第14話 理不尽

「ごしごしごしごし」


「ぐしぐしぐしぐし」


俺は歯を磨く。


ミント味の焼き肉のタレで。

その横でピクミンも歯を磨いている。

こいつのはオレンジ味の焼き肉のタレだ。


神から授かった能力は、俺が思うより遥かに強力な物だった。

恐るべき事に、この焼き肉のタレは歯磨き粉の役割まで果たしてくれるのだ。

正に無限の可能性を秘めた、究極の力と言っても過言ではないだろう。


「ごしごしごしごし。がらがらがら……ぺっ」


手にしたコップから水を口に含み、口の中をゆすいでから吐き出した。

タレで作った氷の鏡で磨いた歯を確認する。

うむ、完璧だ。


ピクミンの方を見ると――


「グシグシグシグシ。がらがらがらがら……ごくん!うん!うまい!」


ゆすぐ所までは同じだったが、最後に勢いよく飲み下してしまった。

まあ元はタレだから、飲んでも問題ないので構わないが……


「なあ、一つ聞いて良いか?」


「ん?なんだ?」


「お前って14だよな」


「おう!ピッカピカの14歳だ」


どっちかと言うと、ピッカピカよりムッキムキだと思うがな。

まあこの際それはどうでもいい。


「なんで髭にモヒカンなんだ?趣味?」


明かに14歳の少年がチョイスするビジュアルではない。

確かに似合っているとは思うのだが、もっとこう年相応のビジュアルには出来ない物だろうか?

死ぬ程老けて見えるので、損をしてると思うのだが。


「この方が男らしく見える!冒険者は舐められたら終わりだからな!」


「ああ、成程」


冒険者なんてやくざな商売だからな。

周りに舐められないようにするためか……って、ピクミンは熊みたいな体格してるんだから、そんな事をしなくてもその心配はない様な気もするが。


ま、いいか。


「アホっぽく見えて、実は色々考えてるんだな」


「がははは!俺はパーティーのリーダーだからな!」


ピクミンは豪快に分厚い胸元を叩く。

ドンと鈍い音が響き、その衝撃は振動となって俺にまで届いた。

ほんと、とんでもない馬鹿力だぜ。


「んじゃ、出掛けるわ」


「ん?今日は訓練しないのか?」


「オフだ。オフ。流石に毎日訓練なんてやってられん」


今日は久方ぶりに村の外へ出かける。

大自然を堪能し、その序でに蟻地獄共を血の海に沈めてやるのだ。


ヘルアーントイーターバスター。

略してHABの腕が鳴るぜ。


「ん?」


玄関の方に向かうと、馬鹿でかい馬車が止まるのが見えた。

如何にも金を持ってそうな、成金全開のごてごてしたデザインの馬車だ。


「あれって……」


「おう!レイティじゃないか!」


降りて来たのはフリフリのドレスを着た、ピクミンの幼馴染だった。

その背後には、護衛の黒服共が控えている。


「がはははは!こんな朝からどうした!」


ピクミンがずんずんと大股で馬車に向かう。

一瞬どうしようかとも迷ったが、何の用か興味がわいたので俺もそれに続いた。


「ふん!用事があって来たに決まってるでしょ?でなきゃ朝早くこんな村はずれには来ないわよ」


ピクミン達の家は村はずれに立っている。

レイティの言う通り、用が無ければこんな所に来る奴はいないだろう。


「なあ。ピクミンから聞いたんだけど、お前っておかまな――ぶげっ!ぐごごご」


言葉の途中で黒服にぶん殴られてしまった。

俺は綺麗に吹っ飛び、痛みから頬を抑えて地面の上を転がる。


くそったれ!

俺が言った何したってんだ?


「世の中、口にしていい事と悪い事があります」


俺を殴ったのは、よく見れば女だった。

胸元めっちゃ膨らんでるし、間違いない。


しかし理不尽な世界だぜ。

事実の追及も出来ないとか、異世界恐るべし。


「今のは流石にあんたが悪いわよ」


いつの間にかやって来ていたカティが、冷たい目で俺を見下ろす。

スーカートならパンつ見放題のシュチュエーションだが、残念ながら彼女はズボンだった。


本当に異世界は理不尽だ。

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異世界転生特典は焼き肉のタレ精製能力~一見ゴミだが神の口にする焼き肉のタレには無限の可能性が秘められていた~ まんじ @11922960

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