3頁
野原が途切れるあたりに、小川が流れている。石造りの橋を越えて、だいだい色の瓦屋根が連なる家並みの中へと入り込む。
曲がりくねった通りを抜けると、すぐに教会の前の広場にたどり着いた。
広場には、すでに大群衆がごった返している。
教会の前の階段の上に、馬に乗り鎧に身を包んだ連中が見える。
あれが勇者一行らしい。
あちこちで大勢の歓声が上がり、手にしていた鍬や鋤を突き上げる様子が、周囲の村人の肩越しに見える。
わあわあと騒いでいる老人に話してみる。
「ずいぶんと喜んでいますね」
ちらりとこちらを振り向くが、はしゃぐのをやめない。
だめだ。こいつには話ができない。
今度は、隣り合わせになった若者に話しかける。
「大層な賑わいだな」
今度はこちらに向き直り、にこりと笑った。
「そうだな、何しろあの魔将を倒してくれたんだ」
どうやら話が通じるらしい。重ねてたずねた。
「魔将か、どんな奴だったっけ」
若者の笑いが、そこでぴたりと凍りついた。
「魔将がこの村に来たとき、何をされた?」
笑顔は止まったままで、ぴくりとも動かない。
「覚えていないのか。おい。何か言えよ」
声を荒げたが、答えは返ってこない。
試しに当たり障りない会話に戻してみる。
「確かに、勇者様の活躍のおかげで救われたな」
すると、若者は突然はじかれたように話し出した。
「そうとも、ありがたいことだ。これで平和が訪れる」
この若者は、自分と同じ思いを共にしているわけではない。そう気がついた。
これ以上話しても仕方がない。その場を離れた途端、若者は大声で叫び出した。
「勇者様、万歳!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます