Session01-2 冒険者ギルドにて

出会いの巻


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 一人前と見做みなされた少年と少女が一党を組み、美事みごとに一仕事終えて帰ってくる。

 この世界で見られる光景の一つであり、そして、恵まれている光景と言えた。

 数多の少年少女達が、様々な英雄譚と言われる物語に恋焦がれ、または自身の立場を変えるために一念発起して一旗上げようと意気揚々と一歩を踏み出すが、美事に成し遂げて戻ってくるのは極僅かである事も、真実である。

 殆どの者達は、経験の無さ故の無謀さ、高揚感による不注意、そして命懸けの戦いにて生じる死への恐怖…そう言った洗礼に耐えきれず、命を散らす。

 洗礼は超えたが心折れ、諦める者。そして、乗り越える者。乗り越えた者は、乗り越えた者同士で組み冒険者として力をつけていく。

 この世界では、よくある光景である。


 季節は夏。

 昼ともなれば中天に瞬く太陽が容赦ない日差しを降り注ぎ、笠や傘を持って日を遮らなければ体調を崩す事もありえる程だ。

 そんな夏の一日。

 紅葉こうようの国の辺境と言える地域の中でも、指折りの城塞都市である”ハルベルト”。そこにある冒険者ギルドに、一人の女性が訪れる事により物語は始まる。

 入り口の扉を開けて入ってくる人影が一つ。日傘を差していたのか手には傘を持ち、ゆったりとした衣を着込み、腰には一振りの剣。そして背中には背負い袋を背負っていた。

 背は高く、170cm程はあるのではないだろうか。髪は金を溶かし梳いたかの様な美事な黄金色をしており、腰まで届く程の長さであろう其の髪を三つ編みにして襟巻きの様に首に巻いていた。十人中六人が振り返るであろう美貌である。

 そして、全ての人の注目を惹きつけたのが、一本だけ生えた”角”であった。角がある種族として有名なのは鬼人族オーガである。”二本”の角が生えているのであれば目を惹くこともなかったであろう。

 鬼人族は鬼人族同士で子を成す限り、必ず角が二つ生えるのだ。鬼人族と他の種族で子を成す事はできる。ただし、成した子には必ず角が一本だけ生える。どんな種族と子を成しても必ずである。であれば、その一本角をもつ鬼人族はどの様にして生まれたのか?

 寝物語に語られる様な物か、はたまた怖い話として語られる様な物なのか?

 そんな、しかも見目麗しい女性が現れたとしたら、誰もが注目し、邪推するのは仕方ないことであろう。

 その女性は周囲を見回すと目当ての物を見つけたのかギルドのカウンターへと歩みを進める。自分のカウンターへ向かってくるのに気づいた受付嬢が笑顔で挨拶をする。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。こちらは登録受付になりますが宜しかったでしょうか?」


「はい。冒険者登録をするためこちらへ来ました。登録をお願いできますか?」


 女性としては少し低めの声と笑顔で受付嬢へ答える。


「承知いたしました。では、こちらへ記載いただくのですが、文字はお書けになられますか?」


 受付嬢は少し頬を赤らめながらペンとインク、そして羊皮紙を取り出し並べた。


「ええ。書けますので自分で書きますね。」


 鬼人族の女性がインクにペンの先を漬け、書こうとした時にちょっとした喧騒が生じた。

 そちらに彼女は顔を向けると、外套コートの前をシッカリと閉じフードを目深に被った少女がいることに気づいた。そのフードを押し上げる様な膨らみ、外套の臀部辺りを押し上げる膨らみが見て取れる。その膨らみ具合いから、彼女が獣人族であると当たりを付けられた。実際に見たわけではないからどの氏族まではわからないが、珍しい。そんな彼女を、同じくらいの年齢と見える男達数人が囲んで声をかけていた。

 対応している相手の視線が向いた先を見て、受付嬢は顔を少し顰めた。


「…あれは今日登録した子達ですね。男の子ばかりで、しかも前衛だらけ。囲まれている子が本日唯一登録された戦女神の神官プリーステス様ですね。修行と勇者探しが目的でしょう。多分、戦女神の神官がいれば彼らの夢にも近づくと思っているので誘おうとしているんでしょう。……下心があるかまではわかりませんが。」


 そう受付嬢が推測した内容を口にすると、機会を合わせたかの様にその内容を裏付ける様な声が聞こえてくる。


「なぁ、戦女神の神官様。俺達と一緒に一党パーティを組まないか?俺たちはそんじょそこらの冒険者じゃない、竜を狩る様な英雄になる予定なんだぜ!」


「そうそう、戦女神の神官様は修行をしながら、勇者を探すんだろ?なら片方は解決だ。俺達が勇者だからな!」


 二人が口を揃えて彼女を口説く様に言葉を口にする。そして、馴れ馴れしくも肩や腕を掴む。その仕草などを見て、彼女は頭を振り、口を開いた。


「誠に申し訳ございませんが、私はあなた方と一党を組む事はできません。私はまだ非才未熟の身。心身を鍛え、経験を積み、勇者を見極める目を磨く必要があると考えております。先程、あなた方は勇者であると仰られました。勇者としてっていらっしゃるあなた方と私では釣り合いません。それ故に辞退させていただきます。」


 理路整然と彼女はそう口にすると共に、やんわりと二人の手を振り解いた。其の際にひっかかったのであろうか。深く被っていた外套のフードがふわりと外れ、其の下を露わにした。白銀の如き髪に狼の耳。銀狼族シルバーウォルフの少女であった。フードが外れた事によって見える首元には服と言えるものが見えなかった。戦女神の神官は好んで局部だけを守った軽装の鎧を纏う。戦う事自体が奉納の舞に値するのだ。軽装をするからと言って、無謀な戦いをするわけではない。逆に為せる事を全て為した上で、自身の戦いを奉納するのだ。戦女神の神官は軍略家としても有名である。有名な神官の発言としては、”勝たねば意味なし。彼我を見極め、勝つ為に必要なことをせよ。”という言葉がある。それ故に、戦女神の神官は深く分析する。その神官が彼らを避けたと言うことは…『そう言う事』である。


「下手に出てれば、犬っころの分際で!」


 彼女の言葉を聞いて頭に血が上ったのであろうか。正直言って、あそこまで言われたら爆発しても仕方あるまい。しかし、だからと言って少女に危害が及ぶのは看過できぬのも確か。


「神官殿の仰ってる事は正しい。」


 凛とした声がギルド内に響いた。頭に血が上った男供も、当の神官も、仲間探しをしている新人と思わしき者共も、先達共も…声の上がった方へ顔を向けた。


「君たちは少し勇み過ぎている。そのままだと危うい。それに…だ。」


 声の主である、一つ角の鬼人族の女性は神官と、男達を見比べて言った。


「神官殿の方が強い。やめておいた方がいい。君たちが手を出してたら、そのまま反撃されて倒されるだろうね。」


 その言葉を口にするのと一緒に、腰に下げていた剣を鞘ごと外し、神官へ放り投げる。背負い袋と長傘を受付嬢に預ける様にカウンターへ乗せた。神官も、突然の行動にキョトンとしながらも、剣を落とさずに受け止める。


「少しの間、預かっていて欲しい。」


 そう、神官を安心させる様に微笑んだ。神官は「は、はい。」と一言返事をするので精一杯の様に見える。それを見た後、鬼人族の女性は男達へと改めて向き直って口を開く。


「さて、神官殿の方が強いと言っても、多勢に無勢。それに女性が殴られるかもしれないのは見ていて忍びない。その分、俺が変わって相手してあげよう。良い経験になるぞ?」


 彼女はニコリと微笑みながらゆっくりと彼らに近づく。男達はその挑発に乗った。流石に腰に下げた得物を抜く事はしなかったが、鎧を着込んだまま相手を囲む。相手は見る限り鎧と言える物は着込んでいない。一発でも当たれば重いダメージになるだろう。四人は打ち合わせていたかの様に相手を囲んだ。


「…喧嘩慣れはしている…と。さて、誰から来るかね?」


 再度、ニコリと微笑みながら口にした。それに触発されたのか雄叫びをあげながら神官の手を掴んだ方が殴りかかってくる。その腕を掴み取ると、引き込みながら足を払った。くるりと言う言葉が似合う勢いで男は床に叩きつけられた。倒れているところに追い討ちとして腹部への一撃を入れる。


「ぐへぇ!?」


 その一撃が効いたのか男は気を失った。


「この混ざりもんがぁ!!」


 追い討ちをかけた所を狙って、神官の肩を掴んだ方のもう一人が殴りかかる。その動きを読んでいたかの如く、殴りに来た手を下に払うと共に、後ろ回しに体を回転させながら蹴りを叩き込む。


「げはっ!?」


 それをまともに受けた男の体が少し宙に浮き、ぐるぐるっと回転して倒れこんだ。残りの二人は相対することよりも、倒れた二人を心配したのか近寄る。息をしていることは確認できた。死んではいない。


「理解できたと思うが、俺はこれでも武道家でね。素手での戦いが本職なんだ。君達は俺が鎧を着込んでない事だけを見て与し易しと考えた。それが判断の誤りだ。まずは経験を積むことから始めた方がいい。さぁ、これ以上やる気はないのであれば二人を連れて行ってくれたまえ。」


 男達はその言葉を投げかけられると、今の流れる様な動きを見て、喧嘩を売って良い相手ではない事を理解したのか、気を失った者を担いでギルドを駆け足で去って行った。流石に捨て台詞を吐くほどの余裕はない様だ。

 去って行くのを見送った鬼人族の武道家は、放り渡した剣を両手で掲げ持つ様に持った神官に近づき、男達が掴んだ辺りの汚れを払う様にはたいた後、忠誠を捧げる騎士の如く片膝をついた。


「……余計な手出しをいたしました。お怪我はございませんか。神官殿?」


 そして、彼女はニコリと微笑みかけた。その笑みが素晴らしく美しい。特に今、自身の実力を見せたばかり。先程の男達とは天と地ほどの態度を見せられたら、流石に耐性があるとは言ってもグラッと来ても仕方あるまい。


「……いえ、武道家殿のご助力、感謝いたします。戦女神の加護があらんことを。」


 武道家の言葉に対し、神官は御礼として祝詞を述べる。表情は平然としているが、彼女の一部は本心に対して忠実だった。ローブの臀部辺りが揺らめいているのだ。その様子から察するに、尻尾をブンブンと振っているのだろう。

 そんな二人に近づく三つの影。鉱人族ドワーフ小人族ハーフリング暗森人族ダークエルフの女達だった。装備を見る限りは鉱人族が戦士ファイター、小人族が斥候スカウト、暗森人族が野伏レンジャーと言った所か。


「武道家殿、見させて貰ったぞ!美事な腕前だった。我が名はバーバラという。これより一党を組もうとしておってな。斥候のピッピに野伏のフィーリィと意気投合したのは良いが、後、一人か二人程、人を探しておったのだ。」


 バーバラと名乗った鉱人族の戦士は、矮人族の斥候であるピッピと暗森人族の野伏であるフィーリィを紹介する。その紹介に合わせてピッピは笑みを浮かべながら二人に向けて手を振り、フィーリィは優雅にお辞儀をしてみせる。


「後一人か二人というところに丁度、お主ら二人が現れてな。そしてあの騒ぎ。古の商人が口にした”奇貨置くべし”という言葉に値すると思うておる。」


 バーバラが続きを口にしながら、神官へ視線を送る。そしてチラリと武道家へ視線を向ける。急な展開でもあり、バーバラに意識を向けていたため、彼女の視線から武道家がまだ片膝をついたままだと言う事を神官は思い出した。


「武道家殿……遅くなって申し訳ございません。どうぞお立ち下さい。私の名はルナと申します。お名前をお教えいただけませんでしょうか?あ、後、この剣をお返しいたします!」


 神官はルナと名乗り、武道家へ立つ様勧める。その言葉に従い、武道家は立ち上がった。鬼人族の血を引いてる為か、今居る顔ぶれの中で一番の背丈であった。ルナが剣を武道家へ捧げ持つ様にしながら差し出すと、それを丁重に受け取り、腰へ佩いた。

 そして、四人の顔を見回すと、一礼をする。


「俺はアイルと申します。この度、冒険者となるべくこのギルドへ参った次第。一党についてはまだ検討の段階にあります。宜しければお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「私も一党の件、宜しければお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


 アイルの言葉に続き、ルナが話を聞く意志を示す。それに満足したのか、バーバラは大きく何度も肯いた。


「うむうむ!話が早くて助かる!場所を変えて、詳細を詰めようではないか!クリス殿!すまぬが、部屋を一室お借りしたいのだが空いておるだろうか?」


「今の時間なら空いてるわ。二階の一番奥の部屋よ。はい、これが鍵。あと、アイルさん。こちらがあなたの登録証です。荷物はこちらになります。注意点などは後で説明いたしますね。無くさない様に注意してください。」


 バーバラがクリスと名を呼ぶと、アイルの受付をしていた受付嬢が鍵を手に近づいてくる。そして、バーバラに鍵を手渡した。アイルには背負い袋と長傘を渡す。


「では、参ろうか!」


 バーバラは笑顔を浮かべながら先導するように歩いて行く。

 初めから一緒に居た二人が続き、ルナが、そしてアイルが続いた。


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途中の描写のイメージは香港映画で敵役が吹き飛ばされる感じをイメージ。

表現って難しい。

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