一角獣はアセクシュアル

ロコ

第1話 訪問者

「もう、自分のストロー使ってよ」

 モイラは怒鳴った。

「今ないんだよ」

 眼鏡を拭きながらバズが面倒くさそうに答えた。

「じゃ諦めて」とモイラが突き放すと、

「いいよ。じゃ、これで吸うから」とバズは十ポンド札をくるくると細く巻き上げて、鼻の穴に突っ込んだ。さらに前屈みになると、机の上に引かれた極太の真っ白い粉の線を勢いよく吸い切った。

「きったなーい。それどこの誰が使った札かわかってんの?」

「知るわけないじゃん」バズは立ち上がって、DJセットの前へ歩いて行った。

 床に置かれた段ボール箱にぎっしりと詰め込まれているレコードたち。

 バズはそこから無造作に二枚のレコードを選び抜くと、ターンテーブルの上にのせて、ゆっくりと針を落とした。

 心地いいリズムが、ところどころ色のはげた黒いスピーカーから鳴り始める。

 左右のレコードが発する音が互いに重なり合い、徐々に複雑なうねりを生んでゆく。

 モイラはゆらりと椅子から離れ、部屋の中を彷徨うように踊りはじめた。

 次の瞬間。

「隙あり!」と、バズに飛びかかった。

 そして流れるような手つきでグイとズボンを掴むと、力任せに床へ引っ張り下ろした。

 突っ立ったままのバズの、白い尻が丸出しになった。

 しかしリアクションが薄い。 

 よほどやられ慣れているのか。


 バタン!


 二人の後方の扉が勢いよくひらいた。

 そこには巨大なバックパックを背負った少年がひとり、立っていた。

「本日よりこちらでお世話になります、ハヤカワ・ムネチカです!どうぞよろしくお願いします!」

 元気のいい声で深々と頭を下げる少年。

 それにつられて、下半身まる出しのバズと、ズボンを掴んだままのモイラは、ペコリと頭を下げた。

 部屋には軽やかなテクノミュージックが流れていた。


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