コント 王子の心得

不燃ごみ

第1話

場所……警察署「取り調べ室」


万引き女 vs  取り調べ刑事


役 万引犯の女=ボケ 刑事=つっこみ



刑事「なあ、どうして万引きしたんだ」


女「誰かに気付いて欲しかった」


刑事「何を」


女「私がこの世界にまだいるってことを」


刑事「意味わからんな」


女「刑事さんが風俗に、罵られにいくのと同じ」


刑事「行ってねえよ。しかも何だよ、罵られにいく風俗って」


女「私の存在は消えつつある、でも万引きすることでそれを遅らせる」


刑事「ムヒ盗んでか」


女「蚊だけが私の存在に気づいてくれる」


刑事「血がうまいんだな」


女「そう……かも」


刑事「まだ若いんだ、蚊みたいにお前さんを慕う若者が現れるよ」


女「蚊みたいにヒョロガリはいや」


刑事「そういうこと言ってんじゃねえよ


女「取り調べで、例えに凝る刑事もいや」


刑事「とどめさすう」


女「最近のディズニーアニメのトレンド知ってるかしら」


刑事「なんだよいきなり」


女「お姫様が王子様と出会って幸せになりましたって、物語をやらないの」


刑事「王子と出会って結婚すりゃあ、幸せだろう」


女「姫は王子の子作りの道具になるだけだわ」


刑事「そんなことねえだろ。大事にされんじゃねえの」


女「そんな貧困な想像力だから風俗で罵られるのよ」


刑事「今、被疑者に不当に罵られとるわ」


女「とにかく、私たち女は王子に期待しないってこと」


刑事「だからって万引きしても意味ねえだろ」


女「じゃあ、あなた王子をやってみてよ」


刑事「へ、お前が姫なの」


女「私は城のドブねずみよ」


刑事「ハーツかよ……しかも、万引きはどこいった?」


女「王子様、ついに悪い魔法使いから姫を救出しましたね。でも、油断めされるな。有力貴族たちが自分たちの娘を差し出してくるのですから」


刑事「どんな美人が現れようと、我が愛は姫のものだ」


女「罵りの天才が現れたらどうする」


刑事「罵られ好きの王子じゃねえから」


女「その女の罵りは王子を童心に返す。まるで厳しかった父や母に接するように。刑事や、お前はなんでそうやって駄目な子なんだい、しっかりおし」


刑事「ケイジって名前なの、その王子」


女「刑事王子」


刑事「シュール」


女「だんだん、王子は大臣の娘の罵りから快楽を感じ"罵られの舞"を踊りだす」


刑事「何だ、罵られの舞って」


女「尻を突き出して、ぶってぶって、いいながら腰をふる踊り」


刑事「それ、とっくに王位継承権剥奪だろう」


女「王子はん、自分を開放してええんやで」


刑事「何でドブネズミが関西弁」


女「ねえ、王子様、私はただ守ってもらうのは嫌なんです」


刑事「ドブネズミなんか守るか」


女「勘が悪いわねえ、今から姫なの」


刑事「身勝手え」


女「あなたが自分にコンプレックスを持ってるのは知ってました」


刑事「持ってねえよ、失礼な」


女「あなたのコンプレックスは、自分というものがナイこと」


刑事「なんだよその曖昧なの」


女「空っぽの自分を埋めるために、私を悪い魔法使いから救ったのよ」


刑事「恩知らずな姫だなあ」


女「だってあなた、王子という地位以外何があるの」


刑事「賢くて、剣の達人で、顔もよくて」


女「あああああ薄っぺらい。統治者としてどうなのかって聞いてるのよ」


刑事「日々民のことも考えてるよ、彼らが幸せに暮らせるように」


女「ムヒも買えない、民の気持ちが分かるのかああ」


刑事「動機きたああ」


女「蚊に食われて痒くて眠れないんじゃああ、どアホおお」


刑事「意外にシンプルな動機」


女「つまりは、痒い、盗った、塗った」


刑事「カエサルの名言っぽいな」


女「何それ」


刑事「来た、見た、勝ったって名言だよ。わりい、インテリひけらして」


女「インキンひけらかすな、くおらああ」


刑事「誰がインキンじゃ、とにかく動機は分かったよ」


女「テメエがタ民の暮らしを守らねえからだよ」


王子「王子の苦労はんぱねえな」


女「ぼやぼやしてっと、革命おこすぞ」


刑事「王子ごっこはもういいから、まあ、初犯だし、店長もおおごとにしないっていうから」


女「す、すいませんでした。反省してます」


刑事「二度とするなよ、かゆいからって」


女「王子様に、最後のお願いがあるの」


刑事「王子じゃねえから、もう。何だよお願いって」


女「民に蚊取り線香の配給もお願いしやす」


刑事「いい加減にしろ」




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