Session01-3 円卓会議

自己紹介とメインシナリオ選択

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 冒険者のほとんどは刹那的に生きている。


 悪名高い魔物を討伐したり、戦争にて戦功を上げる。

 そんな事が出来るのは一握りの者達である。


 殆どが、軍を編成し動かす程ではない魔物や、一般の人々では手に負えない事を依頼という形で処理することで糧を得ている。

 更に腕っ節を誇る者は”迷宮ダンジョン”と呼ばれる存在に挑み、一攫千金を狙う。

 どちらにしても、過去を省みるよりも、未来を信じて前へ進もうとする者達は、一日一日の結果に一喜一憂し、そして明日への活力のために酒を呑み、飯を食らうのだ。

 そのため、味は二の次として、量を食べられる様に冒険者ギルドには酒場と食事処を併設している事が殆どである。

 そして、依頼を受ける場でもあるため、守秘義務がある案件や、打ち合わせが必要な案件の場合など他者に聞かれない様にできる、それなりの大きさの個室をいくつか用意もしてあった。

 

 その一室。


 その部屋はこざっぱりとしており、大きめの円卓に六脚の椅子、厚めの木戸。厚めの壁で覆われており、聞き耳を立てても中の会話を聞くことは難しいであろう。

 皆が壁に自身の物であるとわかるように、荷物を置いていく。

 その後、円卓にバーバラが座ると、その左手側にフィーリィがすっと座り、右手側にピッピが飛び乗る様に座った。それを見たルナはフィーリィの隣に座り、アイルもルナの隣に座った。


「では、まず初めにじゃが・・・。話し方を一番慣れている喋り方で喋ること。これを皆にお願いしたい。もちろん、宮廷語などが”板について”いるのであれば構わん!」


 バーバラはそう言うと、皆を見回した。

 その視線を受けて、フィーリィとピッピはすぐ頷いた。少しは付き合いがあるからであろう。即断していた。

 アイルとルナも一拍遅れたが頷いて答える。少しでも負担を少なくしようという、バーバラなりの気遣いなのであろう。

 それをみてニッカリと笑ったあと、バーバラが続けて口にする。


「さてと、改めて自己紹介と参ろうか。我が名はバーバラ。見ての通りじゃが、鉱人族ドワーフで”盾砕たてくだき”としての経験は積んでおる!……おっと、”盾砕き”はお主達の良く使われる表現だと兵士や騎士を指す。それなりに経験は積んでおると思ってくれて良いぞ。」


 そう笑顔で言うと壁に立て掛けたメイスと丸盾を指で指し示す。


「得物はメイスに丸盾じゃ。”盾砕き”と言えば戦斧が有名じゃが、男と比べるとどうしても力が劣ってな。当たれば十分に効果を見込めるメイスにしておるわけじゃ。ガンビスンを着込んでおるからまぁ多少は打たれ強いぞ!」


 自分の鎧を誇るように胸を叩く。ある程度調整されているのか、彼女の肢体を想像させられるような凹凸が見られた。襟元近くをよく見ると削り取った様な跡が見え、訳ありではないかと思わせられる。


「では、次は私が。私の名前はフィーリィと申します。見ておわかりかも知れませんが、暗森人族ダークエルフ野伏レンジャー、そして精霊術師シャーマンになります。得物は弓です。」


 フィーリィが名乗り、自分の得意分野を告げる。弓を持っていたので野伏とは予想がつくが、精霊術師もかねているとのことだった。


「本当に必要になった際には水なども作り出す事ができます。その代わりに先程のアイルの戦っていた距離での戦いは不得手です。お二人の相手にもならないでしょう。守ってもらう事が多くなると思うが宜しくお願いいたします。」


 そう、ルナとアイルの二人にお辞儀をしながら伝えた。そのお辞儀に対して、二人は頷く事で答えた。それを見て、パンっと拍子を打ってピッピが自己紹介を始める。


「では、次はあたしだね。あたしはピッピ。まぁ見て分かるとは思うけども、小人族ハーフリング斥候スカウトさ!普人族の子供とかじゃないからね?一応、野伏の技術も学んでいるから、前衛、後衛どっちも可能さ。得物は前衛ならショートソードに小盾。後衛ならスリングロッドだよ。ま、バーバラや、ルナ、アイルよりかはどうしても非力だからね。あくまでも頭数と思ってよ。その代わり斥候と野伏の技術で力になるさ!ああ、後、実家が食堂をやっててね。そこで出す料理とかも作ってたから野営の時は任しな!」


 頭の後ろで手を組み、にひひと底抜けの笑顔を浮かべながらピッピはそう言った。斬る、突く、叩くと色々な戦法を繰り出せるショートソードと受け流し目的の小盾。そして、腰に手挟んだスリングロッド。正面の人数を増やすことも、後ろから援護もできる補助要員と言える。彼女自身も攻撃を当てる方よりも、自身が攻撃を食らわない様に意識しているのがわかる装備だった。


「あたしは以上かな。次はどっちから話す?」


 ピッピが、ルナとアイルの方へにやにやと笑みを浮かべながら先を促す。それを見た、ルナとアイルは互いに顔を見合わせる。少し、見つめ合った後、ルナが立ち上がり自己紹介を始めた。


「改めまして、私…ボクの名前はルナと言います。銀狼族シルバーウォルフ出身で、戦女神様の司祭プリーステスとして修行を積んでまいり…来ました。いくつかの奇跡を願う事ができます。また得物については剣、槍、斧、槌と一通り学んでるので、みんなの得物に合わせてこれから用意をするつもりです。防具につきましてはみんなも知ってると思うけど…ビキニアーマーです。普段は今の様に外套コート等を羽織ってるよ。」


 そう、ルナが自己紹介をすると席に座った。そして、アイルの顔を見る。他の三人も同じ様にアイルの顔を見ている。それを受け、スッと席を立つと自己紹介を始めた。


「改めまして、アイルと申します。見ていただいておりますのでお分かりかと思いますが、鬼人族オーガ普人族ヒューマンの”半端者”になります。秘術魔法を修めており、自らの身を守るために武道を学んでおります。得物は立てかけてあります”長傘”を持って戦います。秘術についてはいくつか使う事が可能です。」


 他種族との混血児を作ることは可能である。但し、それが好まれるかと言うと、忌諱される事が多いのが普通である。蔑称として”半端者”と言われることが多い。アイルは敢えて蔑称で自身のことを紹介した。


「そして、誠に申し訳ないが、いくつか今すぐにはお伝えすることができない事がございます。その点をご理解いただきたい。」


 アイルは隠し事があることを口にした。正直、誰しもがそう言った事の一つや二つは持っているものだ。そんな事は胸にしまったままにしとくことの方が多い。それを律儀と言うべきか愚直と言うべきか。アイルはそれを口にした。


「あいわかった!我も残念ながら伝えていない事はある。誰しもがそれは持っておろう。各々が伝えても良いと思い、口にしない限りは詮索をしない。これを皆で守るとしよう!」


 バーバラは快活に返事をした。自身も隠し事がある事を改めて伝え、皆で詮索はしないことを決まり事にしようと提案をした。


「あたしは賛成だね。誰しも隠しておきたい事はあるもんさ。あたしだって興味はあっても、暴き立てる気はないよ!」


「私も賛成です。私達は冒険者であり、それ以上でもそれ以下でもありません。」


「ボクも異存はないです。もしも、懺悔ざんげが必要な際は声をかけてください。戦女神の司祭として受けるから。」


 ピッピはにひひと笑いながら、フィーリィはしっかりと頷きながら、そしてルナは司祭の立場としても答えた。

 その言葉に、アイルは改めて頭を下げた。


「ありがとうございます。改めてではありますが、宜しくお願いいたします。」


 その姿を見たバーバラが改めて拍手を打った。そして、皆を見回し、宣言をする。


「では、決まりじゃな。我ら五人は一党パーティとなりて、まずは初依頼をこなそう。その結果、合わないと思い去る者は追わぬ。だが……」


 そう区切り、にっかりと笑顔を浮かべた。


「我はこの五人ならうまく行くと思っておる!」


 根拠無しにそう言い放つ彼女の笑顔はとても素晴らしいものだった。

 ムフーっと荒い鼻息を吐いているバーバラに、フィーリィがコホンと咳払いをした上で、先を促した。


「バーバラ。今回の受ける依頼について話しましょう。ルナの得物についても話さなければなりませんから。」


 その言葉を聞いて、罰が悪い様に頬をかくバーバラ。流石に興奮しすぎたと思い返したのであろう。彼女もコホンと咳払いをすると、円卓の端に避けていた二枚の羊皮紙を皆が見える位置に出した。


「共通語を読む事ができない者はおるか?」


 バーバラは皆の顔を見回す。生まれた育った環境によっては、読み書きを教わる事がない。文字が読める事、文字が書ける事、計算できる事。これは特殊技能である。寺子屋や教会、商家への奉公というような事で学ぶ機会と言うものが生じる。

 だが、そう言った者達は特殊技能であるそれらを活かせる仕事に就く事が殆どである。冒険者となる者の殆どはそう言った教育を受けられる様な立場ではない。冒険者となってから、見様見真似で学び、覚えていくのだ。

 幸いにも、この場にいる皆は文字が読める様で、一様に羊皮紙の文面を確認している様だ。


「一つが、この街に繋がる街道で小規模ながら、”追い剥ぎ”が出るようになったという話じゃな。小さい規模の行商人で、何度か被害が訴えられたらしいの。未だ、死者は出ていないらしくてな?衛兵や領兵を動かしてまで狩るわけにゆかぬというので依頼として張り出されたということじゃな。遭遇して荷を奪われた商人曰く、五人はその場で見たとのことじゃな。」


 バーバラが片方の羊皮紙の指差して、説明をする。


「・・・ってことは、いくらかは貯め込んでそうだねぇ。そいつら。まぁ、お目溢しを狙っての動きみたいだから、食料、武具、銀貨、そして・・・女か奴隷ってところかねぇ。街道がこうなってるから・・・多分、このふもと辺りに洞窟か、森の中に猟師小屋とかがあれば、そこを根城にしてるだろうね。」


 ピッピが、バーバラの説明を受けて、地図を広げて指し示す。街道が大きく蛇行し、森、そして山の麓になっている辺り。ここのどこかに根城があるだろうとの予測だった。

 もう一つの羊皮紙を手に取りながら、フィーリィが口を開けた。


「こちらの依頼は護衛になりますね。ここハルベルトから、隣の”湖影こえいの国”の辺境伯領都までの護衛ですか。拘束期間は約半月。いつかは経験しないといけないとは思いますが、現時点で半月拘束は厳しいと思いますね。それにですが・・・今回の盗賊の根城の予測地点の近くを通ることになりますので・・・。」


「それなら、追い剥ぎの討伐の方が守る対象が減って、依頼としては楽ですね。ボクも、この二つなら追い剥ぎの討伐の方が良いと思います。ピッピさんとフィーリィさんに痕跡を探して貰いましょう。」


 フィーリィの意見にルナが同意をする。護衛はどうしても目的地へ行くまで拘束されてしまうのと、拠点が変わってしまうという点が大きい。勿論、運良くハルベルトへの護衛依頼があれば良いが、そうそうタイミングよく見つかるかと言われたら可能性は低いだろう。

 それなら、追い剥ぎの討伐の方が、報酬ともしかしたら戦利品が入る分、メリットは大きいだろう。


「俺も、追い剥ぎの討伐が良いと思う。何よりだが……犯罪者とは言え、人を殺すという経験を積むべきだ。」


 アイルは皆の顔を見ながら、そう言い切った。その発言に、バーバラはうんうんと頷き、ピッピはわかってるねぇと言いたげな表情を見せる。フィーリィは平然としたままで、ルナはその意味を理解した上で頷いた。


「アイルの言うとおりじゃ。我らは一人前となったが、経験は足りておらん。何よりも、人との殺し合いがな。今後も冒険者をしていれば、犯罪者の逮捕や、討伐。依頼主の護衛など、人を相手にすることが増えるじゃろう。そのときになって相手を殺せず、仲間を窮地に陥らせるようなことがあってはいかん。特にだが、情けをかけたいのであれば完全に無力化した時のみじゃ。良いな?」


 バーバラが、アイルの言葉を引き継いで言葉にした。その言葉に四人は頷く事で答える。それを見たバーバラはニカッと笑みを浮かべた。


「では、決まりじゃな。あとは、ルナの装備をどうするかじゃが……。」


「提案がある。」


 バーバラが、ルナの得物をどうするかと話をし出した所、アイルが声を上げた。

 皆がアイルへ顔を向ける。それを確認したアイルは、腰に履いた長剣を鞘ごと抜き、机の上に置いた。


「剣が扱えるなら、この剣を使ってくれ。ルナ殿が使った方が役に立つ。あとは、腕にくくりつけられる盾を用意すれば、盾を使って壁役になることも、両手で振るって強力な一撃を狙うことも可能だろう。」


 バーバラが置かれた長剣を手に取り、しげしげと眺める。ピッピも長剣を見るために見を乗り出している。二人共、この剣の価値を鑑定しているのであろう。


「ルナ……これは、ありがたく使わせてもらった方が良いぞ。今の我らの戦力でなら、そなたが持った方が格段に良い。……いやはや、魔法の武器を直に見たのは初めてじゃ!」


 バーバラの発言に、フィーリィが目を見開き、ルナは絶句した。ピッピは額の汗を拭うように片手をこすり付けていた。


「詮索は無用で頼む。一つだけ言うのであれば、後ろめたい事はない。俺の命、魂、そして戦女神に誓おう。」


 アイルがそう言うとともに、自身の心臓の上に握りこぶしをのせ、四人に誓った。

 それを見たルナは手を震わせながらも、長剣を両手で捧げる様に持ち、アイルへ向かってお辞儀をする。そして、自身の左腰へ佩いた。


「戦女神の神官として、恥じぬ戦いをするよ。アイル、ありがとう!」


 ルナの感謝の言葉に、アイルは気にするなとでも言うように笑顔を見せた。

 あとは、ルナの盾を見繕って、出発である。

 五人は席を立ち、各々の荷物を背負うと会議室を出て、武具屋へ向かうのであった。

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