3-04

「俺も、戦うとしよう――まあ、何とかなるだろう」

「え。……ええっ!? そんな、あんな巨人の大群と、たった一人でですか!?」


「いや、一人じゃないぞ。《剛地不動将》……だったよな。ほら、これで二人だ」

「え、えええ……? でもあまり、一緒に戦ってくださる感じでは……」


 レナリアが危惧を口にしている、その間に。


「……―――ハッ!」


 黒騎士は地を蹴り、巨大な敵へ向けて、迅速に駆け去っていった。

 その行動に、レナリアは呆然としているが、ナクトは感心した声を出す。


「おぉ……重そうな鎧を着ている割に、早いな。身体能力からして高いんだな」

「……い、いえ、そんな呑気にしている場合ではないですよーっ!? どう考えても、一緒に戦ってくれる雰囲気ではないですし……わ、私、ナクト師匠が、心配ですっ……」


 レナリアの言葉は心底からのもの。心配してくれるのはありがたいが、とナクトが少し困っていると――歩み寄ってきたリーンが、レナリアを穏やかに促す。


「レナリアちゃん、行きましょう。怪我人を放置する訳にもいきませんし――役割分担は、必要ですもの。ナクト様の判断は、正しいですわ」

「えっ? り、リーンさん……で、でもっ!」


「それともレナリアちゃんは、ナクト様を信じられませんか?」

「! ………っ」


 つい先ほど、〝信じる〟と発言したのは、レナリア自身だ。ぎゅっ、と小さな手を握りしめながら、レナリアは顔を上げて決断した。


「わかりましたっ……ナクト師匠、どうかご無事で……ご武運、お祈りしています!」

「ご安心ください、ナクト様。わたくし、治療術も得意ですの――治療が終わりましたら、すぐに合流いたしますわっ!」


 ナクトの指示通り、怪我人を救うため、レナリアとリーンが駆けていく。

 二人の背を見送ったナクトが頷く一方、《剛地不動将》の戦いぶりはといえば。


「……《剛地連擲アース・スローズ》……! アアアアア!!」


 地に無数に落ちている、剣や槍の数々を――無双の剛力で、次々と投擲する――!

 矢の如く飛翔する刃達に、堪らないのは巨人の群れだろうが、それは投げられた装備達も同じ。着弾するたびに、剣や槍は耐え切れず崩壊していく。


 何とも豪快な戦い方だが、そんな戦い方をしていれば、落ちていた装備が底を尽きてしまうのも当然で。


「……ヌーン……」


 ついに、投げるものが無くなってしまい――《剛地不動将》が選択したのは。


「………フンッ」


 飛び上がり、刺さった刃を痛がる巨人の、その巨腕にしがみつくと。


「――セイッ、ヤアアァァァァァ!」

『グオッ……グオオオオオンッ!?』


 巨人の巨体を反転させ、投げ飛ばしてしまった――……

 豪快、を通り越し、無茶苦茶といえるかもしれない。ズン、と巨体をひっくり返した地響きが、ナクトの場所どころか、城壁をも揺らしているほどだ。

《剛地不動将》が着地すると、ズン、と更に地響きが……続けて、ズン、ズン、と……。


 ……違う、この地響きは、もっと遠く――〝北〟の方から、響いてきている。


《魔軍》が存在するという北の地、しかしそちら側は濃霧に覆われていて、見通せない。断続的な地響きだけが聞こえてくるだけだ。


「……………!」


 重鎧を着こんでいても、《剛地不動将》に緊張感が奔ったのが、ナクトには伝わる。

 一体、何が来るのか――やがて、濃霧をかき分けながら、姿を現したのは。


 巨人どころか、生物でさえない。遥か太古に失われた技術で造られし、異形の鉄塊。

 それは、動く山の如く巨大な――《駆動要塞タルタロス》。

 かつて、自らの生みの親たる古代文明を、暴走によって自ら滅ぼしたといわれる、狂える〝古代兵器〟だ――


 兵器たる存在には、感情もなければ情緒もなく、然らば当然、躊躇もない。

 前面の砲台の一つが《城塞都市ガイア》の方を向き、砲門に光が収束していくと――その間に駆けだした黒騎士が、ガントレットに覆われた両手を地面に突く。


「ッ……《剛地不動盾アース・ヘヴィ・シールド》……!」


 手を突いた地面が大音を立てて隆起し、城塞都市の城壁にも匹敵する、巨大な大地の盾を作り上げた――が。

 砲門から、カッ、と閃光が迸った、その刹那。


 発射された、一筋の〝破壊光線〟が、大地の盾と正面衝突し――!


「……グッ……ウアアッ!」


 最高レベルの〝地〟属性の能力で造り上げられた剛盾、それでさえ、どうにか古代兵器の〝破壊光線〟を逸らすのが限界で。


 光線は、《城塞都市ガイア》の後方――《死の山》を、消滅させた――


 もし、あれが《城塞都市ガイア》を襲っていたら――そう考えるだけで、その場で見ていた人間全員、《剛地不動将》でさえも、冷や汗が流れているはずだ。

 これには、さしものナクトとて……。


「アレは……確か《神々の死境》の奥地で、似たようなのを見たコトが……マズイな」


 何と、人類不可侵の危険領域《神々の死境》レベルの大敵らしい。

〝マズイ〟と口にしたナクトが、地を蹴って一瞬で《剛地不動将》の隣に移動して。


「――大丈夫か? ほら、立てるか?」


 手を差し伸べる、が、《剛地不動将》の対応は。


「ウ、ウウ……ッ!? サ……触ル、ナッ!」


 ばっ、と手を振り払う……とはいえ、先程の〝破壊光線〟の一撃が尾を引いているのだろう、強がっていても立つ事もままならないようだった。

 兜の隙間から、ぜえ、ぜえ、と疲弊の息を漏らす《剛地不動将》を見て――仕方ない、とナクトは背を向けて。


《剛地不動将》と――《駆動要塞タルタロス》との間で、仁王立ちした。


「!? ナ……ナニ、シテル。逃ゲロ……!」


 言葉少なに促してくる黒騎士に、ナクトは背を向けたまま答える。


「アレは、かなりマズイからな……俺も、気は進まないんだけど」

「マ、マズイ、ナラ……早ク、逃ゲ……」


「全く、ゾンビといい、ゴーストといい……古代兵器といい。趣味が悪いというか」

「? ナ、ナニ、言ッテ……」


 はあ、とナクトはため息を吐くが、その間にも――《駆動要塞》は砲門に、新たに光を収束させている。しかも、今度は複数、ある限りの砲門を用いて。

 遠目にそれを眺めながら、ナクトはゆっくりと屈みこみ、マントの隙間から伸ばした両手を大地に突き――述べたのは。


「《魔軍》は〝食えないヤツ〟ばかりだな、文字通り。

《世界連結》―――《金剛天穿槍ダイヤモンド・ピアース》――!」


 それは《世界》を装備したナクトが操る、〝地〟属性最大の一撃。

《駆動要塞タルタロス》の真下から――天を貫かんばかりの、塔同然の高さを誇る。


 ――〝ダイヤモンドの槍〟を、創造してしまった――!

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