Lemonade~もう1度君に恋をする~

MAriNo

第1話 朗報……?

月曜日の夜。

金曜日の夜とは違うこの街の静けさが好きだ。


俺、小野寺 鷹也おのでら たかやはいつもの居酒屋に向かった。

大学を卒業してからは親が営んでいるカフェで働いている為、俺にとっての月曜日は世間でいう金曜日。


「おぉタカ! おつかれー!」


店に入ると奥の席で幼なじみの鶴村 晴斗つるむら はるとが手を上げた。

俺は晴斗の前に座るとビールを注文した。


「月曜から飲む酒はやっぱうまいよな」


そう言ってビールを飲み干した晴斗はネクタイをゆるめた。

不動産で働く晴斗もまた、月曜日の夜が特別なのだ。


「土日も関係なく働いてるんだからこれくらいさせてもらわないとな」


俺がそう賛同したところに、ちょうどビールが運ばれてきた。


「それじゃ俺たちの週末に乾杯」


そして乾杯するとそのままビールをぐいっと飲んだ。

キンキンに冷えたビールはやっぱり最高だ。


「そういえばこうやって飲むのも久しぶりだな」


子供の頃からモテまくりの晴斗は彼女は作らず、不特定多数の女性と飲みに行ったりデートを繰り返している。

そんな貴重な月曜日の夜に珍しく俺なんかと会っている。


「今日はタカに朗報があってさ」


晴斗はニヤニヤしながら言った。


「え!? 朗報って何? 晴斗、彼女でもできたの?」


「馬鹿だな。俺に彼女ができたところでお前にとって朗報でも何でもないだろ」


遊び回ってる晴斗に彼女ができたとしたら、それはそれで俺の中ではビッグニュースなんだけど。


「じゃあ何だろ」


俺は首を傾げる。


「タカさ、小学生のときあおいさんのこと好きだっただろ?」


予想もしていなかったその名前を聞いた途端にドクンと心臓が波打った。


「あぁ、葵さん……」


明らかに動揺している。

落ち着け、俺。


「tweetgramでさ、葵さんからDM来たんだよ。俺も久しぶり過ぎてびっくりしたよ。小学生以来だったし。そんで久しぶりに飲もうってなったんだけど、もちろんタカも来るっしょ?」


当然のように俺が行くていで話を進める晴斗に困惑する。

晴斗の言うとおり、俺は葵さんのことが好きだった。

だけどそんなの10年以上も前の話だ。

それに……。

俺、あんな振られ方したし。


「いや……どうしようかな」


「どうしようって言ってる時点で行きたい気持ちあるんだろ? よし、決まりな!」


なんだその強引な解釈は。


「葵さんも平日休みみたいだからさ、来週の月曜の夜、ここで会おう」


「ちょ、ちょっと……」


完全に動揺する俺に断る隙も与えず晴斗は話を進めていった。


「今更……」


俺は俯いて、汗をかいたジョッキをみつめた。

晴斗は昔からモテていたし、葵さんが晴斗に連絡をしたのも、晴斗と会いたいからじゃないのか……?

そんなところに俺が行ってもな……。


「葵さんもみんなに会いたいって言ってたし、まぁ深く考えずにさ! 同窓会感覚で軽い気持ちで来いよ」


晴斗は相変わらず涼しい顔でビールを飲む。

そのの中に俺は含まれるのだろうか……。


「わかったよ……」


明らかに納得していない口振りで答えたのに、晴斗は全く気にする様子もなくつまみのポテトに手を伸ばした。

これ以上何を言っても無駄だと悟った俺は、諦めていつものようにくだらない馬鹿話へと話題を変えることにした。


そんな頭の片隅で10年以上も前の遠い記憶を思い出そうとしていた……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る