5-08 ★章ラスト

「……《神々の死境》で、一人で生きていた時はさ」

「……ふぇ? な、ナクト師匠?」


「自分だけのコトを考えていれば、それで良かった。当たり前だよな、自分一人しかいないんだから。その生活は、気楽で、適当で――そして、退屈だった。……けど、ある日、そうじゃなくなった。《姫騎士》を名乗る、一人の女の子と出会ってからはな」

「! それ……その女の子、って……」


 真っ直ぐ見つめてくるレナリアに、ナクトも目を逸らさず見つめ返していた。


「旅に出てから、色々あったよな。逆流して川を越えたり、《水の神都》でゾンビを倒したり、山を飛び越えて、《城塞都市》では巨人と戦ったり。それで……最初はローパーにも勝てなかった女の子が、今や《魔神》も討ち倒す〝真実の希望〟の《姫騎士》だ」

「あ、わっ……私はそんな、大層な者では……ま、まだまだ未熟でっ」


「まあ最初、弟子にしてくれとか言いつつ、半裸になって迫ってきた時は驚いたけどな。……けど、楽しかった。どんどん成長していくレナリアを見るのは――楽しかった」


 見つめ合ったまま、ナクトは素直な心を隠さず、思い切り笑いかけた。


「俺はレナリアを、誇りに思う。レナリアは、俺の――自慢の弟子だ!」

「―――――!」


 瞬間、風が吹いたように、レナリアの涙は弾け、宙を舞って煌き――


「―――はいっ♥」


 天使を思わせる、光り輝く笑顔を、満面に湛えるのだった。


 ……さて、そこまでは黙って様子を見ていた、リーンとエクリシアだが。


「……あらっ。ナクト様ったら、レナリアちゃんばかり構って……わたくしとエクリシアちゃんの事は、どうでも良いのでしょうか~……?」

「悲嘆、極マレリ……(悲しいです、よよよ……)」


 悲しみに顔を覆う姿は、何ともわざとらしいが――妙に真面目な所のあるナクトは、慌てて二人に弁解した。


「そ、そんなコトはないっ。どうでもイイなんて、思ったコトはないぞ! 本当に――」


 冗談で、軽くからかってきた、そんなリーンとエクリシアに。

 ナクトは、ひたすら真剣に、真っ直ぐな眼差しを向けて――


「リーンも、エクリシアも、俺にとって――かけがえのない、大切な仲間だ」

「「! ………♪」」


 ふわっ、とリーンが口元を綻ばせ、兜で見えないがエクリシアも眼を細め。

 レナリアも、二人へと、満面の笑顔を向ける。


「もちろん、私にとっても、ですっ――ねっ、リーンさん、エクリシアさんっ♪」

「――ええっ。もちろんですわ、レナリアちゃんっ♪」

「至極、当然ッ……!(はいっ、当たり前、ですっ……♪)」



〝終わりの地〟――全てが〝終わり〟と向き合う、この最果ての地で。

 人々を〝終わり〟から救った、四人の周りには。


〝世界〟が祝福するかのように――暖かく、和やかな風が、吹いていたのだった。


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