Session02-01 一年の後
初めての冒険。
一党の仲間は全員、ハーレムの一員。
こんな事、酒の席の話でも笑って真剣に受け止めてはもらえないだろう。
だけれども、そんな誰もが冗談と笑ってすませる様な状態になってから、一年が経過した。
ハルベルトの冒険者ギルド。
その入口にある扉を開けて六人の一党が入ってくる。
カランカランと鳴った音に反応して、視線が集まる。
「……あれが、”鬼の花嫁”達か。」
誰かがコソコソと口にしているのがわかる。新人か、別の街から来たのであろう。この半年でランクが、新人の”石”から、経験を積んだ”鉄”、ベテランと言われる”銅”まで駆け上がり、今も”銅”ランクの冒険者として、”
「お疲れさん、大将!! そろそろ帰ってくると思って先に呑んでるぜ!」
戦士然とした男が、片手にジョッキを持って、空いている手で五人を手招きしていた。その男の居る机は比較的大きく、他にも何人も人が座っていた。もちろん、皆がジョッキを持っている。
「ああ、タルドか。……手回しが早いな。皆、席へ行こうか。」
アイルが、男の名を呼んだ。名前を呼ばれた事に照れているのか鼻の頭をこすりつつ、席へ座った。それを見て、五人を促して、席へ向かう。
バーバラだけはカウンターへ向かい、酒場を担当している職員へ、銅板を五枚手渡した。そして、皆に上等な酒と料理を配るように依頼する。もちろん、職員全員へもだ。それを聞いた、他の冒険者一党や、職員たちから歓声が上がった。アイルとバーバラは、役割を完全に分担していた。アイルは無骨で裏表のない
”鬼の花嫁”という一党の名前も、”アイルのハーレムである”と分かりやすくするために、その名前にした。そのお陰で、分かりやすく侮ってきた一党達は、アイル達と決闘沙汰を起こしたりした結果、この街を退散したり、犯罪奴隷として奴隷落ちしたりしている。
「今回は、何匹程狩ってきたのですか? 二週間程ですから、それなりの数を狩ったのですよね?」
先に席についていた魔術師然とした男が興味津々と言っている瞳で質問をする。その言葉にフィーリィが、ギルドが受け取った証明書を机に広げた。それを皆が覗き込んだ。
「ウォーレスさんの質問の答えは、四百匹です。行き帰りの四日は除きますから、実質十日ですね。」
「一日四十匹かぁ……。本番はもっと多くなるんだよね?」
野伏然とした女がぼやくように口にした。”鬼の花嫁”が旗頭になる徒党”悪鬼羅刹”は、凶悪な名前からは想像がつかない目標を掲げている。それが、ハルベルト近郊にある、チョトー砦、チョトー村を含んだ”迷宮”指定区域の解放である。そこには、ゴブリンや、オーク、トロールを代表とした”
四百という数だけを見れば、たしかに凄い。しかし、一日で割ると四十である。多いか少ないかと言ったら、多い。ただし、一般の冒険者としては。アイル達の”領域を開放する”という目的から考えると、”まだ”少ない。迷宮の深さが不明な以上どれくらいの敵が出てくるのかがわからない。どれくらい処理できるかが自分たちの安全にも繋がるため、数を狩っているのだ。
「”迷宮”内ってことになれば、指定区域よりも狭く、密度が増すだろうからねぇ。エリィの言う通りになると思うよ。」
ピッピが野伏然とした女……エリィにそう言った。ピッピとエリィはこの徒党の斥候、野伏の代表と言える立場にある。迫りくる敵を事前に察知し、戦う舞台に罠がないかの確認。そして、偵察による敵情把握に、野営地の選定。この二人は戦うこと以外の諸々を取り仕切る役割を持っていた。それ故に、敵が多いということは集中し切れなくなる可能性や伏兵への警戒と負担が増えることを意味していた。
「そんときはウチらも手伝うからどーんとまかせとき!」
「せやで。今度はウチらでアイルの力になるんやもん!」
「わ、わたしもお従兄様の力になってみせます!」
アイルに勝るとも劣らない背丈を持った
「……ナツ、ハル、頼りにしている。くれぐれも怪我をしないようにな。お前達を娶る為なのに、怪我……そして、死ぬなんてのは絶対になしだ。サクラ、君は留守を守って、俺達が勝てるように祈っててくれな。」
アイルが、ナツと呼んだ背の高い鬼人族は顔を真赤にして茹だち、ハルと呼ばれた鬼人族は赤くなった頬を両手で抑えてニヤニヤしていた。そして、サクラは、はい!と笑顔で応えていた。
「ふふふ。二週間ぶりですから、仕方ないですね。……ラースさん、教練の方はいかがですか?」
ルナが、席に座り酒を仰ぎ呑む年配の戦士へ声をかけた。その男は、盃を空にして置くと腰に下げたポーチから、丸めた羊皮紙を取り出し、それを机に置いた。皆がそれに目を通す。
「カイルが集めてきた当時チョトー近郊に住んでいた奴隷たちだが、何とか様にはなってきた。全体的に歳は高くなるが、皆が生命をかけて故郷を取り戻そうと思っている。投入どころさえ間違えなければ十分な戦力になる。冒険者どもは俺とタルドを中心に鍛えてるが、まだまだ逃げ腰が直らないな。アイルの実家や、バーバラの実家からの与力は、俺の師匠が鍛えてるが……まぁなんとかなるだろう。」
ラースと呼ばれた半分近くが白髪になった赤毛を持つ男は、そう口にした。顔の数カ所に刀傷や矢傷と言った戦傷が見て取れ、歴戦の古強者と言える佇まいだった。
そのラースから、カイルと呼ばれた男は、商人然とした格好をしており、人の良い笑みを浮かべていた。
「では、私からも。当時チョトー近郊に住んでいて、”
カイルは、マーリエの名を挙げ、彼女に向かってお辞儀をした。その仕草は礼儀にかなっており、美しかった。その礼を受けた、黒を基調とした修道服を着た女性は、慌てて手を振った。
「そ、そんなことはありません。なにより、アイルの力になれるなら私も願ったりです!」
「……ありがとう、マーリエ。今度、時間を作るから君の仕事を手伝わせてくれ。」
アイルは、マーリエに向かって笑顔を向けた。その笑顔を見たマーリエは顔を真赤にし、俯いて小声で「はい。」と応えるので精一杯だった。そのアイルの立ち振舞いを見て、バーバラはニカリと笑いながらアイルの背を叩いた。
「うむ!うむ! ハーレムの皆を平等に扱おうと頑張ってるのがわかるぞ。本当にようやるわ!……さて、報告は以上じゃな。では、皆、盃を取れ。……我らはこの一年、様々な出会い、様々な出来事があった。そして、今や”銅”の徒党である!……目指すは”銀”……だけではない。二十年に渡り、”迷宮”指定地域となったチョトー一帯の解放である。名誉の為に戦うだけではない。失われた地へ戻りたいと、悲願としている者達の力となるのだ。それを成すために、今、この時を過ごすのだ。
その表情を見たアイルは、ただ一度大きく頷くと、皆を見回した。皆が皆、自身の役割を理解し、そしてやるべきことをやってみせるという気概に溢れていることが分かる。盃を持った手を突き上げ、ただ、一言。
「素晴らしき仲間のために!!」
「「「「「「素晴らしき仲間のために!!」」」」」」
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