過負荷実験《オーバーロード》の最高傑作〜覚醒した悪神『悪意の群衆《アンラ・マンユ》』の学院無双〜

紅蓮

第1話

 ーーー今からおよそ10年前。


「……何のために、君は生きている?」


 とある研究所で、血まみれになりながらも、白衣を着ている男はそう質問をする。


「ぎゃははははは!!愚問だなァ?テメェらが1番知ってるだろうがよォ。……なんせ、俺を!!!」


 そんな男の質問に答えるのは真っ白な実験服を身にまとっている少年だ。

 不敵な笑みを浮かべながら、全てを嘲笑うようにして言った。


 しかし、その目は虚ろな目をしており、全くと言っていいほどに生気というものが存在していなかった。


「ぐふぅ……確かに、君を造り出したのは私達だが、既に支配権……君は外部からのあらゆる接触を受け付けていないはずだ」


 血まみれになった脇腹を抑えながら、苦しそうに白衣の男は話す。


「……あ゛?何が言いたいンだ?」


 恐るべきほどの怒気と殺気を含みながら喋る少年。


 先程、研究所と言ったが……この場には生存者は少年と白衣の男の二人しか存在していない。


 そう、この研究所に存在していた研究員や被検体……その全てを少年が一人で殺し尽くしたのだから。

 ぱちぱちと燃え盛る炎が少年達を囲むようにして存在していたが、現に彼らの辺りには沢山の惨い死体が存在していた。


 ……そして少年のそんな声がよく響く中、白衣の男は最早死人の目をしながら答える。


「はぁ、はぁ……我々を殺したい程に憎む気持ちはよく分かる。……その上で君は、これからどうやって生きるつもりなのかを、私は知りたいんだ」


「……どうやって生きるつもりか、だって?」


「……ああ。もう研究所は壊滅、実験も中止だ。だからもう私はここの研究員では無い。……最後に私個人として、君に生きる目的を与えたいんだよ」


 最後に、と言ったのは白衣の男の生命活動はもうすぐ終了するからだ。


 脇腹だけではなく、様々な所を負傷している。

 出血が酷すぎるのだ。

 失血死で恐らくは……いや、確実に助からないだろう。


「それは、テメェの同情かァ?」


「……ふっ、まあそうだ。こんな事をするのは……私が君に対して、可哀想という気持ちを、抱いているからだろうな……」


 途切れ途切れな口調で白衣の男は、瓦礫にもたれ掛かりながら、話した。


 少年はその答えを聞いて「テメェ……」と不快な気持ちとなる。

 しかし、それは同情の言葉に対してでは無い。


 なら何故かと思うが、理由は簡単だ。


 白衣の男が発したその言葉に全くの嘘がなかったためだ。

 同情かどうかは残念ながら分からないが、少年に生きる目的を与えたいという考えは、真実だった。


 今まで汚く、醜悪で、下衆な大人ばかりを見てきた少年はそれを感じとって、戸惑いからか、そう苛ついたのだ。


「おいおい……テメェ状況分かってんのか?俺がテメェを殺すってのによォ……その俺に生きる目的とか、頭沸いてんのか?」


 まるで白衣の男を見下す様にして、少年は話した。

 しかし、白衣の男はそんな事は気にした様子は無く答える。


「ごふっ……そうだ。……行いは、いつか必ず自分に帰ってくる。君に対して私達がした行為を思い出せば……はぁ、はぁ、これくらいは当たり前だ」


「ぎゃははははは!!……そこまで来ると、とてもおめでたい頭だなァ!?やっぱりテメェの思考回路は狂ってるぜぇっ!!!」


 天を仰ぎながら、顔に手を当てて少年はそう嗤う。

 とても野蛮な笑い方。


 ーーーしかし、その瞳に僅かながら涙が浮かんでいた事を少年は気付かない。


 そして、それを見た白衣の男はフッと笑う。


「……それに、罪滅ぼしの気持ちもある。……はぁはぁ、君に対して偽善でも償いをすることで、私達の行動を少しでも許してもらおうというな……」


 白衣の男のその呟きに対して、少年はその嗤いを止めて怒りの表情を浮かべながら、ギロりと見やる。


 どうやら、今の発言が酷く逆鱗を逆撫でしたようだった。


「罪滅ぼし、だと?……テメェらの罪が許されるわけねぇだろうがよォ!!テメェらが俺に何をしたのか忘れたのか!?」


 あまりの怒号に、辺りに散らばるガラスや瓦礫がそれによって更にひび割れ、砕けた。

 更には、少年の辺りにあまりの怒りに可視化する程の莫大なエネルギーが漂う。


「ふっ……忘れるわけがないじゃないか。数年もの間……研究員と被検体とは言っても、生活したのは鮮明に覚えている」


 しかし、白衣の男はそんな少年の様子を目の当たりにしても、萎縮したり取り乱したりしたりせず、力を振り絞りながらも淡々とした様子でそう話す。


 ギリィ……という歯軋り音が少年の口から聞こえる。


「……テメェは」


 少年はそう呟いたが、すぐに白衣の男を道端の石ころでも見るかのようにして、睨んだ。


 とても細く肌も真っ白で、力など全くないような腕をゆっくり動かし、白衣の男の頭部目掛けて手のひらを突き出した。


「……クソッタレが。これ以上テメェの戯言に付き合う気はねえ。テメェはこの場で俺が殺す。……最後に言い残したことはあるかァ?」


 冷たい瞳で少年が白衣の男目掛けてそうつぶやく。


「はぁ、はぁ……君は今年で16歳だったな。……もし、君に生きる目的がないのなら、学校に行ってみるといい。仲間を……友達を作れ。はぁ、はぁ……そうすれば君の人生にも色が生まれるだろうからな」


 白衣の男は瞼を閉じながら苦しそうに最後にそう言い残した。

 しかし相変わらず少年は彼を冷めた目で見る。


「ああ、そうかよ……なら、死ね」


 少年はそう言って、手に力を込める。


 すると頭部に触れていないにも関わらず、パァンッ!!という内部破裂音が響き渡り、白衣の男の頭部が砕け散った。

 穏やかな表情を浮かべながらも、頭部の各所から鮮血が巻き散る。


「ははは……」


 少年の口から思わず、そう嗤いが漏れる。

 至近距離にいた少年にももちろん返り血を浴びることとなる。


 ベチャッと、頬に男の血を浴びながらも少年は天を仰ぎながら何処か悲しげに、しかし愉快そうにさらに嗤った。


「ぎゃははははははははははははっ!!!」




 ◇ ◇ ◇




 ーー天狼の森。


 この森に立ち入った者は二度と帰ってくることが出来ないと言われるほどに危険な森にとある耳長種エルフが存在していた。


 耳長種エルフというのは数百年もの永き時を生きる種族なのだが、稀に種族進化を果たし古代耳長種エンシェントエルフと言う1000年以上を生きる者も存在する。

 そして、彼こそが既に1000年以上を生きている、その古代耳長種エンシェントエルフであった。


「ようやく、見つけたよ……」


 ボロボロになりながらも、彼は天狼の森の奥である一つの崩壊している建物を見つける。

 ボロボロ……というのは、彼が既に10日以上をこの森で過ごしていたからである。


 彼も相当な実力者なのだが、道中で起こった様々な出来事により、こんな姿にさせられてしまったのだった。


「やっぱり情報通りだね……」


 彼はその建物の中心部目掛けて歩きながら、辺りを見渡した。

 辺りを見渡たせば様々なところが崩壊し、至る所に瓦礫が転がっている。


 更には様々な人間が血肉を撒き散らしながら、地面に横たわって居た。

 ……そのあまりの鉄臭さに顔を顰めてしまったが、なるべく気にせず進む。


「……それにしてもやはり凄いね」


 これはおよそ10年前、とある少年が引き起こした厄災の現場である。

 10年も経っているならば普通、建物などはかなりボロボロとなって風化し、ここまで綺麗な状態では残らないだろう。

 ……まあ、攻撃をもろに受けているこの現場を綺麗という事は少し難しいかもしれないが。


 しかし何故か、この様にその時の現場がそのままの形で残っている。


 その理由としては、ここで行われていた非人道的な人体実験で得た研究成果の一つを建物自体に施してあるからだ。


 建物自体の時間が止められているのだ。

 故に、そのままの形で残っていた。


「ふぅ……ついに、あの少年を……」


 そうして、古代耳長種エンシェントエルフの彼は中心部に位置する大広間へと出る。

 彼が苦労をしてこんな所まで来た理由……それはとある少年を見つけ出すためであった。


 ……そうして見つける。


 おそらくは返り血……それで血まみれとなりながら地面に横たわっている漆黒の髪の毛を持っている少年を。


 ーーー彼の、探し人を。


 この建物……研究所なのだが、それに施されていた時間停止の力がその少年にも影響を及ぼしている。

 10年もの間、意識を失いながらも生き続けていたのだ。

 現に少し痩せこけてはいるが、微かに呼吸をしていた。


「よいしょっと……」


 彼は少年を横抱きにして持ち上げる。


(やっぱり軽いね……)


 元来た道を帰りながら、彼はそんなことを思ってしまう。

 皇国に戻ったら真っ先に治療を受けさせてあげよう、とも。


「でもこれは早く帰らないと不味いかも……」


 そう思った彼は歩くスピードをあげる。

 そうして彼は、暗闇の森の中へと少年を抱きかかえながら、歩いていくのであった。

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