1-11

 跪いたまま見上げてくるレナリア、その真横に立つナクトが、女王と向かい合うと。


「あら……まさかこの私に、言いたい事でもあるというのかしら? それは、勇気ではないわ、蛮勇というのよ。さっさと口をつぐんで――」


「まあそう邪険にせず、話くらいは聞いてくれないか?」

「はい。……は? えっ……えっ?」


 素直な肯定が、まさか自分の口から出たとは信じられないのは、女王。

 対するナクトは肯定を一方的に受け取り、戸惑う女王へと言葉を投げかけた。


「要するに――たとえ今現在《魔軍》が迫っていようと、ティアラの力を引き出せていないレナリアでは、勝ち目がない。だから、無駄死にするくらいなら、城で大人しくジッとしていろ、と……そういうコトだな?」

「っ……え、ええ、そうよ。だったら何か、文句でも――!」


「いや、別に文句はない。女王さんの立場ってヤツを考えれば、その選択も仕方がないんだろうな、と思うよ」

「………えっ?」


 ナクトの言葉が反対でなかったのが、心底意外だったのか、目を丸くする女王。

 そういう驚き方は、やはり親子だな、とナクトは苦笑しつつ続ける。


「人類が滅亡しかねない脅威に対して、人々の希望を示さなければならず、同時に娘の……レナリアのコトだって、守ってやりたいんだよな。わかるよ。それが例え、〝偽り〟という服を着るような話だろうと……そうだろう?」

「は、はい……あ、いえっ。その、私は……っ」


 ナクトから与えられる言葉に、素直な反応を返してしまう、その事が女王には不可思議で、その胸中は戸惑いに満ちているようだった。


(ど、どうして、こんな怪しいマント男の言葉が……こんなにも、胸にすんなりと、落ちてくるの……? この男の……か、彼の説得力は……何なの?)


 厳格なる女王にさえ、有無を言わさぬナクトの説得力は、単に言葉だけの力ではない。


《世界連結》――《世界》を装備しているナクトの発言は、《世界》に溶け込み、想いが素直であればあるほど、まっすぐ相手に届くのだ。

 仮にナクトの言葉に、感情に反する邪な意図があれば、今のような説得力はなくなる。とはいえナクトが、そんな邪を抱く事はありえない。裸の男は、素直なのだ。


 とかく、ナクトはその《世界》と溶け合う説得力で、女王に言い聞かせていた。


「でもな、女王さん。母だからとて、キミと娘は、同じ人間ではない。この《世界》には、何一つとして、全く同じものなど存在しない」

「! あ、う……それ、は……っ」

「もう少しくらい、ちゃんと話を、聞いてあげてくれ。キミの娘は、キミが思っているより、ずっと気高く――ずっと、強い心を持っているぞ」


 言い終えたナクトが、跪くレナリアに微笑みかけると――レナリアは瞳を潤ませながら、こくり、勢いよく頷いた。


「ナクト、師匠……ありがとう、ございます。レナリアは……レナリアは……ッ!」


 まだ戸惑い続ける女王に、もはや震えの止まったレナリアが、改めて話しかける。


「お母様――いえ、女王様。どうか今一度、レナリアの話を、お聞きください」

「っ! き……聞くまでもないわ! いいから貴女は、黙っていなさ――」


「いいえ、黙りません! かつて私など到底敵わないほど強く、真実の《姫騎士》だった女王様。貴女から見れば、私は力足らず、世間知らずの、弱弱しい小娘でしょう。その事を、否定はできません。ですが私は、レナリアは――いつまでも、貴女の知る弱い女では、ないのです! それを、今この瞬間――証明して見せます!」


 今こそ見せる、〝偽り〟を〝真実〟に変える、鋼よりも固き意志。

 レナリアが、その小さな手で力一杯、がっ、と己のドレスアーマーに手をかけて――!


「これが、レナリアの―――覚悟ですっっっ!!」

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