《第五章》Encounter

暗い。さっきまでもずっと暗かったのに。こんなにも外は暗いのか。空に光っている丸いものが1つ、そして光っている点がたくさん。当たりを見渡してみる。草原だった。自分がいた収容所はこの何も無い草原に一際目立って建っていた。目の前に道が続いている。このままいると研究員に追いかけられて捕まってしまう。トワはまた走って、その地平線に長く続く道を進んだ。まだ何も見えてこない。ただ、走るのが久々ですぐに疲れてしまう。でも、やっと解放された身だから。また捕まりたくない。その思いの方が強く、まだ走ることができた。走る、とにかく走る。腕を振って、足を必死に動かす。振り返ると、収容所も遠くなっていた。息切れが激しく、疲れたので、1度休むことにした。草原に仰向けになって寝る。所々で何かが光っている空はとても綺麗だった。

「 あれは、 なんだろう 」

気づけば声に出ていた。

「あの大きい丸は月、点々のやつは星だよ!」

そうなのか。…………って…ん?頭上の方からその声は聞こえてきた。バッと起き上がって振り返るとそこには、少女がいた。麦わら帽子に白い髪、赤い目と赤いワンピース。裸足だった。トワは彼女をどこかで見たような気がした。「ねぇ、私の名前わかる?」唐突だった。僕は彼女のことを何も知らない……はずだが。「わ、わからない」と、咄嗟に答えた。すると彼女は怒った顔をしてこちらに近づいてきた。顔が近い。ほのかにいい香りがする。(ん?この香りって………そういえば、夢を見た時にこの匂いを感じたような……あ、そうだ、夢でこの子を見たぞ。でも……寝てもいないのに、いつ夢を見たんだ?……)

「ねぇちょっと!?」

「はっ!!」

思わず後ずさりをしてしまった。

「ご、ごめん!……で、な、なんだっけ……」

「わたしの名前よ!覚えてないの?」

「お、覚えて……ないです……」

彼女は、はぁ……とため息をつく。

「もうこれで最後だからね?」

うんうん、と頷く。何が最後なのかは分からないが。

「私の名前は、セツナ」

「せ、セツナ……さん……」

「さんは付けなくていいの!セツナって呼んで」

「せ、セツナ…」

「最初に言葉詰まらせる癖やめて欲しいね」

「……ごめんなさい」

セツナは僕に背中を向けて歩き始めた。

これはついて行った方がいいのだろうか。

するとセツナがこちらを向いて叫んだ。


「ねぇ、一緒にさ!旅、しようよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る