打ち上げられた海の月

綿麻きぬ

海月と僕、海月と月

 あぁ、僕はきっと浜に打ち上げられた海月なのだろう。


 広い海の一部の中で綺麗と言われて、調子に乗って。それに満足せずに陸を望む愚かさはまさに打ち上げられた海月だ。


 海月は海の中にいるから綺麗であって、陸に打ち上げられたものは綺麗とは限らない。そんなことに気づかない僕には脳味噌がないのだろう。それすらも海月に似ている。


 海月は波に乗りながら漂っている。自分の意志もない。自分の意志なんてどこかに捨ててきてしまった。


 そして陸を望んで浜辺に近づく、だけどまだ陸へ上がる勇気はない。それを波が後押しするのだ。


 その上、海月には毒がある。だから綺麗とか表面では言われていても裏では嫌われている。


 陸に打ち上げられた海月は何を思う?


 自分の体の約95パーセントが水なんて思いもせずに、乾いた空気の中徐々に乾燥していって死んでいくのだ。


 孤独の中死んでいくのだ。苦しい、苦しいと思いながら。


 そしてこんな未来なんて想像してない、こんな景色じゃないと思いながら死んでいく。


 それに比べて空の月はいいな。自分の意志じゃないとしても決まった軌道を回っているのだから。


 月は独りぼっちでもない、だって地球がいるのから。


 それに綺麗だ。自分の綺麗が分かっている。そしてその空間から高望みをしない。


 あぁ、僕は空の月になりたかったな。


 だってあいつは決まっている軌道に乗って、そのまま生きていればそのうち死がくる。そして分をわきまえている。だから皆からも親しまれるのだろう。


 それに比べて僕はどうだろうか。


 自分の意志もなく、周りに流されながら生きている。そして周りからの後押しで自分が生きれない空間へ行く。その周りからは本当は嫌われているというのに。


 まったく馬鹿らしい。


 そして苦しみながら、孤独に死んでいく。


 どうやったら僕は自分の意志を持てる?

 どうやったら僕は周りに流されずに生きれる?

 どうやったら僕は好かれるの?


 多分、生まれたときからそれは出来ない。だって、そういう運命の種に生まれたのだから。


 あぁ、陸に打ち上げられたらもう海へは戻れない。こんな周りに惑わされて高望みして、自分の身を亡ぼすなんてしたくなかった。


 もっとしっかりちゃんと生きたかった。


 それはもう叶わぬ願いだ。


 そんな僕は陸に打ち上げられた海月のようにもう救われない。

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打ち上げられた海の月 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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