踏み出す一歩
♪~♪
「もう朝か、今日も芳江さん来るんだっけ?」
携帯にセットしていたアラーム音で目が覚め、朝の八時である事を確認した。
音楽なんて好きではなかったし、聴く習慣は俺はにはなかった。ましてやアラームに音楽をセットするなんて、今までじゃ考えられなかった。
中学の時、柚葉によく聴かされていた歌があった。
その曲は、唯一俺が聴いてて心地が良いと感じるもので、聴いてる時だけ柚葉と繋がっているみたいな、そんな気さえする歌である。
"愛をうたう"
思春期と言われる中学、高校時代。
俺は"好き"という感情が未だ理解しきれていないところがある。
俺が今"芳江"に抱いている感情を"恋"という一文字で表現するとするなら、俺が柚葉に抱いている"感情"は何と表現出来るものなのだろうか。
・・・ ・・・
気がつけば俺は、芳江に対して妙に意識するようになっていた。
「おはよう和くん!もうすぐ受験日近いよね!来週だったっけ?和くんなら大丈夫だって信じてるから!頑張って!」
芳江の真っ直ぐな瞳で笑顔を向けられる度、俺は理性を抑えるのに苦労する。
好きだったからぞこそ、幼馴染として優しくしているだけの芳江に、少し腹が立つようになっていた。
しかし、その全ては芳江が悪い訳では無い。俺が勝手に好きになって、勝手に失恋した気になり絶望し、芳江に対する苛立ちと言うのは、自分自身に対する苛立ちから来るものである。情けない事に芳江の笑顔を見ると返って辛くなるのだ。
「芳江さん、今日も勉強教えてくれてありがとう。あとは自力で頑張ってみるよ!だから、もう来なくて大丈夫だよ」
俺は自分で何を言っているのか、 理解できていたのかは定かではない。ただ、怖かったんだと思う、これ以上芳江を好きになってしまうと自分でも何をしでかすか、分からないと判断したからだと思う。
そして芳江は、俺の顔をじっと見つめるなり何も聞かずいつも通りに玄関を出る。
「それじゃ、私はこれで帰るね。元気でね!和鷹くん!」
芳江は振り返ることなく、ただ甘い香水の香りだけを玄関に残し姿が完全に見えなくなるまで、俺は芳江を見送った。
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