初恋
これは俺が小学一年の頃の話だ。
人見知りの性格から周りに馴染めずに居た俺に、手をさし伸ばしてくれた人が居た。
幼馴染の"長谷川芳江"である。
俺は教室に戻るも、いつも一人だった。
別にイジメを受けていたとかでは無かったが、スポーツが苦手で外でサッカーやバスケットをするクラスメイトとは遊ぶ事もなく、次第に誘われなくなっていった。
また、写真を撮ることが好きだった俺は休日に公園や山なんかに登ったりして昆虫や花、様々な生き物を観察しては学校の図書室で名前を調べたりなんかを良くしていた。
それ以外の昼休みには、二つ年上の兄と幼馴染の教室に遊びに行ったりもしてた。
「お邪魔します。兄は居ますか?」
俺は教室に入ると、途端に女子が集まって来る。
気分は、そう悪くはなかった。
教室を見渡し、兄を探す。
すると、奥から女子生徒が一人向かってくるのが視界に入る。
「和鷹くん?最近良く来るよね?お兄ちゃん探してるの?多分トイレか何かだと思うから、戻って来るまでちょっと話でもして待ってよっか」
腰を屈ませ、俺に目線を合わせるようにして話しかけてくれたのは他でもない"芳江"だった。
彼女は俺にとっては実の姉のような存在だった。
幼い頃のアルバムに兄と芳江が当時一歳くらいの俺を真ん中に挟んで映っている写真を見たことがあった。
その頃から、何かと面倒を見てくれていたらしい。
今では勉強を教えてもらったり、相談に乗ってくれたりしているが、幼い頃俺は"芳江"に好意を寄せていた。
しばらくして、トイレから戻った兄が教室に戻り、俺の背中を軽く叩き
「芳江をあんま困らせんなよ?」
と薄ら笑いをし、そう言って兄は俺と芳江の間に入り三人でたわいもない話をし、楽しい時間はあっという間と言うが、その通りである。休み時間の終わる予鈴を告げ、昼休みも残り五分になり、兄の教室を出て自分の教室に戻って行った。
ふと教室をでる瞬間、芳江が兄と話す表情を見て確信した。
なぜなら俺と話している時より、芳江は楽しそうに話していたからである。
それは、俺の前では見せない顔だった。
「芳江さんは、きっと兄が好きなんだろうな。兄は芳江さんが好きなんだろうか?」
俺は、小さい頃から兄と幼馴染の三人で公園に頻繁に遊びに行っていた。
中学に上がり、今も芳江が好きな気持ちは変わっていなかった。
部活が終わり、家に帰る途中芳江が前を歩いているのが目に入り、彼女に話しかけようと走って近づいていった。
少し息を切らせながら
「芳江さんっ!今帰りだったんですね。今日は、ありがとうございました」少し雰囲気がいつもと違い、今にも泣き出しそうな、そんなオーラが滲み出ていた。
彼女の顔を見るなり、声を掛けるべきではなかったのだと後になって後悔した。
すると、俺に気がついたのかさっきまでの雰囲気から打って変わり、いつもの明るい笑顔で俺に向かって
「和鷹くん、見ちゃった?私は、大丈夫だから。またね」そう言って彼女は足早に家に入って行った。
「ただいま」荷物を置きに部屋に戻り、夕飯の香りが玄関まで漂っていた。
ソファーで寛ぎながらテレビを見ていた兄が
「おー、帰ったのか。そう言えば、今日芳江からチョコもらったんだけど、お前今日クラスメイトから貰った?俺多すぎて食べれないから、良かったら俺の食うか?」それは耳を疑うものだった。
「兄さん、何を言ってるの?そんな簡単に俺にあげるとか言うなよ!なんで軽く言えるんだよ!」俺は、さっきの幼馴染の表情が頭を過ぎり、それを兄が知っているかどうかは分からないが、兄の軽率な発言に無性に腹を立てた俺は、どうしても許せなかった。
今は受験生という事もあるだろうけど、去年に関しても芳江さんが家に来る事はあっても、二人で話す光景や遊ぶ頻度が確実に減っているのを、近くに居るからこそ分かる。
そして、俺が兄に怒っているのは他にもあった。
兄が俺に差し出した芳江さんのチョコを見て、怒りは剥き出しになった。
俺が今朝貰ったチョコの大きさに比べ、圧倒的に大きかったからである。
そして、それを簡単に弟にあげようとしていたからだ。
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