第46話 デパ地下の食事処
まっすぐな道をひたすら、自転車で進んでいく。
私の目的地は、すでに決まっている。
そこは、自分の家から、そんなに遠くはない。
ただ、自転車で、道を曲がることなく、まっすぐに進んでいけば、必ず着く。
住宅地を抜けて、商店街の横を通り過ぎて、坂を下る。
そうすると、だんだん道が細くなって、人の数が少なくなってくる。
ここからの道は、あまり人に使われていないようで、私のお気に入りの道である。
さらに、まっすぐ進むと、人気はほとんどなくなり、道もさらに細く、暗くなってくる。
それでも、まっすぐに進んでいくと、そこには、小さな駐輪場があり、そこからは、下に階段がずっと続いていた。
一人しか歩けないような、狭くて暗い階段である。
私は、駐輪場に自転車を停めて、その階段を下りていった。
何段くらいあるのだろうか。
数えたことはないが、結構長い階段である。
どんどん下りていって、一番下までたどり着くと、そこには扉があった。
真っ暗で、静かな雰囲気の中、その扉を開けると、その先は、まるで開ける前とは真逆の明るくて賑やかな空間が広がっていた。
ここは、デパートの地下である。
私が、開けた扉は、デパ地下の一番目立たないところにある扉だったのだ。
おそらく、この扉を知っている人は、デパートの社員でも少ないような気がする。
私は、この扉を開けた瞬間の世界が変わる感じが、とても大好きだった。
そして、私がここへ来た目的というのが、このデパ地下の食事処だった。
たいてい、デパ地下というと、食料品売り場であることが多いのだが、このデパ地下では、食料品売り場だけにとどまらず、ありとあらゆるジャンルの食事をすることができる食事処があった。
しかも、この食事処では、どのお店も屋台のような感じで、目の前で調理してくれるので、とてもいい匂いがした。
この食事処を目当てに来るお客さんも、とても多く、デパ地下は人々の活気と美味しそうな匂いで、満ちあふれていた。
さて、今日は何を食べようか。
食事処に来ることは決めていたのだが、何を食べるかまでは、まだ決めていなかった。
いつも、この広い食事処をぐるぐる回り、いい匂いを嗅ぎながら、どれを食べようか迷うのが、楽しみだった。
今日も、この人混みの中、数々のお店とメニューを眺めながら、どれを食べようか、じっくりと悩むことにした。
まず、目に入ったのが、カレーライスのお店だった。
とても、いい匂いがして、食欲をそそる。
上の方に表示されているメニューを見てみると、たくさんの種類があった。
ビーフカレーにチキンカレー、ポークカレーやシーフードカレーの他にも、スープカレーやカツカレーなど、かなりの種類のメニューがあった。
美味しそうだが、まだ他のお店も見て回りたいので、保留する。
次に気になったのが、鉄板焼きのお店である。
お好み焼きに焼きそばに、とんぺい焼きなどがあり、さらにトッピングメニューが豊富で、もちやチーズやイカやエビなどから選ぶことができた。
ソースの香りが、お店の前まで広がり、さらに食欲をそそる。
それでも、まだまだ、我慢して保留する。
その次に美味しそうだったのが、中華料理のお店である。
チャーハンに餃子に、天津飯に中華丼、それにエビチリやホイコーローなどが、メニューにずらっと並んでいる。
これだけいい匂いがしていて、美味しくないわけがない。
それでも私は、保留して、貪欲に他のお店のメニューも見て回る。
ここも美味しそうだな。
そう思ったのが、海鮮丼のお店だった。
シンプルに、いくら丼やサーモン丼や、まぐろ丼やうに丼など、一種類だけの丼ぶりもあれば、サーモンとまぐろや、サーモンといくら、かにといくらなど、二種類の組み合わせの丼ぶりもあり、また、それ以上の種類が入っている豪華な丼ぶりもあった。
とにかく、組み合わせの種類が多すぎて、数えきれないほどだった。
いろいろとお店を見て回っていると、どんどんお腹が空いてきた。
メニューを見ながら、迷うのも楽しいが、そろそろ何かを食べたくなってきた。
しかし、その何かをまだ決められていない。
何を食べようかと、真剣に悩んで、私は食べたいものを決めた。
私が、一番食べたいと思ったものは、海鮮丼だった。
最後に見ていたから、記憶が新しいというのもあったかもしれない。
私は、もう一度、海鮮丼のお店に近づき、メニューを見た。
海鮮丼にすると決めたものの、種類が多すぎて、そこからまた悩んだ。
メニューを見て、悩んだあげく、私が注文したのは、サーモンといくらの丼ぶりだった。
海鮮丼の中でも、親子の海鮮丼である。
きっと、美味しいに違いない。
そう思って、出てくるのをわくわくしながら待っていると、きらきらと輝く丼ぶりが出てきた。
私は、椅子に座って、その海鮮親子丼を食べることにした。
口に入れると、イクラが弾けて、サーモンとの相性も抜群だった。
これを選んで間違いなかったと思いながら、静かに一人で、もくもくと食べ続けた。
そして、残すことなく海鮮丼を食べ終わり、しばらく満足な気分に浸っていた。
美味しいものを食べるためだけに、ここに来て、そして、また帰る。
贅沢だなと思いながらも、私は、また入ってきた扉を目指して、歩いていった。
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