第四章 束の間の休息、それこそが、〝最強全裸〟にとって最大の戦いだった
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《魔軍》のみならず、数多の魔物蔓延る、北の最果ての地――そこへ赴く前に、ナクト達は準備を整えるため、立ち寄った別の都市に滞在していた。
その名も《商業都市バッカス》――文字通り商業が活発で、活気のある都市だ。
《城塞都市ガイア》が戦時色の強い地である一方、少し離れた南南西にあるこの商業都市は、反比例するように民間人や商人が集まりやすくなっている。
更に、つい最近、物流を大いに妨げていた《死の山》が消滅した事で、都市内部はこれまでになく活性化していた。
とはいえ《魔軍》の脅威がある内は、本格的に盛り上がるのは先の話だろうが――それでも、準備を整えるのには、充分すぎるほどの品物が集まっている。
レナリア達も、来たる決戦に向けて、準備に忙しそうだ。
……ただ、ナクトに関しては。
「………暇だな」
基本、戦う術にしても《
つい最近〝一人の寂しさ〟を感じるようになった(自覚なし)ナクトとしては……都市で最も豪華な宿の広い一室で、一人ぼっちというのも、手持無沙汰にも程がある。
と――コン、コン、コン、というノックの直後、扉を開いて差し伸べられた救いの手は、漆黒の籠手に覆われていて。
「……ナクト、サン(あ、あのっ、ナクトさん……今、いいですか……?)」
「ん? ああ、エクリシア。準備はどうしたんだ?」
「……無問題(あ、わたしは元々、この商業都市や城塞都市を拠点に、よく行き来してましたから……改めて準備するもの、ないので……だから、問題ありませんっ)」
なるほど、準備は早々に終わった訳だ。それはナクトにとっても朗報、彼女が迷惑でなければ、話し相手になってもらうか、あるいは一緒に行動するのもいいだろう。
しかし提案は、むしろエクリシアの方から持ち出された。
「……暇、カ?(ナクトさん、あの、もしも……あっ、お忙しかったら、遠慮しますけど……で、でも、もしも今、お暇だったら、ですけどっ……)」
「ん? ああ、特に用事はないけど」
「……ナラバ(そ、そうなんですかっ? ほっ……じゃ、じゃあっ。それなら……っ)」
当然ながら、兜はがっつりかぶっており、表情は読めない。ただ、重装の内側から外側へと、戦場に立っているかのような緊張感が溢れていた。
そして、ついに意を決したエクリシアが、重兜の向こうから発してきたのは。
「イザ……ユカン(い、い――一緒に、おさんぽっ! ……しませんかっ……?)」
まるで戦いに誘うかのような発言だが、エクリシアの本音という名の副音声は、非常に和やかな内容だった。
■■■
《商業都市バッカス》は、その名を冠するだけあって、宿を少し離れるだけでそこら中に露店が出ていた。中には食欲をそそる間食も売っていれば、煌びやかなアクセサリー、曰くありげな装備を置いている店もある。
なるほど、暇を潰すにも、散歩するにも、絶好の場所だ。
「垢抜けた《光の聖城》の城下町とも、《水の神都》の上品さとも、《城塞都市》の騒々しさとも、違うな。色々な品が集まって、活気がある。まあそれぞれの街に、それぞれのイイところがあるし、甲乙つけがたいけど。なあ、エクリシア。……どうした?」
ナクトが、なぜか三歩後ろを歩いているエクリシアに、声をかける……が。
「………フシュウウウウウウ………!」
「エクリシア、どうしたんだ本当に。副音声もないぞエクリシア」
漆黒の重装の隙間から、謎の蒸気を噴き出すエクリシア。なんだろう、彼女なりの散歩法なのだろうか。聞いてみたい。興味が尽きない。
ちなみに、そんな異様な雰囲気の《
「ひ……ヒイッ!? あ、アレは《剛地不動将》……よ、様子がおかしいぞ……!?」
「そ、そういえば最近、《城塞都市ガイア》を襲う巨人軍団と戦って……それら全て八つ裂きの血祭りにあげた、って聞くぜ……!?」
「南の《死の山》を消し飛ばしたのも、《剛地不動将》だとか……恐ろしいザマスわ!」
「そういえば飯食ってるとこ見た奴もいねぇから、敵の返り血が主食なんだとか噂で聞いた気が……ま、まさか本当の話で、血に飢えてるんじゃ……!?」
「フゥゥゥシュウゥゥゥゥゥッ……!!」
「「「ひ、ひえええええお助けえええええ!?」」」
多分、九割は誤解による脚色だ。ただ、今この瞬間、様子がおかしいのは事実。
遠巻きにだが、注目を集めてしまっているエクリシアが――いつの間にやら、音もなくナクトの傍に近寄ってきて、ちょこん、とマントの裾を掴んだ。
「フシュウウウウッ……! ナ、ナクト、サンン……(な、ナクトさんん……)」
「! エクリシア? もしかして、体調でも悪いんじゃ――……いや、違うな……?」
体調が悪い、消耗している、というのなら、《世界》を通してナクトは気付く。
だが、そうではない。エクリシアの健康は、出会った時から絶好調だ。
今、エクリシアの異常の理由は、間違いなく――漆黒の重装の下に隠れている――!
「《世界連結》――《
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