった。

実際、ピースフル自身もシャークの気持ちは知っているのだが、彼女が自分の意思で言葉にしようとするまでは聞かなかった事にしている。

少しばかり落ち着いたシャークが、話題を変えるためにノ・ヴァを指差す。

「はぁっ…はぁっ…あいつの方が、シュミが、悪い。」

それぞれがノ・ヴァを見る。

プロミネンスが言葉を加える。

「あの子はね、“あまねく・わかつ”くんが好きなのよ。」

「えっ…。」

先程自分を切り刻んだ人物を思い出し、シルバの背筋に冷たいものが走ったのだった。


一方、自分の想い人を暴露されているとは考えもしないノ・ヴァはボスの腕を残り1本にまで減らしていた。

尤も、彼女は誰が見ていてもあまねくに言い寄るので、近しい者にはそれなりに有名な話なのだが。

「ふーん? つまり壊れた腕と同じ属性の上位攻撃を翼が使うんや?」

ボスが翼による攻撃を仕掛ける際、ノ・ヴァがスキルでほとんどの行動を妨害する。

そのためにボスの攻撃が成功せず、行動パターンを読み解くのに時間がかかっていた。

とはいえ、行動パターンを読み解かなくても倒せるだろうと考える。

彼女の経験上、ダンジョンボスのような敵はHPが減るほど強くなるというのが定例だ。

腕1本を破壊するごとに減少するHPから今後の展開を予想する。

「残りの腕を破壊で大体HP半分。

そこで行動パターンが切り替わるとして…。

あの羽根ちゃん4枚がそれぞれ1割相当と考えると、全部壊して残りHP1割…でもっかい行動パターン変わって強うなるんと違うかな?」

攻撃を避けつつ、大技を妨害して不発にしつつも考える。

「つまり、!!」

とりあえずの結論を出す。

もし銀風に聞こえていたら「それができれば苦労はしない」と呆れられていただろう。

そもそも“腕と翼を1つづつ残せば行動パターンの切り替わりを短い時間でこなせる。”という考えに至らないのが強者特有の思考と言える。

しかし、彼女は真面目にその答えに辿り着いたし、できるという確信がある。

「いくで。」

ニヤリと笑ってからボスに向かって飛び込むと、彼女は奥義を使用する。

「とうっ! 『冥界十王』っ!」

ノ・ヴァが10人に分裂する。

とある人物への憧れから習得したスキルであった。

ボスの腕や羽根にそれぞれ2人づつ向かい、同時に攻撃を仕掛ける。

「さっき触った感じ、こっちの耐久性は腕より低いはず。本来は腕が防御力高めで羽根ちゃんは攻撃が高めなんかな。知らんけど。」

腕や翼の攻撃をかわしながら、それぞれの分身が想定した位置に辿り着く。

それぞれ自分同士で向かい合うと力を集中させる。


ウェポンマスターは武器に“破壊のチカラ”を纏わせる事で、その武器の専門職と同等の攻撃力を出すことができるのだが、その本質は“破壊のチカラ”そのものを操れる点にあった。

「暴・虐・拳!」

ノ・ヴァが分身と同士討ちするようにお互いの攻撃をぶつける。

本来ならエネルギー同士がぶつかったことで、対消滅か、拡散してしまうところを器用に操り、ボスにそのエネルギーを流し込み留める。

そうして行き場を失った破壊のチカラがボスの腕や翼を暴れ回り、ダメージとして還元される。

やがてそれぞれの攻撃箇所が大爆発を起こし、腕や翼が崩れ去ると、ボスのHPが実に5割も減少したのだった。

「やったで!」

ぴょんと跳ねて喜びを表すノ・ヴァだったが、ボスの様子が変わった事に気づく。

腕も翼もなくなった事でコアが露出したが、そのコアがボスを離れて宙空に浮かび上がると、不思議な光沢をもった数層のバリアに覆われる。

そして頭部の先から細切れに裂け、巨大なイソギンチャクのような見た目と化す。

ノ・ヴァがそれを見上げる。

「暴走モードいうやつやな。」

ボス戦における、あと一息という場面である。

ここを越えられるかでプレイヤーの地力が試され、本来の強さが証明される。

バトルフィールド全体が鳴動し、揺れ始める。

ボスを中心として巨大な魔法陣が──。

「はい予定通り。ゼロアクト。」

四重詠唱クアトロマジック隕石落下フォールメテオぉ」

「プロミネンスフレア!!」

「アークコア、解放。」

「えっ俺も? 決めポーズ!」

ボスに光り輝く鎖が巻き付いたのち、自販機ほどもある隕石がゴッゴッゴッゴッ…と四連続で降り注ぐ。小型の太陽が出現してボスのバリアを溶かすと、黒い槍がコアを正確に貫く。

こうしてボスの行動が始まる前にHPをゼロにしたのだった。

ノ・ヴァが振り向くと、仲間達が武器を構えており、その中央でピースフルが決めポーズをしていた。


ボスの消滅後、宝箱が出現して“ホールドスタチューの証”という“証”アイテムが12個、つまり全員に1個づつ手に入ったのだった。

バトルフィールドから退出する前に、ピースフルとノ・ヴァもお茶の席に参加する。

こういう場面で細かく反省会をして次に活かす点も、彼らを最強たらしめている。

「そんなに強くなかった。」

「想定内です。」

「こんな速度じゃ、あまねくにぃに辿り着くまでにウチお婆ちゃんになるわ。」

「だいじょぶよぉ。ノヴァちゃん若いからぁ」

特段共有する点は見当たらなかったのか、普通のおしゃべりしかしていない。

それらをシルバと銀風メンバーは眺める。

一見、究極英雄たちは遊んでいるようだったが、その行動の端々には強烈な技量とセンスが垣間見えた。

先程は呑気にお茶をしていたと思ったら、次の瞬間には全員がボスにトドメを刺すために動いていたのだ。

全員が油断なくボスの様子から目を離していなかったというところだろう。

トップとの差は能力値だけではないと思い知らされたが、いつかの目標として追いかけるには十分だ。


ふと、ヤクトが銀風のメンバーを見渡す。

「そういえば…」

同席している者達が、それとなくヤクトに意識を向ける。

「どうやってこのバトルフィールドを見つけたのですか? 街からもそう近いわけでもなく、他のギルドからはこの祠が怪しいという情報は上がってきていなかったのですが…?」

銀風のメンバーはシルバを見る。

シルバは困った顔で頬を掻く。

「実は俺としては、ちょっと恥ずかしい話なんですがね──────。」

シルバがこれまでの経緯を語って聞かせる。

すると、その話に大騒ぎする者が2名いた。

「パスタがこの都市に!?」

「あまねく兄ぃがこの近くに!?」

「「会いに行かないと!!」」

ピースフルとノ・ヴァがドタドタとバトルフィールドを出ていってしまう。

「え、えっと…。」

勢いに押されたシルバが判断を仰ぐ。

少し考え込んでいたヤクトが結論をだす。

「追いますよ。万が一がありえますし、こちらの情報だけ持ち逃げされるのは我慢なりません。

あと、そのハチコ・リードという人物ですが…

今はまだ情報の共有は避けて、噂の要注意人物という反応に留めておいてください。

私の予想では四天王で間違いないのですが、

今少し泳がせて狙いを見極めたい。」

そう告げると席を立つ。

「えっ…。」

レベルの高くない、ましてや戦闘職でもない人物を四天王と断じたことに驚きを隠せない。

だが、シルバは従うことにした。

ヤクトの読みはこれまでもギルド連盟を導いてきたのだから。

それぞれ支度を整えてバトルフィールドを後にするのだった。

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