5-07

 ……何はともあれ、こうして《魔軍》を、そして首魁たる《闇黒の女神》をも倒し……ナクトも脱ぎ捨てたマントを、羽織り直した。大事だ、とても大事なことです。


 そうして、確定した勝利を、レナリアが口にして――!


「わ、私達……夢じゃ、ないんですよね……これで、本当に……勝利を――!」


「――いや、まだだ、レナリア」

「いやーっ! もういやですーっ! お腹いっぱいですー! やーん!」


 ナクトの制止に、子供のようになってしまうレナリア。

 だが、ナクトは分かっている――分かっているからこそ、緊張感は解かぬまま、厳しい表情で言葉を続けた。


「……作戦通りに、いかなかったからな。堪えきれなかった、俺の責任だ。だが……俺はまだまだ、戦える。最後に出てくる、最も強大な――俺が苦戦する強敵とも!」

「「「………ゑ?」」」


「で……その強敵は、どこだろう? 《世界》を装備している俺でも、感じ取れないんだけど……いや、だからこそ強敵ってコトか。よし、皆……俺の後ろに隠れていろ!」

「「…………」」「あ、はーい、ですわー♪」


 呆気にとられる、レナリアとエクリシア……あ、リーンはここぞとばかりに、言われた通りナクトの背中に隠れていた(抱き着いていたともいう)。

 つまり、どういう事なのか……要約して、簡潔にまとめるなら、だ。


 人類を滅ぼす《闇黒の女神》でさえ――ナクトにとって、強敵とさえ認識されなかった、という事である――……


 ■■■


《闇黒の女神》を倒した後、それが最後の敵だったという説明をナクトが受けると、『そうなんだ……』と何とも言えない表情になっていたが。

 とにかく、これで――最後の戦いが、終わった。

 人類を滅ぼす脅威は全て撃退し、後は胸を張って帰るだけ。リーンとエクリシアも、それぞれ帰還の準備を始めていた。


 ……それなのに、ただ一人、端正な顔で浮かない表情をする者が。


「………はぁ………」


 ため息を吐くのは、間違いなく功労者たるレナリア。

 一体どうしたのだろう、とナクトは俯く彼女へと歩み寄るが。


「……レナリア、どうした? ため息なんて吐いて……さすがに疲れたか?」

「……あっ、ナクト師匠! いえ、まだまだ動けます、疲れてなんて――」

「疲れてるなら、俺が運んでいこうか? 抱えるなり、おんぶするなり」


「はぃ――……ッ! い、いえっ……ぐ、うっ……大丈夫、ですぅ……!」


 何か飛びつきかけたのを慌てて我慢したような、そんな気配をレナリアは発していたが、どうにか我慢したらしい彼女は、ナクトへと素直な心境を吐露した。


「その、大した事では、ないのです。ただ……ただ。結局、私、ナクト師匠に頼り切りで……何のお役にも、立てなかったな、って……」

「……え? いや、そんなコトないだろう。《魔軍》と、あんなに必死で戦って――」


「だってっ! 《闇黒の女神》には、全然、歯も立たず……〝共に戦う〟なんて、言っておいて、私……情け、なくって……っ」


 呟きながら、ぽろり、その円らな目から宝石のような滴が落ちる。


 そうだ、レナリアは元々、責任感の強い少女だった。〝人類の希望〟などという重圧を押し付けられて、どんなに恐ろしくても、懸命に応えようと切磋琢磨するほどに。

 そんな彼女が、今は『ナクトの役に立てなかった』と、嘆いている。


 その事実に、ナクトの胸は締め付けられ――反射的に、言葉を発していた。

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