俺は自分が大嫌い

あれから公園に居た女性が気になり、毎日のように顔を出しに行った。


「今日は居ないのか」


日曜日から金曜日まで、彼女に会ってみたいという気持ちだけて俺は外に出る。


"イジメ"による精神的苦痛が拭えることはなく、大学に進学する上で他人との接触を克服しなければならなかった。


祖母の家で暮らし始めてから一年、こうして自らの意思で一人で外出をしたのはあの日が初めてだった。


彼女は、恐らく毎日居るという訳では無いみたいである。


あれから丁度一週間が経過した"土曜日の夜"、ベンチに腰掛け彼女を待つ事三十分。


コツッコツッコツッ。


車の走るエンジン音、何処かの家から微かに聞こえる賑やかな笑い声。そして頬を撫でる風は、どこか暖かかった。


階段を登る足音が響き、音鳴る方へ視線を向ける。


手に何かを持っている様だった。


今日も立ったり座ったり、後ろ姿だけでも綺麗な人なんだろうと、そう思った。


俺は、そんな彼女が気になり声をかける決断をした。


何て話しかければ良いのか、歳上なのか、あるいは年下かもしれない。


いきなり声を掛けられて驚いてて逃げられたらどうしようか。


頭の中で様々な不安要素が頭を過ぎり、一歩、また一歩と彼女に近づくに連れ覚悟を決めた。


「あの、いつも此処で何をされてるんですか?」


彼女は反応し、長い髪を耳に掛け、そっと振り返る。


「そういう君は、此処で何をしているのかな?」


いきなり声を掛けられて警戒しない方が不自然というものだ。


「俺は、中学の時に良く此処に遊びに来てたんです」


逆光で彼女の顔はハッキリと見えなかった。ただ彼女の声を"ずっと聞いていたい"とそう思った。


そして、その女性は俺に近づくようにして一歩、また一歩と歩みを進める。


♪~♪~♪


すると彼女のズボンから音楽が鳴り出し、誰かからの着信なのか慌てた素振りで携帯を取り出した。


「ごめん、ちょっと用事が出来たから帰るね。家も近くみたいだし、また何処かで会えたら、その時はよろしくね」


俺は、彼女の走る後ろ姿を見えなくなるのを、ただ呆然と立っていた。


「また、会えたら良いな」


初対面の筈の女性に、俺は何故か無性に"会いたい"と思うようになっていた。


その気持ちは日に日に増していき、芳江との勉強会の合間や、休日、特に用事が無い日は彼女を探して回っていた。


"会いたい"その一心で。


一目惚れというのは、こういう事を言うのだろうか。


俺は一人、口角を上げ次会うその日を思って、スキップをしながら家に帰っていった。


「きっと綺麗な声の持ち主だ、容姿も綺麗な方に違いない」


そんな偏見で決めつけ、興奮をヒートアップさせていた。


「柚葉...柚葉なのか!柚葉!柚葉ーー」

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