トンネルの先のその暗闇の中
あから。
第1話 仮婚約者の彼 A
贈り物を贈ることは貰う事よりもワクワクする。そんな私は、6回目のクリスマスプレゼントを選んでいた。Aの好きなメーカーの靴、決して安くはないがお揃いで買った。ブラウンとベージュのシンプルな秋冬スニーカー。隣の隣県で暮らしていたAは大学院生で私は社会人だった。クリスマスまであと10日あまりだ。
Aとは高校の同級生だったが、16歳から交際し、19歳の時に別れた。よく聞く高校を卒業して別々の大学に進学したことで離れた事が原因だ。のちに、同窓会に参加した24歳の時に再会して、それから時間もかからないままによりを戻した。高校生の時からお互いの家にも出入りしていたし、両親とも仲が良かったから、よりを戻したことについては、Aの母親には大変喜んでもらった。個人的にもAの母親とも遊びに行くような仲になっていた。
大学院生で勉学に勤しんでいた彼は、
「結婚は30歳くらいになると思うけど、ごめんね。」
と、25歳の時に言われていた。特に結婚時期についてまだ考えていなかったし、Aと一緒にいる事が目的だったので、快諾していた。
クリスマス、何処に行こうか。何を食べようか?楽しみで色々な想像と妄想尽きない。交際が長い分馴れ合いや安定感はあったが、常にトキメキを与えてくてる、私には勿体ない程の彼氏だった。大好きだった。
プレゼントを買って、数日、クリスマスまであと1週間を切った。約束はしてある。行き先はまだ決まってない。仕事を終えて18時を過ぎた頃だった。よく覚えている。携帯を取った。Aからメールが来ていた。
ー好きな人ができた。別れて欲しい。ー
12月の18時はもう太陽は沈み暗い。職場の中はきっと蛍光灯でギラギラしていて、外の闇の色をより深く感じさせていたのだろう。私にはその時の景色は記憶にないし、目の前が真っ暗になり、心臓がドクンと1回だけ大きく跳ねたことだけが記憶に残っている。
そうして私は、出口の見えない「結婚」という名のゴールへ向かう暗くて長いトンネルの前に立つことになる。
27歳の時だった。
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