前進と後退

学校を中退してから半年が経とうとしていた。


今頃進級して高校二年になっていたはずだが、俺は一年の夏休みが明けると同時に退学の手続きを済ませた。俺にとっての夏休みは、地元に帰るための計画を練る時間となっていた。


学校を退学してから約一年が経過した。


「おばあちゃん!ただいま!今帰ったよ」


家を出て好きだった街に帰り、一人暮らしをする訳にもいかなかった俺は、駄菓子屋を営む祖母の家で二人で暮らしている。


祖母の家に着くなり、中に入ると祖母は外行きの服を着て化粧がされていた。


滅多にしない祖母の"化粧姿"に少し気になった俺は質問する。


「おばあちゃん、どこか行ってたの?」


すると祖母は背を向けたまま


「少し買い出しをしてきたんだよ」と軽く微笑みながらそう言った。


俺は祖母の表情や言葉に違和感なんて微塵も感じなかった。


高校三年になる年、俺は不必要な外出をしてこなかったが気分転換を兼ね、いつもの公園に足を運ぶ。


四月八日の夜、公園のベンチに座るなりふと一息を着く。


「進学かぁ、俺のしたい事とか何一つ浮かばないし、進学するにしても専攻が思いつかん」


ベンチに両手を着き、澄んだ空に光る星をただ眺めながら自身の未来に不安の愚痴を漏らす。


三十分くらい時間が経ったか、少し肌寒く感じた春の夜風がどこか心地よく、ずっと此処に居たいとまで思う程だった。


ふと付けていた腕時計に目をやり、そろそろ帰ろうと立ち上がった時、俺と反対の入口から女性らしき人影のようなものが見えた。


「こんな時間に一人で何をしに来たんだか、まあ俺も同じ類ではあるから何も言えないんだがな」


月光に照らされ、空を見上げるなり座り込み、立ち上がっては帰っていった。


「なんだったんだ?あの人」


小首を傾げるなり、俺も家に帰ることにした。


地元は比較的静かで穏やかである。


少しの間引っ越した都会の街は、やはり俺には合っていなかったのだろう。


此処は言わば俺の原点と言っても過言ではないだろう。


中学までは此処が当たり前だった事もあり、そんな風には感じなかったが、今になって改めて思う。


綺麗な空気に澄んだ空。星なんて今までまともに見たことなんて無かったのに、星を見て感動するようになっていた。


家に着くと、祖母は和室で既に就寝していた。


「おばあちゃん... ...もう、寝ちゃったのか」


祖母を起こさないように、俺は静かに自室に戻り布団に入る。


「さっきの女性、また会えたら話しかけてみようかな」


遠目からだった為、誰かまでは分からなかったが、何故か直感で"話してみたい"とそう思った。

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