2頁
そうだ。
確かに、今朝がたやってきた物売りからそのことを聞いた。
魔将を倒した勇者一行をたたえるために、皆が集まってきているんだ。
この村を暴力と魔力で治めている魔将……。
それを倒したのが、何日か前にこの村を通過していった一行だ。
村を通りがかったときに、その一行と話をした。
ちょうど斧の刃がこぼれて、鍛冶屋に出かけたときだ。
巨大な剣を肩からかけた背の小さい男が、
「スレイラン山嶺はどの道をたどればいいか」
と訊いてきたから、道案内をした。
その他に、長いつば広の帽子をかぶった女性、重そうな黒い鎧を着たいかつい男に、短いナイフを何本も腰に差した少年、それから導衣を巻きつけてずるずる引きずっている老人。
皆、黙って小柄な男について歩いていった。
そのことは覚えている。
でも、そのとき、自分が連中に抱いた気持ちだとか、道案内してやろうという気になったことなどは、まったく思い出せない。
自動的に質問に対して答えを返していただけだった。
まるで、夢の中にいたようだ。
思わず近くの切り株に腰を下ろした。
顔を上げると、野原を走る村人たちは、どんどん数を増していく。
向こうの方で、老婆が足をもつれさせて転んだ。
走り寄って声をかけた。
「大丈夫?」
老婆は答えず、すぐに立ち上がって、こちらに目もくれずに、満面の笑みをたたえたまま、再びよろよろと走り出した。
村の広場から聞こえてくる歓声が、ひときわ大きくなった。
そうか。あそこに行ってみよう。
わかるかもしれない。おかしいのは自分なのか、それともこの世界か。
集まっていく村人と共に、街を目指して走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます