ぼっちの戯言

白咲実空

挨拶という名の暴力

朝、教室に入った瞬間にクラスメイトから向けられる目が嫌いだ。

足音だけで勝手に友達が来たと勘違いしておきながら、来たのがただのぼっちの陰キャだったときのあの表情が大嫌いだ。

ドアが閉まっていた日なんてもっと最悪だ。

ガラガラというあの音がその場にいる皆を引きつけ、その場にいる皆を落胆させるのだから。もし世界で嫌いな音はなんですかと聞かれれば、俺は真っ先にその音を挙げる。

だから俺、佐藤陽介は、少しでもそういった被害を減らすために、今日も朝早くに家を出た。


教室につく。時刻は7時30分。大丈夫だ。まだ4人しか来ていない事実に安堵しながら、今日もまた、いつものようにスマホをいじる。

ちなみにスマホはいじっているが特になにもしていない。スマホとは最強の武器である。いじっているだけで何かしているように見えるからだ。本などと違い、暗いやつと思われる傾向も少ない。だから俺は休み時間はずっとスマホをいじっているフリをしていた。


8時15分。人が集まりだしてきた。ここで俺が学校生活の中で1番嫌いな時間が訪れる。

「おはよー」

「おはよー」

「おはよー」

恐らく同じ電車から来たのだろう。女子の集団が一斉に教室に入ってきた瞬間に繰り出されるおはよう攻撃。

誰かが入ってくる度に教室にいる女子の集団が1人1人に挨拶をするのだ。

俺はこの行為が本当に嫌いだ。なんだこれ。おはよう合唱か。

そうして聞いているだけでイライラするおはようの嵐に耐えながら過ごす。無論、話しかけて来る者などいない。 なぜなら俺は、ぼっちだからだ。

高校に入り、勝手に友達が出来ると思っていた俺の判断は間違いだったらしい。極度の人見知りが発動し、誰にも話しかけなかった結果、ただいま絶賛ぼっち中だ。

しかも陰キャなので陽キャが怖い。なにあの女子。さっきからずっと俺のこと見てるし。うわ目ぇこわー。絶対悪口言ってんじゃん。ダメだよーそういうの。ちゃんと傷つくんだから。

というのは面と向かって言えない。言える訳がない。言ったら次の日から俺は不登校になる事だろう。

とまぁ、いつも通りの日常を過ごしていると、1つだけ、今日はいつも通りではない事がおこった。

「佐藤くん、おはよう」

話しかけられた。佐藤なんて苗字どこにでもあるが、この教室では1人しかいない。俺である。

「あ、ああ…おはよう…」

ヤバい、キョドった…。だが挨拶は返した。挨拶なんて小学校以来だな。まさか俺に話しかけてくる強者がいたとは。

しかし、相手を見て納得する。名前は知らないがクラスで委員長をしている女子だった。

本当にいい子というのは誰とでも話をするらしい。

だが挨拶はした。これでもうどっか行ってくれるだろう。

「佐藤くんってさー…」

マジか。話振ってきた。どうする俺。コミュ力とか持ち合わせてねーぞ。

「え、何?」

しまった。言い方素っ気なかった。感じ悪いやつだと思われた。

だが委員長はそんなの気にした様子もなく隣の空いてる席に座って、こう言った。

「毎日楽しい?」

パタン

「凛、見て見て!これ昨日言ってたやつのー…」

「えー?なになにー?」

しまった。スマホを落としてしまったらしい。拾ったと同時に、隣に人はいなかった。どうやらあの子は凛というらしい。

だが、そんなのどうでもいい。俺は心のなかが急速に冷えていくのを感じた。

これだから陽キャは苦手だ。自分たちと違うだけであいつは可愛そうだと、楽しくなさそうだと決めつける。

俺はスマホを持ち直すと、チラリとさっきの少女、凛を見る。

彼女はもう俺のことなど気にせずに別の友達と楽しそうに話していた。

ほらやっぱり。言いたいことを言った後におまえらはそうやってなにもしない。結局言うだけだ。

挨拶は人を気持ちよくするものだと先生はよく言うが、俺はそうは思わない。

親しい友人ならまだしも、よく知りもしない相手から言われた場合は緊張と戸惑いしか残らないのだ。

「よけいなお世話だよ…」

ポツリと呟く。

もっと、人の気持ちを考えてくれないものだろうか。

そう、いつものように、今日も俺は独りごちた。




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