琉夏の夏休み

美紘

プロローグ

 私は生まれてから毎年、夏になると母方のおばあちゃんの田舎に遊びに行く。母の実家の周りには田んぼ、山、川ばかりで、同い年くらいの子はいなかったし、公園もない。セミが大声で鳴いていて、鈴虫がリンリンと何か訴えていて、一番近いスーパーは車では10分、歩けばもう少しかかる。うるさくしていても隣の家には聞こえない。


 そんな田舎の御崎町が好きだった。自宅からは車で2時間、父はお盆休みなんてものはとれなかったから、いつも母の運転でいく。たわいない話をしながら、音楽をかけて出かける。自分の専用の大きなリュックに必要なものだけ詰め込んで、母に送られ、おばあちゃんの家で夏を過ごす。母が仕事で家に戻っても、八月いっぱいはおばあちゃんの家にいる。さみしい気持ちもあるけど、なんだか特別で、母自身も夏休みだと嬉しそうだった。


「琉夏はお母さんによく似てるね」


 おばあちゃんはそんな風に私をなでた。何度も何度も。

 お母さんはスーパーマンなのだ。料理も上手で家事が好きで、お仕事もする。私にも優しくて、たまに怒ってもすぐに仲直りしてくれる。綺麗で細くてよく笑う。父もそんな母を頼りにしていて、単身赴任で海外に行って長い。そんな母だから、似てるといわれるのはうれしかったし、自慢だったし、休んでほしいとも思っていた。


 おばあちゃんは腰が曲がってない、しゃっきりした老人だった。畑仕事をするのに、いつも背筋がぴんとしている。母に似ているということはおばあちゃんにも似ているということで、私はそれもうれしかった。母と同じよく笑う目じりにはしわがある。


 そんなおばあちゃんが今年亡くなった。転んで頭を打って入院して、そのまま亡くなった。こんなご時世だから病院にも行けず、帰ってきたおばあちゃんはもう「眠っているみたい」じゃなくて、ちゃんと魂のぬけた塊になってしまっていた。しっかりもののおばあちゃんはずいぶん前から身辺整理をしていて、遺産の行方は事細かに決められて、遺書もあり、私宛のも中にはあった。いとこたちにもあったけど、私だけは分厚い封筒だった。


 おばあちゃんに見せたことのない、高校の制服。全然かわいくない紺のひだスカートとブレザー、赤のリボン。なんにも面白みのない、ダサい制服をおばあちゃんが見たらきっと「大きくなったね」「きれいになったね」なんて言ってくれるのだろう。




 もちろん、きっとあの人も。

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