第十三話…碧髪

渡り鳥はいずこかへ消え、陽はしずみ、夜の空には月が煌々と人々の営みを照らしていた。





「チィ……」


 ボロンフ辺境伯領領主の館、謁見の間にて、主の白髪の老人はいらいらと舌打ちを繰り返していた。


 『……間者の知らせからして、汚らわしいブタの奴の裏切りは確実よの。ドロー宰相閣下にはいかに言い訳をしたらいいものか。ブタはともかく、王国の騎士が裏切ったのはどうしたことじゃ』

 ボロンフ辺境伯は苦悩していた。


 『ま、まてよ、辺境を預かる身でありながら安易に反乱を許したのじゃ……一時とはいえ放置すればドロー宰相閣下のお気持ちやいかになる?』



 ……まるで白髪の老貴族は、宰相に恋でもしているのであろうか?



「忌々しい無能で汚らわしいブタめ、わしの侯爵へ陞爵の夢やいかになるのだ!」


 誰にというわけでなく叫びたて、ボロンフ辺境伯爵は葡萄酒の入った杯を床にたたきつけた。



――ゴッ。


 木の器であったので、緋色のじゅうたんとの間に鈍い音が響く。慌てた給仕のものが主の足元をぬぐう。


「義父上、是非わたくしにおまかせを!」


 すすみでて、そう辺境伯爵にかしずいたのはスメルズ男爵。

 ボロンフの娘婿にして伯の麾下の勇将だった。鮮やかな碧髪の下に美しい象牙細工のような顔をのぞかせる。



「反乱に対して、我らが得るものは何一つないのだぞ!」

 

 初老にさしかかるも、神に与えられた煌びやかな白髪をかきむしり、ボロンフ辺境伯は娘婿にもその恨みがましい蛇蝎を見るようなまなざしを向けた。


 そう、たとえ首尾よくブタの反乱を自軍で鎮圧しても、ボロンフ辺境伯の影響範囲が広がるわけでは決してない。

 そもそも、安易に反乱を許したことが王都からの侮蔑のまなざしを意味し、田舎者で無能な烙印を捺されるのだ。

 王都の発した外征でもないので、中央からの軍資金支給などの援助はみこめない。むしろ金などを受け取れば無間地獄のような利息を毟りとられ、利息払いの遅滞でもすれば首が回らなくなり、最後には王都に辺境伯爵領は返上せねばならない憂き目にあう。


 王都は地方貴族の失態を常に狙っており、味方に対しても領土野心のまなざしをむけていたのは、すでに全てのハリコフ貴族の知るところであった。



 白髪の老貴族は天井を見上げ、呟くように告げた。



「……、失敗は許されぬし、人的被害も抑えねばならぬ。いかにするのじゃ?」


 領内の人口減少につながれば、地方貴族にとって死活問題だった。良くも悪くも人は地方領主にとってもっとも大事な資産のひとつだった。


 美しい碧髪の若者はたち上がり、青い血が流れる細い華奢な腕でみずからの胸を叩いた。



「我らの勇壮を見れば、所詮はブタの群。たちどころに四散するに違いありませぬ。」


「おお……さすがはわが主。」


 スメルズ男爵の側近やお抱えの老臣たちは声を上げた。


 しかし、ボロンフ辺境伯爵麾下の貴族たちは、いろいろな思惑のもと、一様に好奇心を添えた如何にも貴族らしく生暖かい、そしていやらしいなまなざしを碧髪の美男子に向けた。



「さすがはスメルズ殿!」


 などと持ち上げ、貶した笑みをみせるものも現れた。



 が、碧髪のあるじは少し口もとに笑みを浮かべ。


「……それに」


 ボロンフ辺境伯は不安なまなざしを向け、問うた。



「それに……、それになんじゃ? 婿殿」


「義父上、我らには【アレ】があるではありまえぬか?」


 それを聞き、白髪の老人の目は生気を取り戻す。


「おう、【アレ】の実験にブタどもを使うのか?」


「御意」


「あはははは……そうかそうか、それは良い」


 辺境伯爵は高笑いをし、とりもどした満面の笑みで告げた。



「よかろう、男爵。ぬしの才覚をもってして、けがらわしいブタめの領地を切り取り自由とする!」


 この世界では、寄子がいくら戦場で手柄を立てても、戦後には寄り親に取り分を支払わねばならなかった。

 が、今回は切り従えた分は全て、この美しい容姿の持ち主である男爵のものとなるという意味だった。



「!?」


「な、今なんと!?」


 今度はボロンフ辺境伯麾下の寄子の貴族たちが正真正銘の驚きの声を上げ始めた。

 嘲笑っていたはずの碧髪の若造に、美味しいところを全部持っていかれるかもしれないのだ。


 日頃から、自らこそ真の知将であると豪語するものなどは、目を白黒させ激しく憤った。



「では義父上様、収穫の祝日にはブタめの首級を必ずや届けて差し上げます。」


 そう告げ、碧髪の美男子は踵を返し、謁見の間から堂々と立ち去って行った。


「ふふふふ……」


 白髪の老貴族は薄ら笑みをうかべ、実に満足そうに笑った。


 『形のうえでは寄子とは言え、婿殿の勢力が広がればワシの王都へ影響力は明らかに増す。そうだ侯爵の道は消えたのではなく、むしろ確実に近づいたのだ。わしとしたことが、失念失念……、歳はとりたくないものじゃのう……』


 そのような考えに落ち着き、老辺境伯爵は野心の高ぶりを再び目に備え、久々に若い寵姫たちを閨で可愛がったのだった。





 ……収穫前の秋の夜空には、月に風にながされた雲が薄くたなびきかかっていた。



「ぽこ~☆彡」

「うさ~☆彡」

「ぶひぃ~☆彡」


 三匹なかよく夜釣りを始める。


 で……久々の夜釣りだからかバンバン魚が釣れる。 ひゃっほぃ (∩´∀`)∩~♪


 ……しばしお魚さんと格闘~♪~♪~♪



【システム通知】 … サーバー内における単位時間当たりのプレーヤー夜間釣果 【No1】

【システム通知】 … サーバー内における単位時間当たりのパーティー夜間釣果 【No1】



 ……釣りは楽しかった (゜∀゜)人(゜∀゜)人(゜∀゜)ノ ぽこぶひうさ~♪



 ……ブタたちの領地は風雲急を告げ、……るわけでは多分なさそうだった。





【システム通知】 … サーバーが切断されました。


 Σ( ̄□ ̄|||) ぇ? 今日は母上たちは温泉旅行のはず!!





 ……暫しの暗転ののち、




「ありゃまぁ、ブルーごめんねぇ~」


「おばあちゃん、夜のトイレの時はコードに気を付けてっていつも言ってるじゃん」





(……読者の皆様、いつものブタ飯ネタでなくて本当にスイマセン <(_ _)> )

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