1-09
レナリアが寄りたいと言った場所、そこは、城下町でも最高級の〝装備〟を仕入れる店。それも王室関係者ご用達の、超高級装備品店だった。
扉を開けたレナリアが、そういえば、と中断していた話を再開する。
「〝装備のランク〟の話ですが……《兵装クラス》の上、〝ランク3〟は《稀品クラス》と呼ばれます。ここまでくるとレアな部類で、易々とは手に入りません。それこそ、一部の……ここのように、特別なお店でしか、仕入れられないほどなのです」
話しながら、レナリアとナクトが店内に足を踏み入れると、程なくして上品な美しさを備える女店主が姿を見せる。
「まあっ。これは姫様……ご機嫌麗しく。ようこそ、おいでくださいました」
さすが、弁えているというべきか、先の民衆のように狂騒に陥る事はない。
高級品店だという割に、客はレナリア達以外に見当たらないが、繁盛していない訳ではないだろう。店側が客を選べるほどのレベル、という訳だ。
その事は、毅然とした女店主の言動が、如実に表している。
「本日は、どのような御用向きでしょう? お呼びつけ頂ければ、お城にまで伺いますのに……或いは何か、特別な事情でも、おありでしょうか?」
「ふふっ、お見通しですね……その通り。私は、新たなる力への手がかりを掴みました。その力を手に入れるための、準備として……ここで装備を、自ら見繕いたいのです」
「! 新たなる力……ですか。当店は確かに、城下町随一の装備店を自負しております。されど今、姫様の身に着けておられる〝ドレスアーマー〟のような、《国宝クラス》と同等以上となれば……さすがに……」
「ご安心を。高いランクの装備が必要、という訳ではありません。私が求めるものは、もっと別の……それこそ、新たなる力、なのです」
「……なるほど、かしこまりましたわ。期待に沿えるかどうかは、分かりかねますが……精一杯、務めさせて頂きます。準備いたしますので、暫しお待ちを……」
レナリアの只ならぬ雰囲気に、女店主も緊張気味に、店の奥へと消えていく。
一方、レナリアはナクトへと、補足の説明をしてくれた。
「説明が後になりましたが……〝ランク4〟に分類されるのが《国宝クラス》で、私が身に着けているドレスアーマーも、その類です。薄手に見えても、強力な結界で守られているおかげで、鋼鉄よりも守りが固く、炎や氷にも耐えられるですよ♪」
なるほど、人が生きられぬほど瘴気の濃い《神々の死境》でレナリアが活動できたのも、その《国宝クラス》の〝ドレスアーマー〟が彼女を守っていたおかげだろう。
そしてもう一つの要因、頭のティアラを指しながら、レナリアは締めくくった。
「そして、最高位の〝ランク5〟が《神器クラス》――数え切れるほどしか世界に存在せず、おまけに使い手を自ら選ぶため、普通なら手に入れる事は限りなく不可能に近いです。私の《光神の姫冠》が、まさにその《神器クラス》の一つ。……ご存じの通り、私にはまだまだ、使いこなせていませんが……必ず使えるように、なってみせます……!」
ぐっ、とレナリアが握った拳は、決意同様に力強く――ナクトは彼女の悲願成就を祈りつつ、話をまとめた。
「つまり、下から順番に……《一般クラス(ランク1)》→《兵装クラス(ランク2)》→《稀品クラス(ランク3)》→《国宝クラス(ランク4)》→《神器クラス(ランク5)》、となるワケか。……ところでレナリア、その場合、俺の装備である《世界》は、どのクラスとランクになるんだ?」
「! それは……レナリアにも、分かりません。〝世界を装備する〟なんて、あまりにも話が大きすぎて……少なくとも《神器クラス》かな、とは思うのですが……」
「そうなのか。……それじゃまあ保留で、《世界(ランク?)》としておくか」
「はいっ。けれど……ふふふっ、私はナクト師匠のおかげで、ヒントを得ました。このお店に来たのも……そのためなのですよっ♪」
ナクトに弟子入りしてから、テンションお高めのレナリアさん。弾んだ様子の彼女に、準備と覚悟が整ったらしい女店主が現れ、改めて声をかけてきた。
「お待たせ致しました、レナリア様――さあ、お申し付けくださいませ。《国宝クラス》とは言わぬまでも、当店の誇りをかけて――貴女様のお望みに、応えてみせます!」
「ふふっ、心強いですね……では、お願いします! 私が……私が求める装備は――!」
「は、はい! 天地を斬り裂く無双の宝剣でしょうか? それとも攻撃を無効化する至宝の盾でしょうか? 総てを貫く剛槍、祝福されし神々の法衣っ……!? 人類の希望たる《光冠の姫騎士》が求める装備とは――一体!?」
上品な女店主でさえ、その場の熱量に心昂り、前のめりで問いかけてくると。
レナリアが、どこまでも真っ直ぐ、堂々たる口調で求めた――その装備とは――!
「この店で、一番―――布面積の少ない装備を、お願いしますっっっ!!」
「ははっ! かしこまり――……姫様?」
いやだわ、聞き違いかしら――そんな心の声が、女店主から聞こえる気がした。
そうだ、聞き違いだ。レナリアの言葉を、もっと良く聞いてみよう。そうしたら――
「露出が多ければ多いほど、良いです。遠慮は無用。レナリアは、新しい〝世界〟を開きました。さあ、惜しみなく曝け出してください!」
「姫様!? お気を確かに、姫様ーっ!?」
〝世界〟は残酷なほど正直で、聞き違いなんて、全くなかったらしい。
女店主の困惑は尤もだが、その後も目を輝かせて〝布面積の少ない装備〟を求め続けるレナリアへの対応に、苦労したようだった。
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