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 そうだ。

 確かに、今朝がたやってきた物売りからそのことを聞いた。

 魔将を倒した勇者一行をたたえるために、皆が集まってきているんだ。

 この村を暴力と魔力で治めている魔将……。

 それを倒したのが、何日か前にこの村を通過していった一行だ。

 村を通りがかったときに、その一行と話をした。

 ちょうど斧の刃がこぼれて、鍛冶屋に出かけたときだ。


 巨大な剣を肩からかけた背の小さい男が、

「スレイラン山嶺はどの道をたどればいいか」

と訊いてきたから、道案内をした。

 その他に、長いつば広の帽子をかぶった女性、重そうな黒い鎧を着たいかつい男に、短いナイフを何本も腰に差した少年、それから導衣を巻きつけてずるずる引きずっている老人。

 皆、黙って小柄な男について歩いていった。


 そのことは覚えている。

 でも、そのとき、自分が連中に抱いた気持ちだとか、道案内してやろうという気になったことなどは、まったく思い出せない。

 自動的に質問に対して答えを返していただけだった。

 まるで、夢の中にいたようだ。


 思わず近くの切り株に腰を下ろした。

 顔を上げると、野原を走る村人たちは、どんどん数を増していく。

 向こうの方で、老婆が足をもつれさせて転んだ。

 走り寄って声をかけた。

「大丈夫?」

 老婆は答えず、すぐに立ち上がって、こちらに目もくれずに、満面の笑みをたたえたまま、再びよろよろと走り出した。


 村の広場から聞こえてくる歓声が、ひときわ大きくなった。

 そうか。あそこに行ってみよう。

 わかるかもしれない。おかしいのは自分なのか、それともこの世界か。

 集まっていく村人と共に、街を目指して走り出した。

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