生きているという事
高校最後の夏休み。相変わらず学校へは行ってなかったが、兄が無事に退院し一年遅れで大学に復帰を果たしていた。
そして、こっちも相変わらずという事である。
芳江と兄と俺の三角関係は継続中である。
兄も意気地無しか、退院すれば、大学に合格したら、すると言っていた"告白"も未だ実行されていなかった。
休みの合間に、頻繁に勉強を教えに芳江さんが顔を出しに来てくれていた。
芳江の反応を見れば一発である。
そして、今日は芳江さんが来てくれる日である。
「芳江さん、遅いな。何かあったのかな?」
朝になり、目が覚めた俺は今日会う幼馴染に、気持ちを伝えるかどうか迷っていた。
しばらくして俺の携帯に着信音が鳴り出した。
「こんな朝から、だれだよ」
朝食のパンを片手に携帯に表示された名前を確認する。
芳江さんからだった。
「もしもし?今日来てくれる約束だったよね?何かあったん?」
電話越しに響く鼻水を啜る音、声は掠れ正直何を言っているのか分からなかった。
「芳江さん?どうしたの?何があったん?」
「和鷹くん、孝くんが...孝くんが...」
そういって携帯が落ちる音と同時に電話が切れた。
芳江が泣いていた。そして、兄さんに何かあったらしい。
俺は居ても立っても居られなくなり、急いで家族の住む家に向かう。
何があったのか詳しく聞く前に電話が切れ、胸騒ぎがして気分が悪くなった。
「兄さん!退院したんだよな!元気なんだよな!!」
息を切らし、シャワーでも浴びたかのように、頭から腰にかけ汗でずぶ濡れになり服が肌に張り付き、気持ちが悪かった。
ガチャ!
「兄さん!!」
ドアを開け家族の居場所を探す。
和室、洗面所、二階、そして居間に入ろうとした、その時だった。
ガラス貼りになっていたドアで中が丸見えにこそなっていたが、中は暗く物音一つしない部屋不気味に感じ、ドアノブを掴み、ゴクリと唾液を飲み込んだ。
そして、ゆっくりとドアを開け電気のスイッチを押す。
パン!!パン!!パパン!!
「うわっ!!!」
大きな音に、思わず叫び声を出してしまった。
「お誕生日おめでとう!!」
「和鷹おめでとう。」
「和くん、おめでとう!」
「和!おめでとう」
「和くんや、おめでとうね」
明かりが着き、目の前の光景に一瞬思考が停止した。
「兄さん?元気なんだよね?芳江さん?皆!これ、どういうこと?」
母、父、兄、芳江、祖母の五人が呆れたような顔で、やれやれと言うかのように首を横に振る。
「どういうことも何も、今日はお前の誕生日だろ?」
正論の如く突っ込んだのは、見るからに元気そうでな兄さんだった。
「和鷹くん、今日行けなくてごめんね?」
芳江さんが言うには、この準備の為先に此処に来ていたらしい。そして時間を擦らす為に俺を祖母の家に留めたという事である。
「皆してどうしたんだよ、俺もう十八だよ?子どもじゃないんだから、改まって恥ずかしいだけだよ」
兄さんが元気だった事に胸を撫で下ろした。安心したのか肩の力が抜け腰が竦む。
バタリッ!
瞼が重くなり、睡魔が襲いその場で横になった。
・・・ ・・・
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