夢島莉央
陰月礼人。彼が普通じゃないと思ったのはつい最近のことだった。
『けけっ。お前、体力テストも一番下かよ〜』
『ほんと、ほんと』
『……ぷっ。い、言い過ぎだって』
はぁ。あの人たちって、下の人間を見下すのが趣味なのかしら。家塚くんに、相澤くんに、南さん。
いつも、彼を好きこのんで馬鹿にするのはあの三人だった。
なんとか言い返せばいいのに………。
私はいつもそう思っていた。だんまりしたままか寝たふりを継続するかのどっちかで彼自身がどうでもよさげに振る舞っていた。
……何よ、それ。
諦めてる人間は私は大嫌いだ。馬鹿にされるなら見返せる様努力すればいい。鼻から『才能がないから』とか『無理、無理』とか言って勝負しようとしない行為には吐き気がする。
だから私は彼が嫌いだった。あぁ、あなたもそっち側なんだって。そう思って私は過ごしてきた。
けど、ね。ある日のこと……。私はたまたま見てしまったのだ。
「……陰月さん! 私、わかりますよ! 自身がクラス最下位となることで他の人が馬鹿にされない様に立回ってるんですよね!」
「………えっ!? ち、ちがっ」
「いえ、分かるんです。可笑しな話ですよ。だって、全部どべですよ? どべ! そんなの狙わない限りあり得ません!」
鬼気迫る感じで、問い詰めてる女子は暁さんだ。
暁真由。ロリ可愛っぽい女子だけれど……あの子天然なのかしら。距離感おかしいと思うけれど。
「……いや、その近い」
「あっ、すみません……。じゃなくて! 陰月さん! 私は信じてるって話です。陰月さんは出来るやつだって!」
「…………」
彼の困惑してる様子が目に取れる。それに、なんだか焦ってる様な感じだ。私は人間観察は得意なほうなので、なんとなくわかる。
けど、それにしても彼女……大胆ね。いくら人目につかない場所だからってあんなに距離をつめて………。
「………それじゃあ、そういうことで! 言えてすっきりしました!」
彼女はルンルンと機嫌よさげに、去っていく。
やばっ。こっちくる。隠れないと……。
って、何で私が隠れなきゃいけないのよ!!
暁さんが……去ってから一人残された彼を私は陰ながらに観察する。
「……暁真由……か。危険だな………」
え? 何今の?? 声音がいつもの彼と違う。それにあんなに真剣な表情で………。
え? ま、まさか。
私は口元をすぐに押さえてしまった。
『………陰月さん! 私、わかりますよ! 自身がクラス最下位となることで他の人が馬鹿にされない様に立回ってるんですよね!』
ま、まさか……本当に!? 暁さんの洞察力がほ、本物だってこと!?
けど、私には……とてもそんな風には……。
こ、これは……試してみるしかないかもしれないわ。
——そして。
彼が放課後、職員室に呼び出された日のこと。私はチャンスだと思った。彼に接触できる絶好の好機だ。
チラチラと様子を伺いながら、職員室の前に立つ私。
腕組みでもすれば様になるわよね。
そうして少し待つと……肩を落とした眠そうな彼と鉢合わせる。
「……あなた、悔しくないの??」
私は内心で少しウキウキしながら、彼にそう問うた。
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