第2話:追放された元勇者は国を去る

「ほら元勇者様。忘れ物の持ち物だ。安心しろ、中身はそのままだぜ。まあいくらかは拝借したがな」


 そう言って衛兵は笑みを浮かべながらレイドが元々持っていた荷物の麻袋を投げ渡した。


 地面に落ちた荷物を掴みゆらゆらとふらつきながらも立ち上がったレイドは、おぼつかない足取りで城の階段を下っていく。


 まずは体を休めるところと食事が出来る宿の確保が優先だ。

 衛兵の言った通り中身はほとんどがそのままだが、あれだけあった金が二週間ギリギリ暮らせる額となっていた。

 残っているだけマシである。


 そうしてレイドは傷だらけで至る所から血が出ていたが、布で止血だけをし宿へと急速を取りに向かった。

 フードで顔を隠しており素顔が見えず、着いた宿の主人には訝しむ視線をレイドへと向けていた。


「……お一人様で? 何泊されるご予定でしょうか?」

「一人で七泊だ」

「分かりました。七泊でしたら七万ゴールドになります」

「ああ」


 レイドは金を宿の主人へと支払う。


「丁度頂きます。食事に関しては別料金となっており、お金さえ頂けられればすぐにお作りいたします」

「ああ、ならすぐに頼む」

「畏まりました。では料金は千ゴールドいただきます」


 支払ったレイドは一度部屋に案内してもらってから食事を始めた。

 食べていなかった分、何度もお代わりをし腹を膨らませた。

 そして体を洗いレイドは布団へと入り深い深い眠りへと落ちるのだった。





 レイドはゆっくりと閉じていた瞼を開いた。

 そこに丁度ノック音が響き声がかかる。


「お客様、起きておられますか?」

「あ、ああ。今起きたところだ」

「良かったです。あれから下にも下りてこないので何かあったのと」

「あれから?」

「はい。宿泊は今日で終わりですが延長なされますか?」


 そこでレイドは自分が一週間も寝ていたことに気が付いた。

 体を見るも傷は塞がっており体力も大分回復し万全な状態へと治っている。

 元々自己治癒速度と体だけは異常で頑丈だったからだ。


「延長はしない。準備をしたらすぐに下に行く。あとすぐに食事を頼む」

「かしこまりました」


 そういって宿の主人は下へと下りて行った。


 レイドも支度をして下へと下りていく。もちろんフードを被ったままだ。

 金を払い食事をしたレイドに主人は声をかけた。


「お客様、そういえば聞きましたか?」

「……何がだ?」

「でしたらお話いたします」


 そう言って主人は語りだした。


 それは新たに勇者が選ばれたということだった。

 前の勇者、つまりレイドは偽物だったと。


「私も薄々思っていたのですよ。聖剣を持たない者が勇者のはずがないと。一度抜けたのは単にまぐれ。前勇者のレイドという奴は各国に勇者を偽った愚か者として全ての国にて指名手配されています。生死を問わず捕らえた者には多額の金が支払われるそうですよ。一生遊んで暮らせる大金が貰えるとか」


 偽りの勇者を捕まえようと民ははしゃいると。

 なんせ一生遊んで暮らせるほど大金が手に入るのだから。


(奴等そんなことを……だがまあいいか。俺は国を出て行くからな)


「そうか。俺は興味が無いな。ではもう行く。あと美味かった」

「そうでしたか。ありがとうございます。ですがじきに夜ですが?」


 窓を外を見ると日が沈みかかっていた。

 数時間しないで夜になるだろう。

 だがだが手配書が回っているのならこのまま何事も無く検問を抜けるのは不可能だろう。


 検問している兵士だってレイドの賞金がほしいからだ。


「問題ない」

「わかりました。ではまたのご利用をお待ちしております」


 宿の外に出たレイドは歩く。


(お前等の為に俺は命を賭け魔族と戦ったのに、その感謝を忘れるとは愚かな者達だ)


 そんなことを思いながらも、レイドは王都を囲む高い壁を見上げた。

 壁の向こうに行くには門を抜けなければならない。だが、抜けるには出るにしても入るにしても必ず身分証を見せる必要があった。


「夜になるまで待つか」


 それまでの間は食料を買い込んでいた。主に日持ちする乾物だ。丁度仮面もあったので仮面も購入した。


 そうして正体がバレることなく夜となった。

 レイドにとって気配を消すことは容易だったため、巡回中の兵士にも見つかることは無かった。 


 再び壁の前に立ったレイドは真上と跳躍すると、地面に小さなクレーターを形成し高く上空へ跳躍した。そして壁の上へと下り立ち王都を睥睨する。


「さて、こんなクソな国はもう用は無いな。守った恩を仇で返すとは。この借りはいずれ返す。それまでは精々足掻いていろ」


 そう言い残しレイドは手に持った仮面を付け壁の向こう側へと消えていった。


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