第9話  2戦目

 大輔は震えていた。装備は高級品で何故か戦う為の技術が身に付いているが、精神は平和な国の平和ボケした元の日本人のままだ。まだ戦うと言う意味を理解しきれていない。


 殺されたくは無いが、殺す覚悟がない。ダリルは記録の上では敗戦後に対戦相手であるダイスを襲い、ダイスが返り討ちにして死亡、つまり大輔が殺した事になっている。しかし実際は自滅であり、勝手に大輔に躓き、転倒して首の骨を折り死んだのだ。


 今まで面倒を見てくれていたガラグも自分の試合が控えていおり、大輔に構っていられない。しかも控室は異性禁制だからケイトもいないからひとりぼっちだ。


 外からの歓声や怒声、闘技者の悲鳴が聞こえてくる。


 それもやがて静まり返る。


 そして案内役が来て


「坊主出番だ。坊主に掛けたから死ぬなよ。絶対に生き残れよ。ダリル戦での坊主の動きは良かったから、気をしっかり持てば行けるぞ。頑張れよ」


 本来私語は禁じられているが、話しかけてくれたのはこの前の案内人だった。気に掛けてくれていて少し嬉しかった。


「死ぬつもりは無いですよ。因みにオッズは?」


「お前の勝ちが80倍で、更に相手の死亡が1500倍だ。俺は両方に掛けたよ」


「ははは。行ってきます」


 プレッシャーだった。大輔は乾いた笑いを出すのが精一杯だった。本来普段は寡黙だが、練習方針等で意見がぶつかると熱くなり饒舌になる。ただ、スイッチが中々入らないのだ。


 闘技場の入り口にて待機をしている。闘いは終わっていて今は前の闘いの後片付けだった。隙間から覗こうとすると止めておけ、怖じ気づくだけだぞと嗜められた。


 そして司会が次の死合はと言い始めたので、大輔の出番だ。司会が言っているのは試合ではなく、死合なのだが、当然大輔は知らない。


 扉が開かれて大輔は中に入るが外は曇っていた。今にも雨が降りそうな感じだった。


 中央に向かうと反対側の扉から大輔よりもかなり大きな奴が向かってくる。ガタイも屈強で、身の丈位の大剣を背中に背負っていた。大剣に相応しい体格と顔付きだ。年齢は20台半ば位で髪型はモヒカンで一目見て大輔は怯んだ。


「無理ゲーじゃねえか?無理やろ。あかん奴やろあれ。詰んだかな。ついてないな」


 ついついぼやく。


 そう、相手は身長は2m位ある。金属の胸当て、顔がはっきり分かる兜、下は鎖帷子で如何にも強者の雰囲気だ。


 向き合うとその殺気と威圧感に圧倒された。そして震える。既に少しチビっていた。


 司会が何か言い始めていたが大輔には殆ど聞こえなかった。歯がガチガチと震えていたのだ。

 

 相手はぶった切りのラスクと言った。40戦程対戦していて、相手を真っ二つにしたのが25人で、その為にぶった切りと呼ばれていた。


 そして開始の合図だ。大輔はビビリ、何故か握っていたダイスを落とした。出た目は69だ。大ラッキーらしい。癖と言うか、無意識に四六時中ダイスをいじっているのだ。


「てめえがダリルを殺ったそうだな。俺のダチをよくもやりやがったな。てめえが死ぬまで戦うからな。楽には殺さんぞ」


 怒りに顔が歪んでいた。そうしてその大剣を大輔に向けてひと振りした。

 偶々大輔はダイスを拾う為にかがむ。

 すると剣が空を切り、当たる前提で振り抜かれた剣が空を舞ったからラスクがバランスを崩す。大輔はダイスを拾い立ち上がると絶好のチャンスだった。剣を振ると右足に切り傷をつける事が出来た。相手が大輔を甘くみて嘗めていたからでお陰で大輔が先に傷を付けたのだ。


「てめえ、やりやがったな楽に死ねると思うなよ」


 そう、ダメージは殆どない。つまり怒らせただけだった。


 又もや大剣を振るう。大輔は剣で受け流すが、剣ごと体が吹き飛ばされた。


「ぐは!」


 背中から地面に打ち付けられ、肺の空気が一気に抜ける。


 立ち上がると又もや逃げるように走り距離を置く。ラスクが罵声を浴びせ、観客からはブーイングだ。但し今回は逃げる為じゃなく、助走距離を確保する為に走ったのだ。

 早速ブラピジャンプで倒しに掛かる。幸いダリルから頂いた装備は超軽量だ。


 大輔は一気に走り、ラスクに向かう。ラスクは後ろに剣を構え、切っ先を地面に刺し、胴を薙ぐ為のタメに入る。


 そして大輔が右前方に飛ぶのとラスクが剣を振り抜いたのが同じタイミングだ。


 大剣が大輔のお腹があった所を薙ぐ。しかしそこには大輔はいない。そして大剣を踏み台にして更に高くジャンプし、大輔は剣を突き出した。


 狙いが逸れたが、ラスクの左肩から腕にかけてを半ば切断した。

 ブラピジャンプ自体は失敗したが、ラッキーな事に踏み台になる剣が自ら来たのだ。お陰で見事にブラピジャンプが出来た。あのジャンプ力は大輔には無かった。


 ラスクは重症である。

 剣を落とし必死に肩を押さえている。


 大輔は首に剣を当て


「俺の勝ちって事で良いよね?」


「殺せ。情けはいらない」


「降伏してくれないか?拒否するなら気絶させるけど」


「くそー!騙された!てめえ震えていたのは演技か!おまけにションベンまで漏らすなんて演技とは思えないじゃないか。くそ。ダリルを殺ったのは実力かよ!負けだ!降伏する」


 大輔は甘かった。司会に降伏を受け入れる為の合図を送る為、ラスクに背を向けた。丁度、雨が降ってきて、遠くで雷が鳴り響いていた。

 ラスクに背を向けて腕を突き出した


「見ての通りだ。降伏を受け入れる」


 大輔が降伏受諾を宣言している最中に観客が騒ぎ出した。


 なんとラスクが大剣を片腕で掲げたのだ。勿論大輔を斬る為に。


 異変を感じ振り向くと正に剣を振りおろそうとしていた。


 大輔はひぃーと情けない悲鳴を上げ、その場にへたりこみ、殺されると理解出来き、恐怖で大量に失禁した。


 剣が振り下ろされかけると雷が鳴り響き大輔は吹き飛ばされた。轟音と共にラスクの掲げた剣に雷が落ちたのだ。


 そして小さな雷が大輔に落ち


「スキルを咀嚼し再構築できます。戦闘スキルが既にある為戦闘スキルを強化した残りで新たなスキルを得られます。何にしますか?」


 周りの時間が止まっていた。体は動かないが、頭は働く。


 取得できるのはラスクが素質を持っていたスキルらしい。


 ダリルが死んだ時にこれで戦闘スキルを得られたのだとなんとなく理解した。


 頭の中にディスプレイの様なのが表示が現れ、リストがスクロールする。そして欲しいのが有った。

 回復魔法上級だ。

 どうやら初級と中級は既に取得していると分かった。

 奴隷の首輪で魔法が封印されているようで分からなかったのだ。


 そして上級にはエリクサーなる魔法があり、全ての怪我、傷跡、欠損、異常を回復出来ると。また、一日一回限定で死者蘇生が可能な魔法も使えるらしい。迷わず選ぶ。


 但し今は封印状態だ。


 そして時間は流れ出すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る