アヤカシガール

白楼 遵

第1話 奉行、南蛮の地へ参る。

「こ、ここ、は・・・?」

目を覚ましたのは、ゆらゆらと揺れる部屋の中。外へ出て、まず目に入ったのは見渡すばかりの海、そして見慣れない石で出来た家。

「嘘、でしょ・・・ヤマトじゃ、ない・・・」

声を振るわせた少女ーー片平カタヒラ 椿ツバキは、これまでの事を思いだそうと、記憶を漁り始めた。




ある夏の暑い夜の事だった。

ツバキは一人、キョートの都へと出向いていた。

そこに巣食う〈アヤカシ〉を討伐する為に。

バクフ、チョウテイから直々に銘じられたアヤカシ退治の専門集団、『除霊奉行オンミョウブギョウ』。

その中でも上から数える方が早い程強かったツバキは、妖「酒呑童子」と対峙した。互角の闘いの末、刹那の差で刀が酒呑童子に届きツバキが胴を両断した。

しかし、そこで決着は付かず。

最期の気力か悪足掻きか、酒呑童子がツバキを蹴り飛ばした。

咄嗟に刀を使って足の直撃こそ防いだが、一足で千里進む酒呑童子の本気の蹴りは、女子であるツバキなど豆粒のように吹き飛ばした。

受け身さえ取れず落下したのはサガナキのダジマ。

唯一南蛮の国であるオリアーダと貿易できる島だ。そのまま転がって、入った先はオリアーダの船。

そして荷物置き場に身を潜めーーそのまま意識を失った。


どうやら骨も折れていたらしい。

まだすこし肋と腕に痛みが残っている。

そして、帝からツバキが賜った「暦刻こよみきざみの時計」に表示されている月がキョートの都にいた頃から6つも進んでいる。

「・・・どうすればよいのだ」

ツバキは途方に暮れる。

言葉は分からないことはない。

ヤマトでは南蛮y西洋の学問を学ぶ事が流行っていた。ツバキも例に漏れず学んでいた。

しかし問題は持っている物だ。

金銭はヤマトのもののみ、服装は袴に改良を加えたもの。紐で結わえれば動きやすく、そのままであればゆったりとしているので撹乱や変装に使える。

そして、仕事道具一式。刀、面、札といったものしかもっていない。

「・・・えぇい埒が開かぬ!!」

悩んでいるのは性に合わず、意を決して異国人に話を聞く。

「次、船、出る、いつ・・・」

いざ南蛮の言葉を話すとなると難しいーー同僚の言葉を今更思い出すツバキ。白い肌が羞恥で紅くなる。

「一年後です」

「・・・は?」



本当に、一年後だった。

ツバキは肩を落として悲しむ。

なんでも、近年の西洋の様子を記した書物を作らねばならないらしく、その用意に時間がかかる、ということらしい。

「・・・食いぶちは、どうすればよいのだ・・・」

悲壮感と哀愁漂う背中。

しかし、その背中に生気が戻るのは約三秒後のことだった。



「何でも、酒屋に行けば何か知れると申しておった!」

以前訪れていた南蛮の人が言っていたことを思いだし、酒屋に来た。

いかにもあらくれと言った者、しかも異国の地ならツバキはこの上なく目を引く容姿だ。

長い黒髪は一房赤毛が混じり、目も黒。

金髪碧眼が多いここでー、浮く存在なのだ。

「店主か?」

年老いた男が店の奥にいた。

「・・・ええ、そうでございます・・・貴女は、ヤマトのゴースト・・・いえ、除霊奉行様ですかな・・・?」

ツバキは僅かに動揺する。

何故それを知っている、何処でそれを知った。

問い詰めたいが、今はその時ではない。

「・・・それが、どうした」

「ほっほっほ・・・貴女にぴったりの仕事があるのですよ」

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