嫉妬
「和鷹くん!後で一緒にウォータースライダー行こうね!」さっきまでの鋭い視線を向けていた柚葉が、俺を見るなりいつもの柚葉戻ったように見えた。
「おう、行こっか!」
受付の券売機で入場券を購入し、俺達は更衣室に向い別れる。
県内で一番人気とされる"総合プール"で夏休みも始まり、今年も人の多さは凄いものだった。
「和鷹、今日呼んだ瀬良さんだったか?付き合ってるんだろ?可愛らしい子じゃん!」更衣室に入り、着替えるなり俺に質問を投げかける。
俺は兄が何を思ってそんな言葉を発したのか理解が出来なかった。芳江さんという存在が有りながら、好意剥き出しで兄に迫っているのに、まるで何も無かったかのように振る舞う兄が許せなかった。兄に感情があるのか、知ってて気付かない振りをしているのか我慢してきた感情が今になって爆発する「何言ってんだよ兄さん!俺は兄さんが何を考えているのか全く分からないよ!頼むから俺の事より自分の事考えてくれよ!」
「芳江の事か?俺だって気づいてるに決まってるだろ!あんな明白に好意剥き出しで来るアイツに俺は答える事が出来ないんだ!和鷹、お前は彼女を手放すんじゃねぇぞ!」
兄が何を言っているのか、その意味を俺は後になって知ることになる。
俺は兄から逃げるようにして更衣室を後にする。
シャワー室の出口付近に柚葉の姿が見え、軽く体を流し柚葉の元に駆け寄る。
「遅くなってゴメンな」
柚葉はどこか心配そうにこちらを覗き込む。
「和鷹くん、顔色少し悪そうだけど何かあった?」
さっき兄を怒ったからか、顔が元に戻りきっていなかったらしい。
「もう、大丈夫だよ。心配かけてゴメンな」俺は柚葉を引っ張ってウォータースライダーの列に並びに走る。
「ウォータースライダー、結構並んでるね。うち和鷹くんの後ろに座るね!前よろしく~♪」柚葉は俺に気を遣ったのか、楽しそうに俺に笑顔で話しかけてくれた。純粋に楽しいからか、今回の笑顔は温かく優しい笑顔だった。
列が少しずつ減り、俺達の順番が前から三番目になる時、視界に二人の姿が入る。
芳江さんが兄に振り向いてもらう為、髪型をセミロングからボブに変え、水着は行きの電車で鞄から袋の中に入っているのをこの目で見ていた。この日の為に新品の水着を買ったのだろう。スキンシップも積極的にし、俺はあまりにも芳江さんが健気に思えた。
兄の更衣室での言葉を思い出し、再度胸が痛くなる。
ドンッ!
「痛って!!」左半身に柔らかい感触の何かがぶつかってくるのを感じ、その衝撃に体が蹌踉めいた。
「和鷹くん、うちと遊ぶん楽しないん?なんかさっきから、心此処に在らずって感じやよ?うち、帰るわ!」
「ちょっ!待ってよ!」
俺はどうかしていた。予定を立てるところから今日この日を楽しみにしていたのに、俺はも彼女を心配させ、怒らせた。
走って彼女を追いかけるも、ただ柚葉の背中を見ると足が竦み、柚葉が更衣室に消えていくのを見る事しか出来なかった。
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